第十三話ー復帰ー

まもなくし、二人は退院することになった。

「長い期間ありがとうね」

「いや…俺のほうこそ色々ありがとう」

「うん」

「…じゃ、また学校で」

「そうだね。海里また」

二人は、別れを告げた。


由菜は、退院して1週間も経たず学校に行くことになった。彼女からしたら禁忌の場所。しかし、勉学のこともあり学校に行くしかなかった。そう、彼女は他に手段がなかったのだ。


「……」

校門をくぐった瞬間、吐き気に襲われた。しかし、表には出さない。感情は今は押し殺す。吐き気は耐えればどうにかなる。(そう、耐えればいいだけ)どうにか、どうにか誰とも顔を合わさず、靴箱までたどり着いた。そこで、クラスメイトと遭遇した。(嘘…)

「あ、由菜やん。大丈夫だった?」

聞かれた。(話さないと)由菜に衝動が走る。

(答えないと…演じないと…)

思えば思うほど過呼吸になる。次第に息ができなくなる。身体中から血の気が引いている。(止めないと)思えば思うほど、体が言うことを聞かない。脳が動きを拒否してる。息は、糸よりも細くなっていた。

(また…できなかった)

由菜は、倒れてしまった。


「あ、目覚めた」

靴箱で倒れ、靴箱で目覚めた。

その時、クラスメイトは一人で、誰もいなかった。2、3分待つと何人か来て、先生を呼ぶのかなどと話しているうちに目覚めたようだ。

「よかった〜びっくりした」

口々に声が聞こえる。(あ、もういいや)由菜の中で何かが吹っ切れた。

(…そっか)

上体を起こそうとすると、途端にもう一度吐き気が襲う。それを振り切って上体を起こす。思い切ったからか、頭痛まで起きてしまった。(耐えれる)動こうとしたが、周りにいる人でどうも身動きできるほどのスペースがない。

「…邪魔だからどいて」

由菜が学校に来て初めて発した言葉。声のトーンはかなり低く、怖いほど心に響く。まるで的の真ん中を射抜く矢のようだった。

「ちょ、怖くない?」

「え?」

みんなが一斉にものすごい勢いでざわざわと騒ぎ始める。その時

「あ、由菜」

「え⁉︎来た!あーよかった!」

なんと海里と心子が来たのだ。由菜は気付き、目で合図を送る。(助けて)

海里と心子は顔を見合わせ、言葉を発した。

「ちょっとどいてあげてーしばらく来てなかったし緊張してるのかも」

「そそ。まあしゃーないしマイペースでよくない?」

騒ぎは治り、みんな教室に移動し始めた。(よかった…来てくれて)

「由菜ー!大丈夫そう?」

心子が手を握ってくれた。ものすごく暖かい。由菜も思わず握り返す。

「……うん」

「もしかして、声出しにくい?海里もそんなこと言ってる」

「俺もちょっと出しにくいかもしれん」

「……そっか。おんなじ」

「由菜。マイペースでいいよ」

「……仲間いる。マイペース…わかった」

「俺、そろそろ時間やばいし行くわ」

「うん。どうする?由菜動けそう?」

「…まあ。あの…その…一緒に行ってもらってもいい?」

「…!いいよ!」

「おーい、二人とも遅れるでー」

「「はーい」」

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