Outside of inside Inside of outside of outside of

 夕暮れの帰り道。エリカと2人で歩く。

 同じクラスで同じ友だち。出来事は殆ど共有しているので、目新しい話題もない。

 無言で2人、ただ家へと向かう


 会話がない事に、想いは無い。

 気まずさも感じない距離感で、無言は無言以外の意味を持たない。言ってみれば恋人を経ないで家族になってしまったようなもので、一抹の喪失感を感じたりはする。


「エリカはさ、部活とか、友だちと遊びに行ったりとかは無いの? オシャレなカフェとか」

「なんで?」

「なんでって……毎日学校行って、勉強して、まっすぐ家に帰って。それで青春完結していいのかなって思ってさ」

「わたしと帰るの、つまらない?」

「そう言う話じゃないさ」


 エリカと俺は幼馴染で、お互いのことが分かっている。分かり過ぎている。

 世間話として濁したかったのだが、それすらもあっさりと見透かされてしまう。


 恋人以上友だち未満の関係性など、今更作るのも面倒だ、と。


 そんな事を言おうとしたけど、そんな事を言うのも気恥ずかしい。

 そうやって言葉をひっこめたことさえ、きっとエリカにはお見通しなのだろう。


「そこは誘うとこじゃない? わたし、モテるんだよ」

「なんで俺が、エリカを?」

「ふ~ん、そういうこと言うんだ?」


 エリカはつまらなさそうに、空を眺める。

 そこにかわいらしさは無い。いや、顔もかわいいし、しぐさもかわいい。

 でもクラスの男達に見せるような、計算高いかわいさが感じられなかった。


 女の子は化粧をするように、あざとさを身に纏う。

 今のエリカにはすっぴんを見せられているようで、どことなく野暮ったさを感じてしまう。


「わたしね、告白されたんだ」

「…………」


 エリカはさらっととんでもない事を言う。

 でもいつものことだ。エリカはかわいくて人気で、毎日のように告白されている。むしろまだ告白していない学生がいたことの方に驚いてしまう。


「気にならないんだ?」

「断るんだろ? ずっとそうしてきたじゃないか」

「ふ~ん……そういう態度?」


 エリカはジト目を送ってくる。

 顔をそむけると、あっちも視線を外したのを感じた。


「付き合ってみようかな。明日デートしてくれって言われてるの」

「……誰にだよ?」

「住良木」


 住良木が? なんで?


 住良木は俺の親友で、俺の気持ちも知っている筈だ。

 それなのに、どうして?


「いいんじゃないか?」


 混乱して、なにがなんだかわからない。

 心の中では泣きそうなのに、心にもない返事をしてしまった。


「そ」


 エリカは短く応える。

 それ以上、お互い何も口にできなかった。


 やがてエリカは、じゃーね、と言って走り出した。急ぎの用事を思い出したとか。

 家はまだ遠い。

 俺は幼過ぎて、大人びていくエリカを追いかけることができなかった。


 思えばそれが、エリカを見た最初で最後だったのだろう。

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