第十四話ー周囲ー

なんとか階段を登り教室に着いた。

「じゃあ海里席遠いし用意しておいでー由菜は見とくから」

「ありがとう。心子お願い」

教室に心子の手を繋ぎながら入った。どうにか席に辿り着くと心子が「一瞬だけ待って」と言い手を離した。足が動かない。(怖い)そんなことを考えてるとすぐに戻ってきた。

「よし、とりあえず準備しようか」

「………うん」

あまりにも消え入りそうな声。(声が出ない)迷いと不安と恐怖が一斉に襲ってくる。

(ああ、人ってこんなに怖かったんだ)

心子が椅子を引いてくれた。リュックをどうにかおろし、とりあえず座る。

(みんなよりも目線が低い。私の価値はこんなものなのかな)

「んー?由菜どうした?」

「………別に」

声は糸のようで、すぐに落ちて消えてしまいそう。でも心子は落ちる前に拾ってくれた。


海里は由菜と心子より少し後ろの席。しかし列が同じで、すごく近い。すごい速さで用意を終わらせて由菜の元へ向かおうとした。」

「あ、海里じゃん。元気してた?」

事情を知らないクラスメイトが話しかけてきた。

「まあな。ごめんちょっと用事あるし話すの後でもいい?」

「あーいいぞー。また話そーな」

「いってら〜」

「ああ。もちろん!」


話した者が、誰にも気づかれないよう、うっすらと笑みを浮かべる。

「ん?どうした?海里が来て嬉しいん?」

「ま、まあそうやな〜」


「由菜ー大丈夫そう?」

「……海里」

「ん?」

「何もないよ」

「そっか」

「ちょっと先用意しちゃお?由菜とりあえず…」

心子が大体の指示を出し、用意をなんとか終わらせた。

「じゃあリュック置いてくるし海里見といてー」

「あーおけ」

「……」

由菜は心子の方を見つめたまま動かない。よっぽど心子のことを信頼しているのだろう。(早く帰ってきてよ…)

「ただいまーあ、由菜大丈夫そう?」

「…別に」

チャイムが鳴った。着席だ。

「じゃあ俺座る」

「私も。由菜、後ろにいるからね?大丈夫だよ」

心子は手を握り、そういった。

「……いやだ。」

「「…え?」」

「いやだ…」

「はーい授業始めるぞ。おいそこ座れー」

「………無理怖い」

「とりあえず俺座るわ」

「わかった」

「……心子」

「座らなくちゃ。」

(私の周りに…味方はいない。そっか)

途端、何かが由菜の中で異変が起きた。

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