12 Outside of inside of inside of

 思った通り、食堂は生徒でごった返していた。ただ幸運な事に、席はまだまだ空いているみたい。やっぱり今日はついている。

 先に席を確保しておくなんてケチ臭い事はせず、まずはカウンターに注文に向かった。


 こういった行動を友達にはよく破天荒なんて言われるけど、俺は特に気にしたことはない。大多数の場合は困ることもないし、困ったら、その時はその時だ。


「なににしようかな?」


 唐揚げラーメンがいいかとも思ったが、ふと値段が怖くなる。唐揚げラーメンには唐揚げが載っているので、普通のラーメンよりも高いのだ。だからお金がかかる。


 お金は命よりも大事という訳じゃないけど、お金がないと生きていけない。お金がないと辛いし、お金を無駄遣いするという事は、自分の未来を狭めることに他ならない。


 いくらあったかな? 確認のために財布を開いた。


「わぁ!!?」


 財布の中には、万札が沢山入っていた。

 そうだ、お金なんて気にするのは馬鹿らしい。この世界が資源に満ち、奪い合う必要が無ければ誰も苦しまない。

 見栄や優越感のために向いてない仕事なんかせずに、自分の才能にあった、自分が楽しめる仕事を好きなだけする。

 それが人々にとって一番いいし、社会の理想的な形の筈だ。


「唐揚げ増し増し豚カツチキン南蛮天ぷらラーメンお願いします!」


 お金を掴んでカウンターに置く。今日は豪華だねとからかわれたが、多少の嫉妬は仕方がない。むしろ自分の価値を高めてくれると、心地よささえ感じてしまう。


「おー! 凄い!」


 席について待っていると、すぐに夢のようなご飯が届けられた。

 ラーメンの上に山盛りの唐揚げが敷き詰められ、本みたいに分厚い豚カツ、顔くらい大きなチキン南蛮、ステーキくらい大きな天ぷらが載っている。

 当然お決まりの席は、壁際の柱の席。壁と柱に囲まれているので、薄暗く落ち着くのだ。


「いただきまーす!」


 テーブルマナーなんて知らないけど、ナイフとスプーンは端から使えばいい筈だ。まったくマナー講師という奴は、ムカつく奴らだ。

 勝手なマナーで指摘して、人を委縮させる。食事というのは、楽しく美味しく食べるのが一番のマナーだと言うのに。


 とにかく、茶色い揚げ物が大量に盛られたラーメンを前に、どれから手を付けるか迷ってしまう。

 唐揚げから行きたいところだけど、最初に唐揚げを食べきってしまうと、後で悲しい事になってしまうだろう。

 なら天ぷらから行くべきか? しかしそれは通でないのは、太陽の王子さまだって知っている。


 いや! 唐揚げが無くなったら追加すればいいだけか!


 確信的な事を思いつき、未来への不安が消えた。

 そうだ、訪れるか分からない不幸を不安視し、足を止めてしまうのは建設的じゃない。リスクを見落としたまま、進める所まで進むのが青春だ。


 後は好きなものを堪能するだけだと気分が乗った所で、誰かに声を掛けられた。


「ちょっと、星咲。時間いいかしら?」

「ご、ごめんね。星咲くん。かなちゃんが、ちょっと話があるらしくて」


 顔をあげると黒髪ツインテールの女の子と、伏し目がちな黒髪ショートの女の子が立っていた。

 ツンデレっぽい釣り目が石谷かな。大人しそうな方が那須かな。この人達はいつも2人でいて、百合なんじゃないかという噂も聞いたことがある。


 俺がいじめられる原因になったカプ厨の2人だ。

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