ROUND10

─さいたまスーパーアリーナ


 何やかんやでギャラバリ3世界大会の日本予選を突破し、更に決勝戦まで駒を進めたスバル。……別にいいだろ、経過を端折ったって。全部スバルの圧勝だったんだからよ。

 しかし世界大会の本選だってのに、埼玉でやるのかこの大会は。ギャラバリが日本生まれのゲームだから権利を買い取って3を作った会社の社長が、敬意を込めて日本を会場に選んだらしいとか何とか。まぁ、高校生のスバルにわざわざパスポート作らせて高い旅費を出させるわけにもいくまいし、彼女の自宅がある東京都北区の赤羽から電車で来られる距離なのは好都合だったよ。


 ギャラクシアン・バーリトゥード3世界大会決勝、日本代表加藤すばるVSアメリカ代表ヒナコ・ライマン!


 格ゲー世界大会の決勝戦が10代の女の子同士になるとは、誰が予想しただろうか。……ヒナコが何歳なのかは知らんが。


「タケちゃん」


 スバルがスマホの中にいる俺を呼ぶ。


「絶対に勝とうね!そしたら、……」


 俺はスバルが言う前に、彼女の発しようとした言葉を先に告げる。


「俺が元の体に戻ったら、また昔みたいにゲームをしよう。そして、俺はお前に言うべき事がある!」


「……私も!」


 俺とスバルがスマホ越しにした会話はこれで最後だった。勝って、元の体に戻ったら、俺はお前に告げるんだ。目一杯の「ありがとう」と、 そして……


『これより、決勝戦を開始します。 エディットキャラクターを使う選手はデータの同期をしてください!』


 と、アナウンス。スバルがスマホでQRコードを読み込むと、俺の魂は筐体の中でボイジャーに乗り移る。ん?ヒナコの方もスマホを画面にかざしている。彼女もエディットキャラクターを使うのか。


「OK、あたい達も暴れよっか、ダディ」


 そう、小声で呟いたヒナコもキャラ選択を終えた。選ばれたキャラクターは、ピンク色のコスチュームにカラーエディットされたビッグバン・ボイジャーだったのだ!


『加藤選手は予選から一貫して、ビッグバン・ボイジャーを選択しておりますが、なんとライマン選手はこれまでの試合全てに異なるキャラクターを選択しています!そして、あろうことか決勝戦は同キャラ対戦となりました!!』


 ボイジャー同士の対戦というのはスバルもあまり経験が無い。なんせボイジャーは使いこなせる人間が少なく、見た目もかっこよくない不人気キャラクターだから。

 何にせよ、同キャラ対戦という事はキャラクター毎の攻略法や小細工も通用しない、全く同じ条件下での戦いとなる。となれば、この戦いで必要になるのはシンプルに『技量』だけとなる。


「あははっ!驚いた?すばるん、君達の純粋な“上手さ”が、この勝負とタケシくんの運命を決めるんだよ?」


 ヒナコはスバルを言葉で牽制する。それに対し、スバルは……


「だから?」


冷静に言葉を返す。


「相手が誰で、何のキャラを使おうが、私たちは“勝つ”という事しか考えてないわよ。予選からこれまで……いや、これからもね!」


 そしてスバルはロード中の画面に向かってウィンクしてみせた。それでこそ俺の相棒だ。俺とお前だからこそ、俺たちは最強なんだ!!


 ロードが終わり、試合が始まる。


『ROUND  1  FIGHT!!』


 先に動いたのは相手のボイジャー。ジャンプ強キックで飛び込んでくる。スバルはそれを読み、ダッシュで相手の着地と同時背後へ回りこませる。ガードを出来ない状態で攻撃を当てる、「めくり」と呼ばれるテクニックだ。中パンチ一発にしゃがみ強キックで転ばせる。相手が起き上がると同時にボイジャーバスターを決め……るはずなのに、技を掛けられていたのは俺の方だった!!


「さすがだなぁ、オマエの相棒は」


 と、俺を担ぎ上げた相手のボイジャーが俺の耳元で囁く。


「お前は……ヤンセ・ライマン!!」


「ご名答!最後の試練は、俺っち自身に勝つ事だぜ?」


 さすがは神様、何でもアリだな。 俺はヤンセの乗り移ったボイジャーからボイジャーバスターを食らうと、意識が飛んじまった。

 いわゆる『ピヨる』って状態だ。まずいぜ、コレは……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る