ROUND7
ラスボスを倒した後、エンディングが流れる。見事、新宇宙プロレスの名を銀河に轟かせたボイジャー。興業はどの惑星でも満員御礼!だが、宇宙最強の男となったボイジャーの元には連日挑戦者が訪れる……というものである。最強か……俺も、元の体ではそう呼ばれていた頃が懐かしいぜ。
THE END の表示後、スコア画面が表れた。ガキどものプレイをコンティニューしたのでノーミスクリアとはならなかったが、それでもこの店のハイスコア記録を塗り替えたのだ。アルファベット3文字で名前の入力を行う画面に、女の子はSBRと名を残す。 この子の名前に関係あるのだろうか。
「お姉ちゃん、このQRコード何?」
小学生の一人が画面を指さす。ニュートラルポーズで立つボイジャーの横には確かにQRコードが表示されていた。
「それはね、こうするの……」
と、女の子はスマホを取り出した。
「このアプリ“どこでもギャラクシー”でアカウントを作って、QRコードを読んだり読ませたりすれば、アーケード版のスコアを引き継いだり家庭用でエディットしたカラーやセリフなんかをアーケード版で使ったりできるのよ」
と、好きなものを語るオタク特有の饒舌で説明する彼女。なるほど、最近のゲームだけあってハイテクなんだな。
女の子のスマホがこちらに向けられる。するとどうだ。QRコードが読まれると同時に俺の意識は暗転する。まるで、魂がスマホに吸い込まれたみてえに……
次に俺が目を覚ました所は、ゲーセンの筐体ではなかった。
「よし、データ引き継げてる!」
キャラ選択画面に使われるアイコンのまま動けない俺の視界に映るのは、さっきの女の子。そう、俺は女の子のスマホにインストールされたギャラバリ3用アプリケーションの中に魂を移されたらしい。 今は彼女の部屋で、スタンドに立て掛けられた状態のスマホから彼女の部屋を見ている。
「ゲームする元気も出てきたし、プレステ用を開けちゃおう♪」
機嫌の良さそうな彼女が家電量販店の袋を部屋の隅から取り出した。あの袋、俺が最後に買い物をした店のと同じ……ああ、何てことだ。 この子はあの時、車に轢かれそうになった子じゃないか。俺が助けた女の子は格ゲーマーでボイジャー使い、そして俺はボイジャーに転生して彼女の持ちキャラとしてスマホの中へ。妙な縁があるものだ。
「すばるー!お風呂沸いたから、先に入っちゃいなさーい!!」
外から聞こえる声は、彼女の母親だろう。ん? 「すばる」?妙に引っ掛かる名前だぞ?
「はーい」
すばると呼ばれた女の子は、ギャラバリ3のソフトを開封するのを中断して部屋を出て行く。スマホがスリープモードになるまでの間、あの子の部屋を見える範囲で見てみるか。覗きはよくないかもしれんが、これから暫く俺はこの子と組んで闘わなきゃならんかもしれんのだからな。情報は多いに越した事はない。
ベッドの側には16インチほどのテレビと、その横にある棚には様々なゲーム機があるじゃないか。最新機の中に混じって、古びたメガドライブがあるぞ! 懐かしいなぁ。俺の持ってたやつも、あんな感じで16BITの金文字が掠れてたぜ……いや、あれは俺があいつにあげたメガドラそのものだ!その証拠に、黒ペンでラベルに「なすはらたけし」って書かれたギャラバリ2のソフトが差さっているじゃねえか!!
その時だった。どたどたと、階段を駆け上がる音。言い忘れたが、この部屋は2階だ。
「スマホ充電するの忘れてた~!」
自室に駆け込むすばる。風呂に入る前だったのだろう、その身に纏っているのは下着一式、白いショーツとブラジャーのみだ。当然、俺はその姿を直視すまいと、目を閉じる。
「あれ?ボイジャー、目を閉じてたっけ?それに顔も赤いな様な………?」
スマホを手にしたすばるは、怪訝そうに画面内の俺を見る。 ばかやろう、さっさと画面を消すか服を着ろ。
「………」
じっとスマホの画面を見るすばる。間近で顔を見た事により、俺の疑念は確信に変わった。そして俺は彼女の姿に対し、居ても立ってもいられなくなり、つい口にした。
「おい、スバル!」
と。あ、スマホのスピーカーを通じて声は出せるみたいだな。声は俺じゃなくボイジャーの声音だが。
「えっ!?喋った?何でボイジャーが私の名前を???」
驚き、きょとんとした表情の彼女に対し、俺は続ける。
「スバル、これにはのっぴきならん事情があるんだ!まず、俺はタケシだよ。10年前に、そこのメガドラで一緒にギャラバリ2で遊んだろ!?」
そう、この女子高生は俺が小学生の時に一緒に遊んでいたスバルだった。妙な縁どころじゃねえ。何だ、この再会は?
「タケ…ちゃん……?」
下着姿のシルエットから解る通り、スバルは女の子だったのだ。俺はずっと、男の子だと思ってたん だがな……というか、早く服を着てくれないか?スバルよ。
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