ROUND9
それからというもの、俺とスバルはネット対戦で世界中のギャラバリスト達をボコボコにしてきた。ビッグバン・ボイジャー使いのSBRと言えば、界隈でそこそこ有名だろう。だが、まだの魂は元の体に戻れない。この程度では最強足り得ないのだろうか?
−ゲームセンターあつし
スバルは俺の入ったスマホとともに、ゲーセンを訪れた。
「ネット対戦ばかりだと飽きちゃうから、たまにはゲーセンでやるのもいいよね。レバーとボタンの感触が恋しいもん!」
と、スバルは言うが、お前は家でもアケコン使ってるじゃん。
かつて俺の魂が入っていた筐体には、いつぞやのガキどもがいた。
「あ、ボイジャー使いの姉ちゃん!」
「やあ少年たち。ねえ、……お姉さんと対戦してみない?」
スバルが持ち掛けるも、
「え〜〜」
「お姉ちゃんクソ強いから勝負になんねーよ」
「小学生にとって100円は貴重なんだぞ」
3人とも難色を示す。そりゃそうだ、こいつらは目の前でスバルの腕前を見ているんだから。と、その時だった。
「ねえねえ、だったらさ、あたいが君らと戦ってもいいよ」
と、俺たちの背後からした声に振り向く。そこに立っていたのは、ピンク色の髪をサイドテールに結わえた女の子だった。スバルよりも数歳年下に見えるので中学生だろうか。
それにしても目立つ髪の色だな。そして、この髪色に俺は既視感があるのは気のせいか。
「いいの?言っておくけど私、強いし手加減しないよ?」
と、スバルは女の子の申し出を承諾する。このゲーセンのギャラバリ3は、二つの筐体が背中合わせに並んでいるタイプだ。スバルが座って百円玉を投入後、スマホにQRコードを読み込ませるや俺の魂は筐体の中でボイジャーに乗り移る。
向かい側の筐体に100円玉を入れスタートボタンを押す女の子。ゲームはすぐさまストーリーモードから対戦モードへ。
スバルがボイジャーを選択すると、相手もキャラクターを選ぶ。向こうのキャラクターは宇宙大相撲横綱の
「ROUND 1 FIGHT!」
試合が始まると同時に、スバルの操作で俺は星雲山に近付く。が、相手は意味もなく前に進んだり後ろに退がったり攻撃をしたりジャンプしたり……これはまさか、
「レバガチャ!?」
スバルの言ったレバガチャとは、その名の通りレバーとボタンをガチャガチャと滅茶苦茶に押しまくる操作法で、格ゲーに全く触れた事のないド素人に操作をさせるとよく行うものだ。
このレバガチャ、何が厄介かというと相手の行動が読めないのだ。このギャラバリシリーズを含む格ゲーというのは、レバーとボタンの組み合わせによるコマンド入力で必殺技を出すのだが、レバガチャはプレイヤーも意図せずたまたま入力されてしまったコマンドでいきなり必殺技が出たりする。
「ゴッツァン!!」
星雲山が掛け声と共にたまたま出したロケット頭突きを食らってしまった。
「ぐぬぬ……」
スバルの様に理詰めで計算して戦うタイプのプレイヤーにとって、このレバガチャ戦法は非常に相性が悪い様だ。
だがスバルは苦戦しながらも、何とか勝った。1本目は先取したものの2本目を取られてしまい、3本目の勝利はギリギリだった。
「いやー負けた負けた。やるね、君たち」
と、笑いながら言う女の子。ん?……君たち、だと?思い起こせば対戦前も、彼女はスバル一人に向かって『君ら』 と呼んでいたジャないか。間違いない。この子は……俺の、ボイジャーの中にいる俺の存在を把握している!
「加藤すばるに茄子原武!今日、初めてこのゲームを触ったあたいに苦戦してる様じゃ『最強』 には遠いんじゃないかな?」
「な、何で私とタケちゃんの名前を……」
スバルが疑問を言い切る前に女の子は続ける。
「あたいはヒナコ。ヒナコ・ライマン。ボイジャーの中にいる彼は、このピンクの髪と、あたいの苗字に覚えがあるはずだよ?」
ライマンという姓……ピンク色の髪……ああ、そうだ。このヒナコって奴に感じた既視感は、俺が死の淵で会った神様みてえな奴−ヤンセ・ライマンに感じたものだ。
「ねえ、すばるん」
と、ヒナコはスバルを勝手に付けた愛称で呼ぶ。
「な、何よ!?」
椅子から立ったヒナコは、するりと反対側の筐体……スバルの傍らに立つ。そして、キスでもするのかというほどの至近距離に顔を近付けた。おい、小学生達が見てる前で妙な事をするな。子供の性癖を歪ませるんじゃない。
「1ヶ月後、ギャラバリ3の世界大会が行われるから日本予選を勝ち抜いてきてよ」
耳元でそう告げると、ヒナコはゲーセンの外へと去っていった。些か話の展開が急だが、やるしかねえ。スバルもゲーマーとしてのプライドを傷付けられて黙っちゃいられないだろうからな。
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