9話 デートが終わりました

 観覧車夢の時間が終わり、お土産を買った俺たちは、帰るために駅へと向かい、帰りの電車へと乗り込んだ。


「ふぃ〜疲れた〜」


 よっこいしょ、と言いながら紗織は端の座席へと座る。


「お前はおっさんか」


「違いま〜す! ピチピチの女子高生JKでぇ〜す」


「言動とノリがちょっと酒入れたおっさんなんだよなぁ」


「何を〜! さっきの私の色気ダダ漏れのキスをお忘れにゃ?」


「わ、忘れるわけないだろ。最高に可愛かったし初めてのキスだったし…………」


「あぁー! もうこの話終わり!」


「自分で始めたんじゃん……」


「細かいことは良いの! とりま寝るから駅近くなったら起こしてね」


「了解了解」


 そう言って紗織は目を閉じたので、俺は携帯を取り出し、いじり始める。


 それから数分後、俺の肩にズシっと重みがかかる。見ると、紗織がすぅすぅと寝息を立てて寝ていた。


「疲れたよな」


 小さい声で呟き、紗織のサラサラのロングヘアーをかすように撫でる。


「んっ……」


 俺が何回か撫でていると、くすぐったかったのか、紗織が吐息を漏らす。

 可愛いかよコンチキショウ! 俺だけドキドキしちゃうじゃねぇか! う〜む……なんか俺もドキドキさせたいけどなんかないかなぁ?


(紗織、今度は俺から仕掛けるからな。期待しとけよ)


 な〜んて紗織の耳元で囁いてみたけど、寝てるし聞いてるわけないか。

 というかドキドキどころか逆に気持ち悪いよな。


 一人で色々考えていて馬鹿らしくなった俺は、目を閉じ、眠ることにした。


         *


 隣からすぅすぅと規則的な寝息が聞こえてくる。


『紗織、今度は俺から仕掛けるからな。期待しとけよ』


 ん〜ッ! カッコ良すぎてヤバイ! てか何されちゃうの私!? てか今度っていつ!?


「もう……ハルくんのバカ」


 ハルくんには聞こえないような声で私は呟き、興奮冷めやらぬ中、襲いくる睡魔へと意識を預けた。


         *


 無事に(電車は乗り過ごしてしまったが)帰宅した俺は、寝る前に歯を磨こうと洗面所へと向かうと、そこには一昨日義理の姉となった美帆がいた。


「おかえり、春希」


「ただいま、美帆」


 美帆も寝る前なのだろうか、パジャマを着ている。


「あっ、ちゃんとママたちには友達と遊びに行くらしいって誤魔化しておいたわよ」


「さんきゅ」


 そこで会話は終わると思っていたのだが……


「ねぇ、紗織とはどこに行ったの?」


 思わず、話を続けてきた。

 それについてはあんまり踏み込んでこないと思っていたんだが……


「言ってなかったっけ? ディスティニーアイランドだよ」


「デートスポットのド定番ね。楽しかった?」


「そりゃもちろん」


「何乗ったの?」


「ジェットコースターとかお化け屋敷とか…………観覧車とかかな」


 観覧車での紗織とのやり取りを思い出し、俺は一瞬言葉に詰まった。


「その間、な〜んか怪しいな〜」


「そ、そそ、そそそんなことないぞ! 観覧車でなんかあったりとかは……」


 あっ。


「ふ〜ん。へぇ〜。観覧車でなんかあったのね。観覧車だし、二人きりになるでしょ? てことは……ハグとかした?」


「し、し、ししししてないよ? ハグはしてないよ?」


 あっぶねぇ。アニメとかみたいに吹き出すところだった……

 でも嘘は言っていない。してないからな。


「春希のそのハグしてないって言い方が怪しいな〜。もしかして…………」


「キスもしてないよ?」


「私、キスって一言も言ってないんだけど……」


 あっ。


「そ、それは言葉の綾的なやつで……」


「キスマーク、ついてるけど?」


「えっ!?」


「…………冗談よ、冗談。でも、そう……キス……したの?」


「…………ま、まぁな」


「何で嘘ついたの?」


「クラスメイトに彼女とのキスについて話すなんて恥ずかしいだろ? それだけだよ」


「それもそうね」


 そういうと、美帆は俺に背を向けた。多分、部屋へと戻るのだろう。


「ご、誤算よ。まさか、初デートでそこま関係が進んじゃうなんて。油断してたわ……」


 後ろを向いて何かを呟いているようだが、声が小さすぎてよく聞こえない。


「なんて言った?」


「いえ、何でもないわ」


「ならいいけど。てか、それにしてもよく分かったな。女の勘ってやつ?」


 俺がそう言うと紗織は振り返り…………


「私────春希のことは誰よりも見てるからね」


 そう言い残して洗面所を出て行った。

 美帆は、何がしたかったんだ…………?


         *


 嘘でしょ!? 嘘に決まってるわ!

 紗織も初心だし、特に何もないと思ってたのに…………ど、どうしようかしら。


 なんてことを考えていた美帆は、ほとんど寝れずに朝を迎えてしまう。

 そんな美帆は春希に──────

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