FINAL ROUND

 気が付くとそこは、ボイジャーのステージである新宇宙プロレス道場。そして、目の前にはビッグバン・ボイジャーが胡座をかいて座っていた。先ほどまで俺と闘っていたピンク色のボ イジャーではなく、赤と黒のノーマルカラーだ。


「タケシ、座レ!」


 と、俺に言うボイジャー。そして、俺の体はボイジャーではなく、元の茄子原武の体になっているじゃないか。


「も、元に戻ったのか!?」


「ソンナワケネーダロ」


 そりゃそうだ。目の前にボイジャーがいる時点でこれは現実じゃねえ。じゃあ、この空間は何だ?俺はその場に座り、ボイジャーの話を聞くことにした。


「ココハ精神世界。オ前ハ、相手ノ攻撃デピヨリ、私ノ体カラ魂が抜ケカカッテ不安定ナ状態ナノダ」


 だからボイジャーと俺の意識が別個にあるのか。


「タケシ、オ前ハ“タッグマッチ”ノ経験ハアルカ?」


「ねえな。俺はプロレスラーじゃねえからよ」


 タッグマッチはプロレスにおける試合形式のひとつで、2人ないし3人、多い時には5人一組のチーム同士で行う。シングルマッチと違いチームワークが重要になる。


「コノ試合ハ、オ前トスバル対ライマン親子ノタッグマッチナノダ」


 あ、ヤンセとヒナコって親子なのか。


「タケシ、タッグパートナーヲ、スバルヲ信ジロ……ソシテ、2人デギャラバリヲ遊ンデイタ頃ヲ思イ出セ」


 そう言い残し、ボイジャーは消える。おいおい、もっと的確な助言をしてくれよ……



 意識が戻ると、俺は2発目のボイジャーバスターを喰らっていた。


「K.O!!」


 体力ゲージが0になり、 俺は負けた。


『一本目はライマン選手の勝利!続く2本目も勝てば優勝となります!!』


 アナウンスを聞くスバルの顔が険しくなる。


「どうしよう………次に負けちゃったら、タケちゃんが……」


 ヤバいな。スバルの奴、プレッシャーに押し潰されそうになってやがる。


「スバル!」


「えっ?」


「俺の事なんかより、お前が楽しむ事を優先しろ!ゲームってのは、楽しんでやるもんだろ?義務感でやってちゃ、ただの“作業”だろうがよ!?」


「……そうだね、タケちゃん!」


 スバルの瞳に輝きが戻る。


「ヤンセ」


「何だ?」


 俺はロード時間中、目の前にいるピンクのボイジャーに問う。


「俺の言葉がスバルに伝わったの、アンタの仕業だな?」


ゲームの中にいる時の俺は、画面外へ喋れない。 アプリと違って決まった台詞しか話せない様になっている。


「このまま、俺っち達が勝ってもつまらないからな。お前らにも本気を出してもらおうと思ったのさ」


 いやらしい神様だ。だが、敵に塩を送ったことを後悔させてやる!!


「ROUND 2 FIGHT!!」


 2ラウンド目が始まる。レバーとボタンを軽快な指裁きで操るスバルの顔は、微かに笑っていた。


「えっ!?ちょっ……待っ」


 1ラウンド目より調子の良いスバルの動きに、為す術なくヒナコは負けてしまった。


「いいじゃねえか、武。そしてすばる!」


 ヤンセが乗り移ったボイジャーも不適に笑う。 そして、 俺自身も。


「すばるんもタケシくんもダディも、何で笑ってんの!?」


 と、テンパるヒナコ。 悪いな、試合ってのは楽しんだもん勝ちなんだよ、格闘技も、 格ゲーもな!


「ROUND 3 FIGHT!!」


 スバルと俺の猛攻は止まらない!ああ。最高に楽しいぜ、格ゲーってのは。

 ごりごりと削れてゆく相手の体力ゲージ。

 スバルはレバーを2回転させ、弱中強のパンチボタンを同時に押す。

 喰らえ、超必殺技!

 ボイジャー・ジ・エンド!!

 アルゼンチンバックブリーカーの体勢で相手を担ぎ上げた俺は、回転しながら高くジャンプ!そして、空中でパイルドライバーの形になると、そのまま地面に叩き付ける!


「KO!」

 

  2本目に続き、3本目を取った! スバルと俺の勝利だ!!


『優勝は、日本代表!加藤すばる選手!!!』


「おめでとう、武。それじゃあ約束通り、お前を元の体に戻してやろう」


 ヤンセがそう言うと、俺の意識は暗転する。勝利の余韻くらい噛みしめさせろよ。せっかちな神様だぜ。というか、俺にはまだやらなきゃならない事が……




 俺が目覚めた場所は病院だった。何ヶ月も眠っていた体は全身の筋肉が萎み、車に轢かれたもんだから、そこかしこの骨が折れている。痛い、苦しい。 でも俺は行かないと……アイツに会いによ。

 鏡で見た俺の髪は伸びてプリンみたいな色合いになってやがる。だっせえけど、痩せた体も相まって10年前のモヤシみてえな俺に近い見た目じゃねえか。



─東京都北区赤羽

 病院を抜け出した俺が辿り着いたのは、「ゲームセンターあつし」。ここにあいつがいる保証は無い。でも、俺とあいつが出会う場所はここしか無いって確信があった。

 入り口を通り、クレーンゲームやプリクラの筐体を抜け、ビデオゲームコーナーへ向かう。

 いた!ギャラバリ3の筐体でいつぞやの小学生たちをボコボコにしてるあいつが!!


「スバル!!」


 俺は彼女の名を大声で呼んだ。


「た…タケちゃん!!」


 スバルは椅子から立ち上がり、俺の元へ駆けてきた。そして俺達は抱き合った。 人目も憚らずに。


「ありがとう、スバル!」


 ヤンセに勝った時、お前に言えなかった感謝を口にする。そして、俺はもう一つ、 お前に言うべき言葉がある。


 好きだ、スバル。今度は俺の、人生の相棒になってくれ!


 ってな。

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