第5話 リターン

人間は変化を嫌う生き物だとよく言われているが心からそう思う。僕は昔から規律やらルールやらの厳しい環境で育ってきた。それが嫌だったことはない。それが僕にとって普通だったから。学生までは社会人というものはみんなミスの許されない存在とばかり思っていた。社会人なりたての頃はこの自由の多さに驚きを隠せなかった。緩み切ったことがないため自我が崩壊せぬよう色々と自分で制約を作り法律のように自信を律してきた。結局のところこれがしっくりと自分に当てはまっているのである。僕にとっての普通はこの制約されたルールの上で生活。つまるところ決まりきった生活、出来事が大好きなのである。ただここ半年前くらいから奇妙な偶然が重なり僕を取り巻く環境が変わってきている。例えば仕事量増加の直接の原因でもあった"名物"上司が突然出社しなくなりある日本社から彼は辞めたからと通達が来たり、大学1年からお世話になっていたお気に入りの美人美容師さんもなんの連絡もなしに居なくなってしまったり、かと言えば知らない地の近所のスーパーのスタッフから話しかけられはじめたりと普通ではない出来事が立て続けに起こったのだった。他人の事情なので原因が全くわからず「考えても意味ないな」と自分を納得させる。一方で少しでも普段と違った出来事がことが起こると途端に疑念が頭をよぎり頻度が積み重なるごとに無意識に関連性を探るような思考回路となっていった。

朝晩は節約のため、自炊したものと簡単なもので腹を満たす。

毎朝豆腐と納豆、野菜スープ

毎晩野菜炒め、味噌汁、ゆで卵、たまに米

切って茹でる。切って炒める。開けてそのまま食べられるものが楽で安いことに気づいてからはルーティーン化した。野菜炒めの具まで確定しているし使う調味料まで変わらない。スーパーに買い出しに行ってどれかでも不足しているとイラつきと落ち着かない気持ちが芽生える。

この半年間はスーパー訪問の時間帯が落ち着き出したからか不具合が起きたことは記憶にない。安心して独自ルーティーン、ルールが守られていることとなる。


僕は定期的に"彼女が欲しい"と渇望することがある。変わらないことが大好きな人間も目先の欲ですぐに太い芯が揺るがされてしまうのだ。しかし99%が思考だけに留まり行動には移せずに空想で終わる。この流れもいつものパターン。安心してくれ、色々と面倒ごとが起きて目まぐるしい毎日を送るくらいならなら自由と普通の生活をとる。僕はそういう人間だ。



モニター越し

「今日はムラムラdayだったのかな?マッチングアプリなんかまたインストールしちゃって。今月は周期が早かったなぁ。でもよかったぁ安心したぁ。また普通で過ごしてくれた。やっぱり私の思った通りの素敵な旦那様だ。これからも繰り返し葛藤しては変わらないという選択をして1人でいてね。。私が隣に行くまでは、、、」

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