No.2 RPG主人公の生き別れた姉で悪の組織の中ボスに生まれ変わったのでまずは味方を作ります





_____大前提として。

シックス・インヘリットの中には世界を滅ぼしかけた厄災がいる。


その事実はゲームの序盤で、妖精魔法を暴発させたシックスを拘束した“街にやってきていた”王国騎士から語られる。


国王は封印の強固さを理由に、シックスを双子の姉と共に王国都市から離れた片田舎の街に住まわせた。

その願いは、ただ、普通の子供生活をさせてあげたいという爺心だった。



けれど、その世話役にと派遣された者たちは傷に塗れた子供たちを笑い、私腹を肥やした。







_____わたしたちを孤独にさせたのは、お前たちの怠慢のせいだ!






目を覚ました。


眼前にキスでも出来てしまいそうな距離でぷぅぷぅとゆっくり体を上下させる、同じグレージュの髪の少年シックス

まだ窓の外は暗かった。


「すぴゃー…」

「っふは、へんなねいき…」


口を半開きにさせてはむにゃむにゃと、まるで何か食べてるかのような仕草をするシックスにテトラは小さく笑みをこぼした。

衣擦れの音にさえ気を遣いながら、そっと頬を撫でる。

ほんの少し柔らかい、だが、6歳にしては痩せ気味の頬。


(ゲームが始まる時も、主人公シックスは痩せ気味だった。最初はグラフィックとか、デザインの関係性かと思ったけど、満足な生活をできていなかったってだけ。)


シックスもテトラも歳にしては小柄な体に、舌足らずな喋り方、乱雑に伸びて跳ねる髪……大人たちに放置された、2人ぼっちの子供。


“わたし”は知っている。

私は思い知っている。

シックスもテトラも、結局は厄災を宿した子供とその姉でしかないということを。

その結果が毒入りのパンで、そして幼い少年はゲームでは本来ならば今日、この日に。

たった1人の家族すら失うのだ。


(……“わたし”も、彼女も、私も。弟のことを愛している。けれど愛だけで幸せになれるほど優しくなかったってだけ。だから……だから、)


