8話 彼女と初めてのデートをします 後編

8話 彼女と初めてのデートをします 後編


 お化け屋敷を出て昼ごはんを済ませた俺たちは、近くでパレードをやるという噂を聞きつけ、急遽パレードを見ることに決めた。


「お! 始まるよハルくん!」


「こういうのって友達とくると見ないから楽しみだな」


 軽快な音楽と共に、ディスティニーアイランドのマスコットキャラクターを乗せたワゴンが沢山やってきた。


「あ、最初にムッキーがいる! ムッキー!」


 ムッキーとはこの夢の国のマスコットキャラクターの一人で一番人気、ムッキーマウスのことだ。ムッキーって名前だが、全然ムキムキでも何でもない。


「きゃー! ハルくん見た見た!? ムッキーが手振り返してくれたよ!」


「なぁ紗織。ムッキームッキー叫んでるけど、マウスだからネズミだぞ?」


「夢がないなぁハルくんは。そんなこと言ったらムッキーの中身オッサンかもしれないんだよ? そしたらムッキーは可愛いものと思い込んで楽しんだ方がよくない!?」


「紗織の方が夢がなかった!?」


「夢見る私は現実主義者なんで」


「うん、どっかで聞いたことあるフレーズだな」


          *


 その後色々と遊んだ俺たちは、最後にこのテーマパーク最大の目玉、ディスティニーサークルと呼ばれる観覧車の目の前へと来ていた。


「真下に来ると迫力が凄いなぁ」


「大きいね〜」


 なんて中身の無い会話をしていたらあっという間に順番が回ってきた。


『足元に気をつけてお乗りくださいね』


 スタッフの方にそう言われながら、俺たち二人は観覧車へと乗り込む。


『それでは、空の旅をお楽しみください。いってらっしゃ〜い!』


「「いってきま〜す!」」


 スタッフの手によりドアが閉められ、外と遮断される。


「うわぁどんどん上がってくね〜……って! 私、高いとこ苦手なの忘れてたぁぁぁ!」


「なんでやねん!?」


 関西人じゃないのに関西弁出ちゃったよ……


「ハルくんと一緒に乗ることばかり考えてたら……」


「謎理論だが可愛いから許す」


 上目遣いで彼女にそんなこと言われたら……ねぇ?


「………………」


「………………」


 初めての二人きりでの密室だからか、数分間沈黙が俺たちを包む。

 その後、唐突に紗織が話しかけてきた。


「ねぇ、ハルくん」


「何だ? 紗織」


「そっち……行ってもいい?」


「勿論だ」


 俺が答えるとすぐに、紗織が俺の横へとやってくる。

 そして、俺の肩に頭を預けてきた。


「私ね、ハルくんと付き合えて凄く嬉しい」


「俺もだよ」


「今日、楽しかったね」


「そうだな。また来ような」


「うん」


 どこかぎこちない紗織。

 チラリと横目で見た彼女の頬は、夕陽なのかなのか、今までで一番紅潮していた。


「ハルくん」


「ん?」


「ハルくんってさ、キス……したことある?」


「ないけど。どうしたいきなりッ────」


 ちょうど俺たちの乗っているゴンドラが頂点へついたと思われる頃────甘い香りと柔らかな感触が、俺の感覚をくすぐる。


 ふと我に返った時には────俺の唇が奪われていた。永遠にも感じる時間の後、唇の温もりが離れ、俺の視界が晴れた。


「ファーストキス…………も〜らい!」


 そう言ってはにかむ紗織の顔はこの瞬間、世界の誰よりも可愛く────美しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る