賢子（たかいこ）さんは、語りたい

垣間見

藤原「雀の子を犬君（いぬき）が逃がしちゃったの！」（突然、叫ぶ）

清原「藤原、どうした？」

和泉「紫（ゆかり）ちゃん、また、いつもの？？」

藤原「うん。なんか、叫びたくなった」

『「雀（すずめ）の子（こ）を犬君（いぬき）が逃がしつる。伏籠（ふせご）の中（うち）に籠（こ）めたりつるものを」とて、いと口惜（くちを）しと思へり。』

（『源氏物語』より）

清原「ん？？」

藤原「『雀の子を犬君（いぬき）が逃がしちゃったの！』って、声がしたから、源氏は、その家の様子を垣間見たわけでしょ。文字通り、小柴垣（こしばがき）の間から、屋敷の中を覗（のぞ）いたわけで」

清原「当時は、そうやって、女子の品定めをしたのでしょう？」

和泉「さすが、葵（あおい）ちゃん、よくご存知で！」

清原「和泉（いずみ）、わたしのことも、名前で呼ぶの？」

和泉「いけませんか？」

清原「いや、あの……」

藤原「いいんじゃないの？　仲良くなったってことでしょう？」

清原「……」

藤原「清原も、わたし達のこと、さん付けで呼ばなくなったし」

清原「で、藤原は、なんで叫んでたの？」

藤原「ああ、それはね、」

和泉「紫（ゆかり）ちゃんは、たまに、叫びたくなるんですって！」

清原「ん？」

藤原「特に意味はないんだけどさ」（何かを誤魔化すように、照れながら）

橘「紫（ゆかり）、どうした？」（男子の声が近づいて来る）

橘「花（はな）。紫（ゆかり）、また叫んでなかった？」

和泉「うん。いつもの」

藤原「望（のぞむ）、よく聞こえるね」（あきれながら）

橘「紫（ゆかり）の声が、大きいんだって」

橘「じゃあ、またな」

藤原「ん」

清原「……」

和泉「望（のぞむ）くん、いつも、ありがとうね」

橘が去っていく。

清原「誰？」

和泉「橘（たちばな）　望（のぞむ）くん。紫ちゃんの」（藤原が声を被せる）

藤原「花（はな）、それ以上は！！」

「言わないで」と、目で訴える、藤原。

和泉も、目で返事する。

色恋に疎（うと）い清原には、何が何だか分からなかった。