葵の上

和泉「あおいさんはね、ツンデレさんなんですよ、きっと」


清原「わたしのこと?!」(驚いて)


藤原「あおいうえの話をしていたの」(淡々と)


清原「光源氏の正妻せいさいの、葵の上ね」(安堵して)


藤原「そう。彼女、源氏より年上なのよね」


清原「へぇ。そうだったんだ。どのくらい?」


藤原「源氏が十二歳で元服げんぷくして、結婚した当時、葵の上は十六歳だったはずよ」


清原「葵の上はともかく。源氏、そんなに若い時に結婚したの?!」


和泉「政略結婚ですからね。葵の上のお兄さん、誰だか分かりますか?」


清原「誰なの?」


藤原「とう中将ちゅうじょう。源氏の親友とも言うべき人よ」


清原「あの、青海波せいがいはを一緒に踊った?!」


藤原「そう。あれは、美しい舞よね」(うっとり)


和泉「左大臣の息子さんなんですよ。とう中将ちゅうじょうさんは」


清原「って、ことは。葵の上は……」


和泉「左大臣の娘さんなんです」


藤原「とう中将ちゅうじょうは、源氏の親友でもあり。源氏は、妹のお婿むこさんでもあったの」


清原「義理の兄弟?」


藤原「そう、言えなくもないわね」


清原「それで。葵の上がツンデレって?」


藤原「葵の上は、自分が年上ってこともあり、なかなか源氏と打ちけることができなかったんじゃないかって、話」


清原「なるほど」


和泉「そして、葵さんは、本当は寂しかったと思うのです」


清原「確かに。源氏は左大臣家にはあまり立ち寄らなかったよね」


清原「それでも。何故だろう。儚げなメージがないなぁ」


藤原「六条ろくじょう御息所みやすどころの生霊に取り憑かれて亡くなったというのに……」



『「なげきわび空に乱るる我がたまを結びとどめしたがひのつま」

のたまふ声、気配、その人にもあらず変はりたまへり。「いとあやし」とおぼしめぐらすに、ただ、かの御息所みやすどころなりけり。』

(『源氏物語』より)



和泉「そういえば、葵ちゃん、夕顔ゆうがおさんが誰の側室だったのか、分かりましたよ」


清原「えっ! 誰?」


和泉「とう中将ちゅうじょうさんですよ」


意味あり気に和泉は微笑んだ。




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