第13話 イヤなヤツ書くと、眉間にシワが寄るのよねぇ……。


 「はあ〜っ、涼しいわね、ココは♡」


 夏の日差しが照りつけて昼間の気温がほとんど下がらない蒸し暑い夜。


 仕事を終えてコンビニに立ち寄るのが日課になった沙樹と天が、汗を滲ませながら入って来た。

 深夜のコンビニは、すっかり四人のたまり場になってしまった。←前からだろ


 「亮ちゃん、私も『武将ファイブ』オーディション受ける事にしました!」


 上目遣いで、

 「『ピンク枠』私が貰います! ふふっ♡」


 あのマシュマロ事件以来、天は俺の事を『亮ちゃん』と呼ぶ様になり、二人に苦い顔をされている。


 そんな事は気にせず、ベタベタしてくる天にホイッスルを吹く麻里。


 ピピーッ

 「『協定違反』ですーっ!」


 「みんなが居る前ならいいんでしょ? 麻里ちゃんは二人っきりの時間が長いんだから、我慢しなさいよー!」


 天は構わず俺に抱きついてくる。


 「さっきからブーブー言ってるけど、ホントは二人っきりの時、イチャイチャしてるんじゃないの? 麻里ちゃん」


 沙樹が目を細めて俺達を交互に見る。


 「ココには監視カメラついてるんだからねっ、変な事しちゃダメよ!」


 そう言って店内にある監視カメラを指差して、イヤらしく笑って麻里を見た。


 「しっ、しませんよぉ〜!」

 麻里が真っ赤になった顔を両手で隠した。


 「「あははははっ」」



 ※※※



 「……ん、? なんだ、……閉まってるのか?」

 「潰れたんじゃないっスか?」


 そんな和やかな空気をぶち壊す様に、アイツが現れた。


 「売り上げに貢献してやろうと思ってわざわざ来てやったのに、閉まってるなんてな、ギャハハッ!」


 「翔也さんっ、この店買い取っちゃえばいいじゃないですかぁ?」

 「でも、買うだけ無駄になっちゃいますよねぇ、翔也さんっ!」


 西ヶ原翔也にしがはらしょうやだ。

 今日は取り巻きの後輩達も連れて来て、すっかり親分気取りだ。


 「何しに来たのよ、翔也っ!」

 沙樹がゴミを見る様な目で見ている。


 「んあっ? マネー……、元マネっ! こんなトコに居たのか? もしかして……事務所か? ココは?」


 「「「ギャハハハハッ!」」」


 「……んっ? そ、そらちゃんっ!」


 急に翔也の態度が変わった。


 「何で俺の誘い断ってこんなトコに居るんだよぉ? 今からでもさぁ、美味いメシ食いに行こうぜ!」


 天は俺の後ろに隠れて怯えている。

 「亮ちゃん、……アイツ、しつこいの!」


 俺にだけ聞こえる位の小声で言ってシャツをギュッと掴んで来た。


 「翔也、ウチの天にちょっかいかけるの、ヤメてくれないか?」


 「んあっっ? ……何でオマエにそんな事言われなきゃならねぇんだよっ!」


 翔也は俺に凄んで見せた。


 「翔也さんっ、やっちゃいましょーよ!」

 「『店員』のクセにカッコつけんじゃねーよ!」


 取り巻き達も煽り出した。


 アイツ、後輩達が居るから調子に乗ってるな……。


 すると翔也はイキがる後輩達を片手で制して、

 「ダメだ、こんなトコで騒ぎでも起こしたら大変だ! 何たって俺は、今日から放送開始のアニメ『双子の魂今どっち⁉︎』の主演だからなぁ!」


 『双子の魂今どっち⁉︎』は単行本累計一千万部突破の大人気マンガで、今期アニメの覇権と言われている。


 双子の男主人公と幼馴染みのヒロイン高校生の三角関係を描いた作品だ。


 大まかなストーリーは、ある日ヒロインを助ける為に双子の一人が交通事故で亡くなってしまう。


 しかし残った一人の体に、事故で亡くなった魂が入り込んで、一つの体を二つの魂が取り合い、そしてどちらが彼女をオトせるか勝負? という話だ。


 翔也はメインの双子を一人で演じるという難しい役回りだが、……大丈夫なのか?


 「まぁ、コレで今年の声優アワード主演男優賞はイタダキだな!」


 「「ギャハハハハっ!」」


 「天ちゃん、今のウチ俺の女になっといた方がいいぜ!」


 「ひいぃっっ!」

 更に怯えて俺の後ろで震える天。


 見かねた沙樹が、

 「アンタ、何しに来たのよ! わざわざ自慢しに来た訳っ?」


 翔也は思い出したかの様な顔をして、

 「おー、そうだった! バネ太っ、俺も『武将ファイブ』のオーディション受けるぜっ!」


 俺を指差して、


 「そこで勝負だ! 『選ばれた方の言う事は何でも聞く』ってのはどうだ? ……まぁ、俺が選ばれたらオマエに『声優辞めろ』って言うんだけどなっ!」


 「「「ギャハハハハ!」」」


 パチーンっ


 麻里は真っ赤になって翔也の頬を引っ叩いた。


 「ってぇなぁ〜っ! ってまたオマエかっ? 殺すぞ、オラぁっ!」


 「アンタなんかにバネ太が負ける訳ないでしょ? もぉっ、出てってよ!」


 そう言って麻里はイートンスペースへ一目散に逃げ込んだ。


 「っんのヤローっっ! ヨシっ、……考えが変わった!」


 麻里を睨みつけて、

 「俺が勝ったら、あの女、俺によこせ! 散々遊んだ後、オマエらにくれてやるよ、へへっ♪」


 「「翔也さんっ、やっちゃって〜っ!」」

 

 三人がイヤらしい目で麻里を見た。

 

 「バっ、バネ太は負けないんだからぁ〜っ!!」


 麻里は涙目になってビールの空き缶を投げつけた。


 軽くかわした翔也は、

 「じゃーな、バネ太! オーディション、ビビって逃げんなよぉーっ!!」


 「「「ギャハハハハッ!!」」」


 三人は笑いながら姿を消した。



 ※※※



 「え〜ん、怖かったよぉ〜っ!」

 すかさず抱きつく天。


 「麻里っ! 流石に煽りすぎだぞ! アイツ、もしかしたら裏で手を回してるかも知れないだろっ?」


 ちょっと強目の口調で言うと、麻里は急にオロオロし出して、


 「そっ、そーだった! どっ、どうしよぅっっ!!」


 その場にペタンと座り込んで泣き出してしまった。


 「ふぇ〜んっ」


 泣いている麻里を、沙樹が後ろから抱きしめて、

 「大丈夫よ、今回のオーディションで変な事する人なんていないわ! ……みんな凄い情熱持って、特撮、アニメを作る人達だから、ねっ!」


 「さっ、沙樹さぁ〜ん! ……ひっくっっ」


 麻里は振り向き、俺を見て泣きながら、

 「バネ太、大丈夫だよね?」


 『おうっ、任せとけ! 変身っ!』


 ポーズを取り、変身ポーズをしてみせた。


 「はぁっっ、……やっぱり『その声』しゅきっ♡


 第14話につづくよー



 ※※



 出た! イヤなヤツ登場!

 わた……麻里ちゃん、アイツらのおもちゃにされちゃうのぉ〜っ?


 「頑張れバネ太! ★をあげるよ!」

 「何かあったら『フォロー』するよ!」


 えへへ、お願いしま〜す♡


 ♪読んで頂きありがとうございました♪

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る