第17話色付く

「ここがわしの一番のお気に入りの場所だ」


“良い場所(ところ)であろう?”と、満面の笑顔を見せる高校生-縹宝(ハナダタカラ)は、クラスメイトの天霧蜜持(アマギミツジ)を連れ、バスに揺られながら、とある神社へとやって来た。


聞けば、ここは彼がまだ下界の生活に慣れない頃によく駆け込んだ神社らしく、仙界へ繋がる入口の1つであるという。


本殿へと続く厳かな石畳を、楽しそうに歩く宝。


その後ろを物珍しそうに歩く蜜持(ミツジ)には、何故そんな気持ちで歩けるのだろうかと不思議に感じていた。


その理由を探していた彼が見つけた風景(モノ)。


それは地面に直接建てられた、縄文時代の家だった。


今ではあまり見かけない茅葺屋根、そして腰を屈んだ人々が行き来するような小さな入口に、蜜持(ミツジ)は謂われのない感動を覚える。


“薄暗いな”と思い、家から空へと視線を移動したその先には、何本もの太い常用広葉樹達が、強い陽射しから守るように緑の葉を広げていた。


“あっ!”と声を上げたと同時に、蜜持(ミツジ)の目の前を一枚の葉が静かに通り過ぎていく。


その色付いた葉が地面に辿り着く様を見守った彼は

「何だろう……

教えてもらわなくても、分かった気がする」

と、妙に納得した口調でそう呟いた。


きっと彼は、蜜持(ミツジ)が考える程長い時間(トキ)の中で、数え切れない経験をしてきたに違いない。


そしてその1つ1つの説明さえも出来ぬ程、血塗られた光景や心休まる風景を数多く見てきたのであろう。


「赤、茶、黄色……どれも良いな」

「何か言ったか?」

「うーん、縹(ハナダ)の生き様を想像していたら、なんと言うか」

そう言いかけて、チラリと縄文時代の家を見る。


その家はただ見守るかのように、そこに存在するだけの過去の産物に過ぎなかったが、蜜持(ミツジ)にはとても貴重な宝物に思えた。


彼の目配せでその切ない気持ちを察した宝は、複雑な表情(カオ)を浮かべ

「懐かしい代物(オモイデ)だが、もう過去の事だ」

と、珍しく消えそうな声で言った。


しかし、宝は胸の内を分かろうとしてくれている蜜持(ミツジ)のその優しさが嬉しくて……


ほんの束の間だが、昔の思い出に浸れたことに感謝した宝は

「蜜持(ミツジ)、お参りを済ませた後、団子でも食べるか?」

と、さり気なく提案する。


「その話、乗った!」

今度は蜜持(ミツジ)が満面の笑顔になる番だった。


お仕舞い☺️

令和3(2021)年10月30日12:20~12:53作成


Mのお題

令和3(2021)年10月30日

「紅葉」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る