ROUND5

 あの事故から数日後、私は部屋に籠もりっきりだった。買ってきたプレステ5用ギャラバリ3は、開封すらしていない。ゲームなんて出来る心境じゃないのだから。

 事故の直後、救急隊と警察が駆け付けて轢かれた男の人は救急車で病院へ、轢いた方はパトカーで警察署へと連行された。ここが問題で、この事故はあくまで轢いた人と轢かれた人が加害者と被害者であり、私は事故の参考人でしかない……と、事情聴取したお巡りさんから説明を受けた。なので、私を助けてくれた人の名前だとか搬送先だとかは、個人情報保護の関係で本人の了承が無いと教えられないのだとか。そして、その本人は意識不明の重体なので了承もくそもなく……

 私は、命の恩人に感謝も謝罪もお見舞いすら出来ず、鬱屈とした日を過ごしている。解っているのは、その人が辛うじてまだ生きている─という事だけ。


(……いつまでも部屋に引き籠もってたってしょうがない、散歩にでも行こう)


 私は重すぎる腰を上げ、近所へ散歩に出掛けることにした。




─「ゲームセンターあつし」


 私は小学生の時に引っ越してきて以来、この街にある小さなゲームセンターによく通い詰めている。 何気なく訪れてみたけどまぁ、どんなゲームを誰がどうプレイするかを見るのも気分転換にはなるでしょう。


「何だよこのキャラ!クッソ弱いじゃん!!」

「100円無駄にしちゃったよ」


 奥の方で小学生くらいの男の子3人が騒いでるので、近付いてみた。プレイしているゲームは……


「このゲーム、ユーチューバーが配信してて面白そうだったのに」


「こんなクソキャラに当たっちゃうなんてなー」


「クソゲーだよこれ!」


 コンティニュー画面で情けない顔をした覆面レスラーの隣を、数字がカウントダウンしてゆく。

 私は体が勝手に動き出し、筐体に100円玉を投入してスタートボタンを押していた。そして小学生たちを掻き分けて椅子に座る。


「何だこの姉ちゃん!?」


 そう発した小学生の一人を睨み付けるように振り返り、私は言ったのだ。


「ギャラバリ3はクソゲーじゃないし、ビッグバン・ボイジャーはクソキャラじゃないよ……見てなさい!!」


 私にとって神ゲーと推しキャラをクソ扱いした子供たちの目に、見るもの見せてあげようじゃない。ボイジャー使いの妙技をね!!

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