11 Outside of inside of inside of

 靴箱で靴を履き替え、廊下を進んで階段を登る。ざわざわと心地いい声が静寂を満たし、朝の学校という独特の空気感を醸し出している。

 まだ授業時間には早く、教師に拘束される訳でもない曖昧。現実感の薄いモラトリアムに浸りながら、教室の扉を開けた。


「よ! 直人」

「おはよう、住良木」


 席に着くと、早速住良木が近寄ってきた。相変わらず、朝からさわやかイケメンな笑顔を見せつけられる。


「直人知ってるか? 今日身体測定あるんだぜ」

「常識だよね。学生の本分だよ」

「か~! 身体測定だって知ってたら、朝ご飯抜いたのにな~」

「ラーメン! ラーメンが好きさ。でも母親は家で食べさせてくれないんだ」

「なに言ってんだよ! 最近体脂肪率増えててさ、5%超えちまいそうなんだ」


 住良木は、これ見よがしに自分の腹を撫でる。ボクシングの試合のような、硬い腹筋を叩く音がした。


「なら住良木は、お昼ご飯食べない? 俺は今から食堂に行こうと思うんだけど」

「太っちまいそうだな~。筋トレするか」


 住良木は、一人でうんうんと頷いている。きっとカロリーは敵なのだろう。

 甘いものを食べようとした時も、『わざわざ金払ってカロリーを摂取する意味が分からない!』なんて言われたものだ。


「俺一人で行ってくるよ」


 鞄から財布を出し、席を立つ。住良木が付いてくる様子は無かった。

 人にはそれぞれやりたい事ややるべき事がある。友達だからって、無理に同じ道を進んでも意味は無いのだろう。


 俺は俺で、せねばならぬことがある。そう言う事なのだろう。

 確かに昼休みになると、食堂は生徒で溢れ返ってしまう。早めにいかないと、席に座れなくなる危険性すらあるのだ。


 人生は短いという動かしがたい事実を、まざまざと見せつけられる様だ。

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