11話 義姉の様子が少しおかしい気がします

 ご飯を食べ終えた後、リビングでゲームでもやろうと思っていたら、親父が話しかけてきた。


「なぁ春希」


「なんだ、親父?」


「これから俺と美幸さん買い物に行ってくるから。美帆ちゃん達と留守番頼んだぞ」


「へ〜い、了解了解……って急だな!?」


「別に予定ないだろ? お前」


「ないけどさ……」


 なんか癪だな。


「まぁ、もう高校生だし大丈夫だろ? それよりも、美帆ちゃんと仲直りしろよ」


「え?」


「お前、いつもよりちょっとぎこちなかったぞ?」


「マジ?」


「大マジ」


 全然いつも通りだったと思うんだけどなぁ……こういう妙に鋭いところ、父だなぁと感じる。


「お前からなんかやっちゃったんだろ?」


「何もしてねぇよ!」


 今朝、あっちから襲われそうだったけど。


「まぁいいや。じゃ、そういうことでよろしく」


「ちょっ! まっ……もう行っちまったし…………」


 親父と義母さん、出掛けてしまった……

 仕方ない。今朝も襲われかけてなんか怖いし、念のため部屋に引きこもってゲームでもするか……


「あ、あのっ!」


「ん? どうした? 彩美?」


 部屋へ戻ろうとリビングを出たところ、彩美に声をかけられた。


「私とお姉ちゃんと一緒に、ゲームしませんか?」


 お、個人的にタイムリーな話題だな。

 まぁゲームやるだけだし、彩美も一緒なら美帆も変なことはしてこないだろう……


「いいぞ。やるか!」


「やったー!」


 無邪気に喜ぶ彩美に、俺の母性がくすぐられる。あ、父性か。


「その前にトイレに行ってくるから準備しといてくれ」


「了解です!」


 俺に向かって敬礼する彩美を見て、俺も敬礼を返した。


         *


 トイレを済ませてリビングへと戻ると、美帆と彩美が準備を終え、真ん中を空けて座っていた。俺はちょうど空いていたところに腰を下ろす。


「お! モリオカートか!」


 テレビ画面を見ると、モリオカート8と表示されている。


「春希、やったことあるの?」


 朝の俺の部屋での出来事はまるで夢だったかのように、美帆が普通に話しかけてきた。


「もちろんやったことあるぞ。それよりも、美帆ってゲームやるんだな」


「私は彩美に付き合わされてただけだけどね」


「お姉ちゃんだって私がやろって言ったらノリノリだったじゃん!」


「ま、とりあえずやろうぜ。久々だから燃えるぜ!」


「ちょーっとまった〜!」


 始めようとしたところで、彩美が大きな声をあげる。


「ただ普通にみんなでゲームをやってもつまらないんで罰ゲームつけませんか?」


「確かに罰ゲーム付けた方が盛り上がるし良いな。で、罰ゲームはモノマネか一発ギャ───」


「五レースの合計ポイントが一位の人が最下位の人になんでも言うこと一つ聞いてもらうってのはどう?」


「おっ! いいねお姉ちゃん! 何でもって言ったよね!?」


「え、何でも? ま、まぁ無理のない範囲なら良────」


「じゃあ決まりね!」

「よし、それでいきましょう!」


「お、おう」


 罰ゲーム決まった瞬間の二人のやる気凄いな。賭け事好きなのか……?


「「私たち、絶対に負けないよ〜」」


 そんなに俺のこと奴隷にしたいんですか……? しくしく。


         *


「まずは小手調べってことで、一番簡単な所でいいですよね?」


「「うん」」


 全員の意見が一致したところで、次はキャラクター選択だ。

 それぞれが違うキャラ、カスタムを選び、準備が完了した。


「ねぇ春希」


「何だ? 美帆」


「もし春希が勝ってもえっちなことお願いするのはダメだからね〜」


「しねぇよ!」


「てことでお先にー!」

「私も失礼しまーす!」


「あっ……おいっ!」


 少しばかり動揺した俺の隙を突き、義姉妹はスタートダッシュに成功した。

 一方俺は、コンピュータにも負け、ぶっちぎりの最下位だ。


「お義兄ちゃん遅!」

「春希もまだまだね」


「舐めてもらっちゃ困るぜマイシスター。俺はその昔、モリオカートが上手すぎてモリオの父と呼ばれた男だぞ?」


「「色々とだっさ」」


「刺さるからやめて!」


 なんてやり取りを交わしている内に、俺は第三位まで順位を伸ばした。

 よし、このまま一位に……! そう思ったところで……


"フニッ"


 俺の肘の辺りに柔らかな感触を感じた。

 横を見ると、傾いてきた美帆の胸が俺の肘に当たっていた。


「ちょっ美帆!」


「今いいところだから話しかけないで! 私は春希の話しかけまくる大作戦には乗らないよ!」


「何その誰も引っ掛からなそうな作戦! てかまず作戦でもねぇ!」


 こいつ、気づいてないのか?

