10話 家族揃って朝ごはんを食べます

 デートの次の日の朝、微睡みの中、お腹辺りに重さを感じ、意識が一気に覚醒する。


「おはよう、春希」


 身体を起こし目を開けると、美帆が俺を馬のようにして俺の上に跨って乗っていた。

 俺の愛馬あいばが、ズキュンドキュン走りだし〜♪ じゃなくて!?


「うぇぇぇぇ!? 何してるんだよ美帆!」


「おはようのチュー、してあげよっか?」


「うん、話聞いてる?」


「聞いてるわ。冗談よ冗談。昼ご飯出来てるから。下で待ってる」


「お、おう」


 そう言い残すと、美帆はダイニングへと向かっていった。


「何だったんだ……?」


 てか俺の質問に結局答えてねぇな、アイツ。


         *


 色々と済ませ、ダイニングへ向かうと、家族全員が座っていた。


「遅いぞー春希。遅すぎて先に食べようかとしてたところだ」


「あらあら。秋生さん、『こうやって家族全員で揃ってご飯食べるなんていつぶりかなー。あ! 美帆ちゃん、春希起こしてきてくれない?』とか言ってたじゃないですか〜」


「ちょっ、美幸さん! それは言わないでよ!」


「秋生さんが優しいこと、春希くんに知ってもらえたしいいじゃないの〜」


「美幸さん程じゃないよ」


「そんなことないわよ〜」


 あのー、起きたばっかの息子の前でイチャイチャするのやめてもらっていいですか?


「じゃあ全員揃ったところで! ご飯冷めちゃうし食べちゃいましょー!」


 俺の義妹となった彩美の一言により、その場は一旦落ち着く。


「そうね」


「じゃあ……手を合わせて…………」


「いただきます」


「「「「「いただきます」」」」」


 一瞬、小学校か! とかツッコミたくなったが心の中で留めておこう。


「春希、ありがたく食えよ。なんとこの昼飯、お前のお義姉ちゃんになった美帆ちゃんが作ってくれたんだからなー!」


「え、そうなの!?」


 何故親父が得意げなのかはさておき……

 テーブルに並んだ炊き立てのご飯と湯気が立った熱々のみそ汁、真ん中にはデミグラスソースのかかったハンバーグが置かれている。

 盛り付けも綺麗だったので、てっきり美幸さんが作ったのもかと思っていた。


「お義父さん、そんな難しいものじゃないのであんまり褒められると恥ずかしいです……」


「あぁ、すまんすまん」


「ねーお姉ちゃん!」


 いつの間にか坂下家に馴染んでいる親父に感心していたら、急に彩美が声をあげた。


「何?」


「私がにんじん嫌いなの知っててわざと入れたでしょ!」


「今はウチだけじゃないんだしちゃんと食べなさい。というか、お義父さんと春希に『まだそんな子どもみたいなこと言ってるのか』って笑われちゃうよ?」


「そうよ彩美。好き嫌いせずに食べなさい」


 美帆の言葉に、美幸さんも便乗する。


「むー」


「そんな顔してもダメ────」


「────いや、俺が食ってやるよ」


「「え?」」


「いやぁ本当はあんまり良くないとも思ったんだがな? 嫌いなものを無理矢理食べても好きにはならないしさ。俺も昔はダメだったけど今は食べれるようになったものもあるし。徐々に慣れていけばいいんだよ」


「で、でも…………」


「それにさ、出会った時を除いたら家族揃って初めての食事だろ? 気分良く食べたいじゃんか?」


「そ、そうね……分かったわ」


「ありがとな、美帆。てことで、貰うけどいいか? 彩美?」


「は、はい……」


「あら〜。凄く良いお義兄ちゃんね〜。ねぇ、彩美?」


「う、うん……」


「いやいや、そんなことないですよ〜


 ────カチャン。

 俺がそう言ったところで、不意に箸が茶碗に当たり、落ちる音がした。


「ね、ねぇ! 聞いた? 秋生さん!」


「あ、あぁ聞いたけど……」


「春希くんがやっと私のこと『義母さん』って言ってくれたわ! 今夜はパーティーよ! パーティー」


「「ちょっとお母さんうるさい! まだ昼ご飯中でしょ!」」


「ま、まぁみんな落ち着いて……」


「春希は黙ってて!」

「お義兄ちゃんは黙っててください!」


 ────カチャン。


「ね、ねぇ親父聞いたか!?」


「あ、あぁ聞いたけど……」


「彩美が俺のこと『お義兄ちゃん♡』って言ってくれたぞ!?」


「多分、ハートは付いてなかったと思うぞ?」


「いいんだよそんなのどっちでも! 義母さん、今夜は焼肉だ!」


「そうね〜! 焼肉パーティーよ! パーティー!」


「「あーもう! どっちも黙れ!!」


 新生雨宮家、家族揃って初めての朝ご飯はとても賑やかだった。


  だが、この時の俺は知らなかった。

 まさかこの家であんな修羅場になるなんて────

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