ゆっくりと体を起こしてベットから抜け出る。

隣にあった温もりが無くなったことに眠っていながらも不安げにもぞもぞと体を揺らしたシックスの頭をもう一度撫でると、安心した顔で安らかな寝息を立て始めた。

ふにゃふにゃと頬を赤く染めて笑う寝顔。


「……あぁ、もう。かわいーなぁ。」


昼間のストレスは半端ではなかっただろう。

街から帰ってきた双子の姉がパンを食べたかと思えば目の前で血を吐いて倒れる、なんて。


『いえのそと、にっ、どくけしの、くさ、はえてた、からっ』


自然の中、といえば聞こえがいい場所で過ごしていたこともあってテトラとシックスは薬草や森の恵みに詳しかった。

そうしなければ生きていけなかった。

パンを食べて血を吐いた、単純に毒を食べたのだと考えるのが普通だ。


泣きながらも必死に、片割れを救おうと打開策を見つけた。

けれど目が覚めた彼女は罵声を浴びせ弟を置いていくのだ。


_____そして森の中で、1人の男の人生を狂わせる。







「そこにいるんだよね。でてきてよ。……シックスはねてるよ、しってるとおもうけど。」



側から見れば誰もいない、月光しかない小屋の前で突然話し始めたおかしな子供だろう。

“わたし”は知っている。


本当ならば、2人ぼっちではなかった。


国王はシックスとテトラの面倒を見させること、そして護衛と監視の名目で王国騎士団の数名を派遣していた“はず”だった。

しかしその数名の騎士たちはそれこそ、死ななければそれでいいだろうと言わんばかりにほとんどの世話を放棄した。


いくら指示したとはいえ国王も、王国在住騎士も、片田舎の街に来訪ができるほど暇ではない。

魔王が討伐され、厄災が封印され、それでもゲームみたいに全部が元に戻るわけではない。

倒壊した都市、削れた大地、孤立した街、困窮する食糧、その全ての後始末は国主導に委ねられる。


だから露にも思わなかった。

信頼して子供を預けたはずの騎士たちが子供の面倒もろくに見ないどころか送金される生活費を着服し、世話を放棄し続けていたことなど。


シックスが死ねば器が壊れ厄災が復活する。

だから殺しはしなかった、けれど、死にたくなるくらいの思いをさせてやろうと思って。



『わたしたちを孤独にしたのは、お前たちの怠慢のせいだ!』

『俺は……ねぇちゃんと幸せになりたかった、なぁ…生きてるって、そんなに悪いことだった…?』



言い訳をつけて放置され放棄された子供たちの悲鳴は全てが終わった後で後悔しか生まなかった。


「なぜ……俺がここにいると気がついた。」

「べつに、どうせそのへんだろうとおもってただけです。」


小屋の影から這い出た一本の夜のように細長い体躯、全身を暗がりに溶け込むような様相で包んだ青年に冷たく返した。





____物語の序盤で敵対するキャラクター、王国騎士だった暗殺者“フィーア・シャッテン”。



“突然のことだった。シックスの影から男が飛び出し、その殺意に濡れた刃を突きつけてきた。

「随分と久しぶりにお前を見る心地だ。お前さえいなければ、お前が全ての元凶だ…!」

ひどく冷たい声だった。

黒色の様相から覗く瞳は見慣れた憎悪の色で妖しく光っていた。”


そして今は、シックスとテトラの護衛兼監視役である男。


「気がついていたのか、俺のことを。」

「………」

「いつから……いや…言う気はなさそうだな。………その、大丈夫、なのか。」


心配そうな声色。

世話役を放棄していながら何を今更、吐き捨てそうになったのはどちらのわたしだったか。


「…シックスがもってきたやくそうは、どくをちょうわしてくれるどくけしのくすりになる。けど、そのべつめいはこかげそう。いえのまえにはえてるなんて、ありえない。」


“グレイリーフ”

薬草。

毒を調和させる効能があり、調合すれば毒消しの薬になる。

しかし木の影にしか生えないことから木々が密集した森の中などにしか生息せず、別名木陰草と呼ばれる。


血を吐き倒れたテトラにシックスが飲ませた薬草こそが、グレイリーフだ。


「たすけてくれたことは、ありがとう。でも……どうして、いままでシックスのときはたすけてくれなかったの。」


厄災の封印の影響で度々体調を崩し、高熱でうなされるシックスの面倒を見ていたのはテトラたったひとりだ。

時期によっては薬も手に入らず(買うためのお金がなかった、とか)必死に薬草の本を読んで森の中を彷徨ったこともあった。

苦しむシックスを誰も助けようとはしてくれなかった。


「アレは毒を食んではいない。」

「アレじゃない!わたしの、たいせつなおとうとよ!シックスっておとうさんとおかあさんがつけてくれた、なまえがあるの!」


大好きで、大切で、ほんの少し憎らしくて、でも結局愛しているわたしの片割れだ。

声を顰めることも忘れて睨みつければ、青年の影がぶわりと膨れ上がる。


「…君は知らない!知らないからだ!あの、化け物の正体を!」

「シックスのなかにやくさいようせいがいることなんてとっくにしってる!」


青年が驚き言葉に詰まらせた。



___テトラはとっくの昔に知っている、“わたし”を思い出すよりも前に。


張本人であるシックスが15歳になるまで知らなかった事実を彼女は街で大人が話しているのを聞いてしまった、その時から。

幼いながらに賢くなければ生きていけなかったテトラは全てを理解せずともわかってしまった。

だから彼女は毒入りのパンを食べて倒れた後『あんたの化け物のせい』だ、と、叫んだのだ。


“小屋から飛び出した少女を追う影がひとつあった。

森の中でわんんわんと泣きじゃくる少女は近寄った影をにらみつける。

「なによ、いままではなんにもしてくれなかったくせに、いまさらでてこないでよっ!」

「!……気が、ついていたのか。」

「……あなたのことは、しらないわっ、まえにいたひとよ!たのしそうだったわね、わたしたちのことむししてるだけで、おかねがもらえるんでしょ!」

「それ、は……」

青年が言葉に詰まる。

言い返すことすら出来ず、黙りこくった。

「そんなにあの子のなかにいるばけものがにくいわけっ。たおせないから、いしをなげてあざわらうのが、そんなにたのしいの!どっかにいってよ!どうせ……わたしたちのこと、なんにもしてくれないくせに……!」

森の様子がざわめく。

少女の叫びにまるで、連動するように。

「!?何か様子がおかしい、早く、ここから離れるんだ…!」

「うるさい!しんぱいしたふりでいいひとぶらないで!わたしたちのこどくは、あんたたちのせいよ…!みんな、みんな、どっかにいってよ!!!」

泣き喚く少女の悲痛な叫びは呼び声となり、妖精を呼び寄せた。

少女の感情に寄り添った妖精を追ったように、ぞろりと、背筋に冷たい風が走った。

【なら、私と一緒においで……君にその術を与えてあげる……】

金切り音のような不快な声、空中に走った亀裂からのびた手に少女の体が掴まれて、引き摺り込まれる。

「え……あ…い、いや……なにこれ、ひっ、きゃあああああああ!!!」

「テトラ・インヘリット!!」

慌てて伸ばした手を、少女が掴むことはなかった。

亀裂に飲み込まれた少女は、決して青年を信用しなかったのだ。

助けてすら言わなかった少女の遺した傷は、膿んで青年の体を蝕んでいった。”


