第13話君のこと

 満月を見ていた僕が、ポツリ呟く。


「新月(朔)が僕なら、満月(望)は君だね」

「?」

「いつも優しく見守ってくれるから」


“言っている意味が良く分からぬ”とでも言いたそうに顔を歪める君に、僕は微笑みながら説明する。


 それに対して君は照れて言い訳をするけど。


 僕には本当の気持ちが分かっているんだ。


 君の願いは、生きている人達が幸せでいること。


 そこには僕も含まれている。


 でも、何故だろう……


 君はこの中に入っていないよね?


 前に1度不思議に思って聞いてみたけど、教えてはくれなかった。


 教えてはくれなかったけど、きっと君以外の人達が幸せならそれでいいと思っている。


 きっとそうに違いない。


 いつも他人ヒトを最優先にする君が、僕は……


 出してはいけない言葉を胸に仕舞い込み、僕は未来サキを静かに見つめる君をまじまじと見た。


「何だ、普賢?」


“わしの顔に何か?”と言いたに、逆に見つめられて、思わずドキドキする僕。


 恥ずかしくて真っ赤になった顔を隠すように俯く僕に君が

「ほら、潮が引いていくぞ!」

と、目の前に広がる海岸に目を向けるよう告げた。


 君の声に否応なく従って、僕は青く広がる海へと瞳を向ける。


 それを合図に、海岸から波を立てながら徐々に後ろへと潮が引いていく光景を、黙って見ていた。


 満月に照らされて起こる引き潮は、言葉にならない程神秘的で……


「もう少し待てば、あの小島と地続きになる故、そうしたら遊びに行けるぞ」

「うん、楽しみ!」


 微笑んで……僕は我慢できず

「大好きな君と来られて良かった……」

と、胸の内を明かす。


 君の耳に届いているか分からないけど、ずっと側で並んで歩きたいぐらい……好き。


 暫くして、完全に潮が引くと同時に、本来の目的地である小島へと続く一本道が現れた。


 僕は“チャンス!"とばかりに、先に歩き出そうとしている君の手を握り締め、そして間髪入れずに走り出す。


「な、何をする、離さぬか!」

「嫌だ!!」


 僕は誰よりも大好きな君の幸せを祈りつつ。

嫌がる君の腕、を小島まで引っ張り続けた。


お仕舞い


令和3(2021)年9月18日~10月18日0:08作成

Mのお題

令和3(2021)年9月17日

「潮の満ち引き、月の満ち欠け」

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