第3章 Big Bang Voyager

ROUND6

 俺こと茄子原武は、元旦にゲームを買った帰りに車に轢かれて意識が吹っ飛んだ。そしてどういうわけか、ゲーセンのいち筐体の中でビッグバン・ボイジャーになっていた。

 ゲームの中で俺はボイジャーを選択したプレイヤーの操作でしか動けず、来る日も来る日も色んなキャラクターに負け続けている。そして、その度に画面の外からプレイヤーにクソキャラだ何だと罵られる始末。っつーかオマエらがヘタクソすぎるんだ!バーカ!!

 とはいえ、ボイジャーが上級者向けキャラクターなのは事実だし、俺もボイジャーを上手く扱えた人間を一人しか知らない。今の俺が生きてるギャラバリ3ではなく、メガドラ版2の……おまけに10年前の話だがな。

 そんなこんなの内に、俺はまたもや負けてしまった。相手はCPUの操る主人公『神宮メテオ』だ。メテオはコズミック空手の使い手で、突進技のコスモハリケーンが強力なのだ。


「何だよこのキャラ!クッソ弱いじゃん!!」


「クソゲーだよこれ!」


 と、俺ことボイジャーを使って負けた小学生が友達と一緒になって、コンティニュー画面で鼻血を垂らした俺を罵っている。初めてでボイジャーを使うからだろ!しかし、俺は知っている。初めてボイジャーを使って俺を負かした奴を……その時だった。


「アーイム、イチバーン!」


 ボイジャーは勝利台詞を発して顔も凛々しくなる。 コンティニューが行われたのだ。


「ギャラバリ3はクソゲーじゃないし、ビッグバン・ボイジャーはクソキャラじゃないよ!……見てなさい!!」


 コンティニューしたのは小学生達ではなく、女子高生と思われる女の子だった。しかも何か見覚えのある顔な気がするぞ……?


『ROUND 1 FIGHT!』


 何て事を考えてる間に女の子はボイジャーを選択し、先ほど同様に神宮メテオとのバトルが始まった。


「コスモウェイブ!」


 メテオが拳から放つ飛び道具が迫る。


「ウリャアーッ」


 掛け声とともに俺はその場で横に高速回転!これは……ボイジャーサイクロン!!

 技が出始める時の無敵時間でコスモウェイブをすり抜けた俺は、メテオに急接近。そして、


「「ボイジャー……バスターーー!!」」


 コマンド投げのボイジャーバスターが炸裂!俺もボイジャーを操る女の子も同時に叫んでいた。体力ゲージをごっそり削られたメテオに対し、俺は弱中強のパンチやキックを織り交ぜたコンボで攻め立てる。

 そして、メテオの攻撃を一切食らう事なく2ラウンド目も制してみせた。


「お姉ちゃんすげえ!」


「このキャラ、こんなに強かったの!?」


 小学生たちも彼女のプレイに思わずはしゃぐ。俺は、このボイジャーの体になって初めての勝利に打ち震えていた。プロ格闘家・茄子原武としては当たり前だった勝利。それがこんなに感動的だったなんて。


「アイム、イチバーーン!!!」


 ボイジャーは、声高らかに勝利の台詞を叫んでいた。

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