ゲームの序盤で“フィーア・シャッテン”は主人公の敵対キャラクターとして登場する。

最も初めに遭遇する正式にシックスに危害を加えるために現れる人間が、彼だ。

厄災によって義理の妹を失った、暗殺者になった元騎士、そう言う設定だった。


(妹を失ったフィーアは、あろうことか厄災を宿した子供の護衛任務を振られる。妹と言っても、義理。しかも妾の子供だったらしい妹のことはあくまで彼と両親くらいしか知らなかったから。任務を振った側もしらなかった。)


それでも拒否しなかったのは_____シックスには双子の姉のテトラが、いたからだ。

幼い頃からシックスはテトラと一緒にいることで精神が安定した。

いくら封印が強固であってもシックスの感情の起伏で万が一にもゆらがないようにするためと、精神の安定のための措置だったらしい。


少女に妹の影を重ねたフィーアはその護衛任務を受けた。

とはいえまだ若い青年がたった1人で護衛を担っていたわけではない、ただ、その1人だったというだけだ。

フィーアが妹の影を重ねたのとは違い、他のメンバーがその任務を受けたのは子供を放置して報告書を改竄するだけで金がもらえる、楽な任務。

今より1年前に活性化したとある盗賊団によって青年以外の護衛は王国に戻ることになり、その後は補充を断りたった1人で任に就き続けた。


結局フィーアはシックスを厄災の封印された子供だと、思っている。

けれどそれと同時に、妹の影を重ねたテトラの様子に絆されていた。



だから、血を吐き苦しむ少女のためにグレイリーフを置いたのだ。



だってテトラに厄災は封印されていない。

今までのように嘘をついて誤魔化しさえすれば良かったのだ、街で1人で出たテトラが死んだ、と。

それでもそうしなかった、わざわざグレイリーフをシックスが分かる場所に置いた。


ゲームでは、その後飛び出したテトラの跡を追い…少女はいなくなった。

目の前でテトラを失ったことが大きな傷となったフィーアはその後もシックスの護衛任務を続けた。

テトラの悲痛な叫びに、憎悪すらこめられたそれに触れた青年は心の内側に溜め込みすぎた。


後悔だ。

テトラを失ったシックスの焦燥は、自分を見ているようだったのかもしれない。

彼は護衛時代の罪の全てを黙秘し続けた、当時の隊長だった人物に緘口令の魔法をかけられたからだ。

みすみすテトラを目の前で失踪させたその罪を引き合いに出され、その魔法を受け入れてしまったがために。


(今までシックスへの扱いに“そんな”こと、思わなかったくせに、テトラが消えたことで罪悪感を抱いた。それを、つけ込まれたんでしょう。)


罪悪感に身を焦がした彼は、そうして態とシックスを襲う敵として騎士の身分すら捨て現れ、敗れる。

犯罪者に身を落とし、拘束された先で全てを明かすのだ。

騎士でなくなった暗殺者であれば、緘口令の魔法は効力を失うから、と。

そうして王国は初めてシックスたちが置かれていた環境を知るのだ。


彼はテトラの悲鳴を唯一知っていた人間だった。

その叫びに後悔を抱き、シックスに謝りたいためだけに生き続けていた。



(この人なら、取り込める。)



どれだけ性格が悪いと言われたって結構だ。

いくら“わたし”を思い出したとしても、結局は幼い子供であることに変わりはない。

数少なく切り詰めた生活費でほんの少ししか買えなかった本で学ぶことも限界が近い。


シックスとテトラにはまっとうな大人が必要だ。


シックスが15才の誕生日を迎えた後、ゲームの物語が始まる。

妖精召喚の魔法陣に触れ、魔法を暴走させて王国騎士に拘束される。

そしてその後、魔法学校に通うことになるのだ。

入学直後のシックスは魔法スキル体力HP魔力mpも、全てのパロメータが他のキャラクターよりもよっぽど低い状態で始まる。


ゲームのシステムで言えば、よくあることでレベルは1からスタートが当然の始まり。

所謂育成要素とも呼ばれる、キャラクターを自分自身の手で強くさせる楽しみはRPGの醍醐味の一つだからだ。

パロメータが他のキャラクターよりも低い状態で始まる理由はシックスがたった1人で生きていた過去を反映したもの、と説明されればゲームへの没入が高くなる。


たった1人、その日暮らしでまともに相談できる大人もいない。

そんな子供がどうやって学ぶ?

