第12話 二人で一緒にいる時間が長くなると、距離は縮まるわよねぇ……。


 マシュマロ事件の真相は闇の中、あれから数日後、俺と麻里は『JASAC』(ジャパンアクションスーツアクターズクラブ)の練習風景を見学に行った。


 社長が偶然にも昔からの知り合いだったらしく、理由を話したら『気合い入れてやるからいつでも来い!』と言ってくれたそうだ。怖っ!


 『JASAC』の師範、高石誠司たかいしせいじさんは、歴代特撮ヒーローの主役を長年に渡り演じていて、つい最近後継者にバトンを譲り、今は若手育成に力を注いでいる。

 

 俺が小さい頃好きだったヒーローの中の人は、調べてみたらほとんどが高石さんだった。


 いわば『俺のヒーロー』だ!



 そうこうしている間に、俺達は練習場の門を叩いた。



 ※※※



 中に入ると、既に生徒達が準備運動を始めていた。


 その中で、ひときわオーラを放っている男が俺達を見つけてこちらにやってきた。



 「やぁ、赤羽くん、王子から話しは聞いてるよ! 良かったら生徒達と一緒に練習参加してみるかい?」


 「光栄です! 宜しくお願いします!」


 憧れのヒーローから握手を求められて、俺は舞い上がって両手で強く握りしめてしまった。


 「バネ太、……大丈夫なの?」

 麻里が心配そうに顔を覗き込んで来た。


 「心配するなっ! 俺、こう見えても小、中、高と、ずっと空手習ってたんだぜ! ……今日は、あくまでも声を出すタイミングとか、動きのリズムを勉強しに来ただけだから平気だろ?」


 俺は麻里に親指を立てて、余裕の笑みを見せた。



 ※※※



 余裕……のハズだった。


 最初の基本である柔軟運動からついていけず、麻里に腹を抱えて笑われてしまった。くそーっ


 今回は『戦国戦隊武将ファイブ』という事で、時代殺陣(刀を使った殺陣)と現代殺陣の二種類を体験させてもらう事になった。


 攻めの時、又は、やられた時のリアルな声を間近で感じる事ができ、やはり生徒に混じって体で覚えるのはとても貴重な体験となった。


 ……まぁ、何も出来ずにやられっぱなしだったんだけどね。 


 そんな俺に向かって高石さんが、

 「赤羽っ、稽古つけてやるからどっからでもかかってこいっ!」


 なんて言ってきた! マジかっ?


 小さい頃からの憧れのヒーローに向かって行くなんて、俺、……絶対悪者だよね?


 だけどこんなチャンス、滅多にないんだから高石さんに俺の全力空手をお見舞いした。


 そして全てかわされ気が付いたら、……俺は麻里の膝の温もりで目が覚めた。


 「いてて、……アレ、柔らかい?」


 上を見上げると麻里が優しく頭を撫でながら、

 「ふふっ、『素人にしては中々だったぞ!』って言ってたわよ♪」


 まるで聖母のような包み込む笑顔で囁いた。

 

 「よう、……起きたか?」


 高石さんがやって来て笑いながら、

「悪い悪いっ! ムキになって突っかかって来るからつい手ぇ、出しちゃったよ!」


 そして俺の前に座り、胡座をかいて、


 「赤羽くんは分かってるだろうけど、俺達の仕事は裏方で、……まぁ、顔も出ないし、キツイし、ケガも絶えないけどさ……、ヒーローがキメたカッコいい変身ポーズ、キックやパンチを子供達は見て、マネして憧れてくれるんだよ! 同じ裏方の声優さんだって同じだろ? ヒーローにカッコいい声、魂を注ぎ込んでくれよな!」


 肩を叩いてニッコリ笑い、


 「そうする事で俺達は、もっともっと格好良くなるんだからさっ! オマエの事、応援してるから、絶対オーディション勝ち抜けよっ!」


 「ありがとうございます! 皆さんのピリついた空気感、息遣い、とても勉強になりました!」


 俺は正座をして、深々と頭を下げた。



 ※※※



 すっかり日が暮れて、俺達は高石さん、生徒達にお礼を言って練習場を後にした。




 「蒸し暑いわねぇ〜、バネ太も食べる?『パキコ』」


 コンビニへの帰り道、俺と麻里はアイスを食べながら今日の出来事を話していた。


 「高石さん、ちょっとコワモテで……、でもカッコ良くて素敵な人だったねー!」

 

 「あぁ、何たって小さい頃からの俺のヒーローだからなっ!」


 「ふふっ、何でバネ太がドヤ顔してるの!」


 「あはははっ! 俺もヒーローになるぞーっ!」


 そう言って俺はライダーの変身ポーズのマネをした。


 「バネ太、『新しい声』で『変身っ!』って言ってよ!」


 「ようしっ!」

 俺は麻里に向かって向かってポーズを決め


 「『変身っ!』」


 「しゅっ……っ! しゅきいぃぃっっ♡♡」


 ヘナヘナになって俺の腕にしがみついて来た。


 「ふふっ、バネ太は私のヒーローだよっ♡」



 「……」


 「私は、……なれるかなぁ、誰がのヒーローに……」


 腕をギュッと掴まれて、何故か寂しそうに笑う麻里の顔を見たら、思わず頭を撫でていた。


 「何言ってんだ! 麻里は声優を諦めかけていた俺に、もう一度夢と希望を与えてくれた立派なヒーローだよっ! 何があったのかは知らないけれど、悩んでいる事があるんなら言って欲しいんだ。……今度は俺が全力で麻里の力になってあげたいからさっ!」


 麻里の肩を抱き、『新しい声』で、


 『何があっても俺がオマエを守るっ!  俺は……麻里のヒーローだからさっ!』



 「バネ太、……ありがと♡」



 麻里は俺の胸に顔を埋め、肩を震わせていた。

 俺は何も言わずに震えが止まるまで、優しく頭を撫でながら麻里を抱きしめていた。

 


 「もう、……大丈夫っ! コンビニに、帰ろっ♡」


 風が生暖かく蒸し暑い夜に、麻里は俺の腕に絡みつきながら歩いているけど、不思議と不快な気持ちにはならなかった。



 第13話に続きます。



 ※※


 天「ピピーッ!」「協定違反っ!」

 沙「私の出番ないのっ?」


 ちょっとだけ進展、した、かな?

 

 「麻里ちゃん、何があったのー?」

 「やっぱり『麻里推し』するよー!」


 その前に、……やる事、分かってるわよね!

 ヒント: トランプの柄、天気の良い日夜空に見える


 次回、またまた気になるアイツが再登場? 


 ♪読んで頂きありがとうございました♪

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