第6話 デスティニー

私は希望されていた通りそこそこ有名な中堅どころの高校へと無事進学を決めた。親や教員も満足していたみたい。初めて住んでいる地域から出たコミュニティに属することになった。しかしこれまでとやることは変わらない。電車通学や高校生ならではのイベントなど面倒ごとが増えるが、これまで通り普通を纏い生きていこう。

一年目の冬。ある男子から呼び出され突然告白された。付き合うということがどういう意味かは理解している。しかし私の感情は何も感じず、むしろ脈絡のない告白に疑問や嫌悪感すら抱いていた。もちろんその反応は相手から恨みを買う可能性があるとここまでの経験上の情報から理解している。そのためやんわりと角の立たないよう顔も作り断ったのだった。私自身から言うはずもないので告白した側が漏らしたのだろうか告白の経緯や結果について周りが私に勿体ないだの、どうしてだのとしつこく問いただしてきた。その時も曖昧にかといって不快感を与えないよう上手く立ち回り場を濁してその場をやり通した。こんな噂話数日すれば下火になるだろうくらいにしか思っていなかった。その認識は改まることとなった。どうしてこの年代は愛だの恋だのが全ての話の中心になるのであろう。他人に全くとして興味がない私は知らなかったことだが、その告白してきた男子は大多数からの支持を得ている人気者ということだった。特に女子からは絶大な人気があることで有名らしかった。最初に違和感を感じたのは普段であればよく話しかけかけてくるクラスのカーストで言えば下のおとなしい女子達が話しかけてこなくなったことだ。ペアワークも誰とも組めない状況が続いた。どうやら告白してきた男子に好意を寄せていた、カースト上位のリーダーが嫉妬し煽っていたとのことらしかった。はぁめんどくさいなぁ、でもまぁこのまま卒業まで1人で居させてくれるんであればわざわざ外行きの顔で対応しなくていいし、そっとしてくれれば楽か。と安易なことを考えていた。やはり私が甘かった。だんだんと嫌がらせはエスカレートしていった。本が破られていようが体育技が濡らされていようがそのまま真顔で受け入れる。私がどんな仕打ちを受けていてもへこたれることもなく、気にせず素ぶりひとつなく生活しているのが不気味に映っていたのだろう。周りが恐怖し始めたのだった。これまで築きあげてきた普通人間の装いがボロボロと崩れ、それは終わりを迎えたのだった。

教員から親へ連絡がいき。親から詰問を受け。せっかく馴染ませた、身に染みた普通という仮面は完全にこびりついて取れないものだと思っていたが所詮は仮面。根本は変わっていないのだ、寧ろここまで我慢していた仮面の下にはもっとドス黒く真っ暗な無が大きく居座っていたのだ。自分でも驚きはなかった。親はやられていた仕打ちに対して最初怒りを見せていたが次第に昔を思い出させる態度や今回の対応に対して怒りがすり替わっていった。私は学校でのことや親からの罵声から逃げたいとか嫌になったとかでは気は滅入ってなかった。この救いようのない、変わりようのないどうしようもない自分の生き方に、世間での在り方に答えを見出せず、ほとほと嫌気が差していたのだ。学校を遠ざけしばらく。おそらく高2年生頃。もうその時の年齢で何をしていた時期なのかも定かに覚えていない。どうでもよすぎて当時のことはあまり覚えていない。学校へはもつ行ってなかったことは確かだ。家からも出なかった。相変わらず親はうるさかったが反応すらしない私にもう何も言わなくなっていった。もう仮面は付かないだろう。生きている実感がなかったので余計常に自分の命のことを考えていた。断つこともしょっちゅう頭をよぎった。みんなが寝静まった頃私は家を出た。決心といえば大袈裟だけれど、なんとなし家を出ていた。せめて迷惑をかけずと思いローカル線の終電を狙って。。そこで出会ってしまったのだ。運命のひと。に。。あのバカにしていた愛だの恋だのに。だけどあんなに浅い愛や恋と同じにして欲しくはない。それを超える運命というものに。生きる意味に、私の全てに出会ってしまったのだ。

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