知識も学習も、生きるためだけにしか時間を使えず、教育を施してくれる大人もいない子供には不可能に近い。


(ゲームの本編はシックスが15才になってから、昔のお話は回想でしか語られない。……元々いないはずのテトラが今もここにいる、ゲームの本編がどうなるかなんてわからない。少しでも、最初からの味方が欲しい。…あの、天才児くんのように。どんなに、非道でも。シックスのことは私が守るんだ。)



「知って、いたのか…」

「まちのおとながはなしてた。でも……うまれてくるってそんなにわるいことだったの。ねぇ、……おにい、ちゃん。」

「………!」


フィーアの妹は、妾の子供。

父親の愛人の子供で、碌な扱いを受けなかった。

たったひとり、フィーアだけが妹を家族として扱った。


(その傷を“わたし”は知ってる。生まれてきたことに苦労した、あなたの妹を。例え始まりはテトラへの罪悪感で罪滅ぼしあったとしても、結局シックスの“世話役”を放棄していたとしても。それでも……あなたは、あの日からシックスを1人の人間として見ていたから。)


「わたしたちはただ、しあわせになりたいの。いきて、いたいの。…すきになって、なんて、いわないから。おねがい……シックスは、ばけものなんかじゃないんだよ。ただ、なきむしでちょっとからだのよわい、わたしのたいせつなかぞくなの。」


その傷につけ込んでだってあなたをこちら側へ連れていく。

優しいあなたは、絆されれば切り捨てられない。


テトラはわかって、フィーアの傷を刺激し妹を思い出させる言葉を使った。

この瞬間、テトラは紛れもなく1番の悪女だった。


「……っ!」


どろりと青年のシルエットが崩れる。

瞬きの間にフィーアの姿は消えていた。

恐らく、彼の妖精魔法の効果でどちらかに消えたのだろう。


(……まぁ。そう、だよね。いくら何を言っても、厄災に大切な人を奪われたことに変わり無いから。…そんなすぐには切り替えれないか。)


長期戦になることは覚悟していた。

ゲームでも彼がシックスの前に現れたのはどんな思惑があろうと結局敵対するためだけだったから。


(あなたは優しいから、テトラの言葉を無視できない。……毒を盛られたのは、あなたの方かもね。)


青年がいた影に視線をやる。

漏れたのは嘲笑か、憐れみかはわからなかった。


その時、がたがたと物音が響いた。

恐る恐ると開かれた小屋の扉、開けたのは当然シックスだ。


「ねぇ、ちゃ……なんで、おそといるの…」

「おきちゃったの?」

「ん……」


泣き疲れて半端な時間に眠ってしまったせいだろう。

寝ぼけながらも覚醒しつつある様子に、張り詰めていた気が緩んでいく。

そうしてようやく始めて、あぁ、自分は緊張していたのだ、と気がついた。


ゲームで知っていたキャラクターだった。

幾度も繰り返したn回目で必ず出会うキャラクター。

ゲームのDLCやファンブックでその人となりは知っていたとしても、テトラにとっては始めて出会う人間だった。

今まで自分を見捨てていたと、気がついていた人間だった。

それでも“わたし”は性根は腐っていない、ただ、巡り合わせが悪かっただけのキャラクターだと知っていた。

“わたし”を思い出して1番初めに接触して引き込もうと、思った人だった。


(………私って実は、役者だったんだね。)


「ねぇちゃ…?」

「ん、ごめんね。めがさめちゃったから。」

「……もう、いたいとこない?」

「うん!シックスのくれたくすりのおかげでばっちり!」


ちょっと、貧血気味だけど。


「そうだ、シックス。きょうはちょっととくべつしよ。」

「…?」

「ここあいれちゃおう、はちみつもいれて。あとまえにつくったシュトーレンののこりも!いっしょにえほんもよんだげるね。」

「そ、そんなぜーたくいいの!?やったぁ…!ねぇちゃん、はやく、はやくっ」

「ふは、じゃあシックスにはどのえほんにするか、きめてもらおっかな。」

「わーい!」


顔が綻んだ。

一気に覚醒したらしくぴょんこと飛んで小屋の中へ走っていく様子が、やっぱりとっても愛おしくて。




RPG主人公の生き別れた姉で悪の組織の中ボスに生まれ変わったのでまずは“どんなことをしてでも、トラウマ抉ってでも”味方を作ります

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