第22話「カーテンの開かない部屋」



■■転生前、真っ暗な部屋の玄関で■■


 


 帰ってもらえませんかね。


 忘れたいんですよ、俺。今更謝られても、正直困るだけです。


 はあ、そうですか。


 あなたはいいですよね。生きるのが楽そうで。


 俺は散々云ってきたはずですよ。もう限界だって。


 あなたが目を逸らし続けてきた結果がこれです。


 俺に許されようが、許されまいが、あなたの人生は今日の延長線上でずっと続いていく。


 でも、俺は違います。だから、あなたがそうして謝ってくることこそ、一番許せないことなんですよ。


 誠意をもって謝るとか、いかにも真っ当な人間らしいじゃないですか。


 俺はクズの仲間入りです。


 なのにあなたは、こうして悪いことをしたら謝って、ちゃんと常識の上で生きていける。


 こっちは朝が来るのが、毎日怖くてしょうがないのに、あなたは明日をよりよくしていく選択ができる。


 むしろ、ここで許さなかったら、俺の方が悪いみたいじゃないですか。


 分からないですか?


 まあ分からないでしょうね。あんた日本語で書いてある文章も読めない馬鹿なんだから。


 思い出しますね。あなたに怒られたこと。


 理解する前に感情的になられて、ロクに話し合いにならないんだもんな。


 いやいや、貶してるわけじゃないんですよ。


 ただ――


 ……ああ、すいません。


 ここ最近ずっとこうなんですよね。


 頭の中で咀嚼できる以上に、感情が沸き上がってきちゃって、そうすると涙が止まらなくなるんです。だから、忘れたいんです。


 心配とかはしないでくださいね。


 …………。


 これも分かりませんでしたか?


 俺は心配はしないでくれって云ったんですよ?


 気持ち悪いな、本当に。


 とりあえずあなたが帰った後、会社にはクレーム入れておきますから。


 辞めた人間の個人情報を、私的な理由で参照できるような場所に置いとくなって。


 直接謝りに来た勇気だけでも褒めてもらえると思ってましたか?


 そういうの自己満足って云うんですよ。


 俺が謝罪を求めてるかどうかなんて知ったこっちゃないんでしょ、あなたは。


 俺がどれだけメールしても電話しても反応しなかったくせに、自分が用件ある時だけは一方的に連絡してきてましたもんね。


 上の世代の人たちは「最近の若者は仕事を選ぶから駄目だ」なんて云いますけど、気持ちが分かります。


 あなたみたいな人のことを云うんでしょうね、あれは。


 ああ、謝らないでいいですよ。


 あなたが俺の云うことを理解できていないのは表情と仕草を見てれば分かります。


 どっちにしても、俺はあなたを許しません。


 ……『許さなくてもいい』……ですか。


 ホントに、なんで分かんないかなあ。


 そういうのが余計に腹が立つんですって。


 あなたもうしゃべらない方がいいですよ。


 馬鹿が思った通りにしゃべったって、状況は悪くなる一方ですよ。だって、馬鹿なんだから。


 そんなに云うなら、一つ考えたことがあるんですよ。


 そこに台所がありますから、包丁で指一本切り落としてくださいよ。


 そしたら許します。俺が可哀想だなって同情しちゃうような状態になってみせてください。


 一番使う指がいいですね。右手の人差し指か……ああ、左手の薬指ってのも趣向があっていいな。


 …………。


 謝るってことはできないってことですね。


 じゃあ、さっさと帰ってください。


 帰れよ、ほら。


 帰るんだよ! ボケ!


 これ以上俺に無駄な時間を過ごさせるんじゃねえよ無能が!


 てめえは一人の人間の人生を自分のわがままで台無しにしたんだ!


 そうだよ、さっさと帰れ。二度と来るんじゃねえよ。


 本当に帰るんだな。てめえはやっぱり無能だよ。


 自分がどうしようもない状況に陥ったら、他人の所為にばっかりして、自分を変えようなんて微塵も思わずに、馬鹿のまんま生きてくんだ。


 ホントにキモイよあんた。俺より先に自分の親に謝った方がいいよ。こんな人間になっちゃってごめんなさいって。

 

 一生逃げてろ。俺はずっとあんたを恨み続けるからな。


 死ね。俺よりずっと不幸になって、苦しんで死ね。


 幸せになろうなんて思うなよ。そんな資格あんたにはないんだからな。


 …………。


 …………。


 …………。


 …………。


 僕って。


 

 

▲▲~了~▲▲

 

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