 まぁ、ずっと当ててくるわけじゃないからわざとではないんだろうけど……これはやりずれぇ!


「あっ、言い忘れてましたが、お姉ちゃんは集中してくると、カートとかコントローラーと一緒に身体が傾くタイプなんで気をつけてくださいね」


「いやそれ事前に言って欲しかったやつ!」


"フニッ""フニッ""フニッ"


 なんか彩美が選ぶコースやけにカーブ多くないか……? このフニフニ攻撃狙ってないか!? まぁ、気のせいか…………


 それからも集中できなかった俺は、見事に三人の中で最下位となるのだった。

 しょうがないじゃん? だって、男の子だもん。


         *


 俺の罰ゲームは確定したが、俺たち義姉弟はそれからもゲームで交流を深めていた。


「ふぅ。あ、私お花摘みに行ってきますね」


 そう残すと、彩美はリビングを出て行った。


「ね、春希。どこやりたいとかあるかしら?」


「いや……というか一旦休け…………」


「どこでもいいってことね! じゃあここにしよ」


 美帆のたわわに俺の理性がやられかけているので休憩したかったんだが……まぁいいか。


 そんな俺の気も知らないであろう美帆は、"グルグルジャングル"というステージを選んできた。

 いやこれこのゲームの中で一番カーブあるやつじゃん!?


「さぁ、やるわよ〜」


 なんかさっきにも増してやる気満々だな……もう美帆の一位は決まってるのに。

 とりあえず耐えられる気がしないから、美帆を上手く避けながらやるか。


『スリーツーワンスタート』


 俺と美帆が同時にスタートダッシュに成功する。最初は順調に避けながらプレイしていた俺だったが、ある所で美帆が大きくバランスを崩し、俺の方へと倒れてきた。


「きゃっ」


 という声と共に視界変わる。目の前には美帆の顔があった。

 美帆は両手を床に突き、俺を押し倒すような形で俺の上に覆い被さるような形になっている。

 それと同時に、シトラスのような香りが鼻腔をくすぐる。


「だ、大丈夫か? 美帆」


「だ、大丈夫だよ」


「そ、そうか。なら、恥ずかしいしそろそろ退いてくれな────」


「────キスでも……しちゃおっか……」


 全然大丈夫じゃねぇな!? 正気か!? 唐突すぎるし!


「な、何言ってんだ美帆。頭でも打ったか?」


 俺の言葉が届いていないのか、美帆が目を瞑り唇を近づけてきた。後ほんの少しでくっつく……その時…………


「ふぅ。お待たせしました〜続きしましょ〜!」


 彩美が部屋に戻ってきた。さっきまで覆い被さっていた美帆は、とてつもないスピードで元の体勢に戻っていた。

 リニアモーターカーより速くね?


「あれ? お義兄ちゃんだけ何で寝てるんですか?」


「こ、これはゲーム中に仰向けになるとゲームに強くなるらしくてな」


「嘘下手くそすぎません!?」


「冗談だ冗談。ずっと座ってて疲れたからストレッチみたいなもんをしててな。彩美、悪いが俺ちょっとランニングしてくるわ」


「そうですか……まぁ結構やりましたしね。じゃ、また今度やりましょ!」


「そうだな」


 何とか彩美を誤魔化しつつ、本当に疲れたし、あのまま美帆といたらヤバそうなので俺はランニングへ行くことにした。

 気分転換になるし、走ってる間は色んなこと考えずに走ることだけに没頭出来るからな。


 俺は逃げるようにリビングから出て、部屋に戻りジャージへと着替えた。


「でも、何だったんだ? さっきの……」


 事故とはいえ美帆は何であんなことしようとしたんだ……? 揶揄ってただけか……?


「まぁ、とりあえず走って気分転換だ」


 独り言を言いながら部屋を出て、玄関へと向かう。

 俺が靴を履いていたら、後ろに人の気配を感じた。振り返ろうとしたところ、耳元で息を吐くように囁かれた。


『罰ゲーム、楽しみにしててね♪』

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