8 Outside of inside of inside of

 外は真っ暗だ。町に1つの明かりも無く、星の息吹も感じられない。黒の単色で塗り潰された闇。もしくは神様が作り忘れたかのかも知れない。

 夜というには粗雑に落ちる、俺達には関係のない背景。


 ロマンチックな教室に2人切り。俺はエリカとラーメンを食べていた。


「今日のデート楽しかったね~。星人くん、女の子慣れしてる! ねぇ、モテるでしょ~」


 机を向かい合わせにくっつけて、お互いに麺をすする。自慢気なのか嫉妬なのか、声に含まれた柔らかい棘が心地いい。


 これは夢だ。デート終わりに2人でラーメンをすするなんて、こんな奇妙な現実は有り得ない。


「全然モテないよ。それよりごめんね。折角のデートがこんなもので」

「いいよ~。エリカはラーメン好きだし。それに、何を食べるかじゃなくて、誰と食べるのかが大切、でしょ♪」


 ラーメンが好きだなんて話は聞いたことがない。エリカはウーバーで美味しいものを頼んだと、結構配信中に喋っている。

 やっぱり夢なんだとがっくりするが、それならそれで楽しまないと損だ。


「本当なら、俺は夜景の見える高いお店予約して、奢ってあげるんだけどね。君は高級フレンチとか好きでしょ」

「好き~」


 砂糖みたいな笑顔に、蕩けるような声。

 シナプスに直接エリカのかわいさが溶け込んで、体が思わず震えてしまう。自分自身の夢を作り上げる能力の高さに、感謝してもしきれない。


「もちろん俺が全部奢るよ。最近さ。女の子に奢りたくないって、あさましい男が増えているらしい。女の子はメイクしてかわいい服を買って、だから奢って欲しいっていう人を、娼婦みたいだって叩いてさ。俺は叩かないよ」

「星人くん、大人の余裕だね~」


 気付いたけど、いつもよりエリカが小さい。たぶん俺の目線が高くて、180センチくらいだからだ。


「むしろ、気持ちよく奢らせてくれる女の子の方が、俺は好きだよ。いざお金を払おうとして、『おごられたくないんで、割り勘にして下さい』だと、興ざめだって。あ! 『ありがとうございます。次にデートした時は私が払いますね』とかはいいと思う。さらっと次に会う約束できるし……でも次に会った時も、俺が払うんだろうなー」

「わかる~」


 ごつんと、頭に固いものが当たる。高身長過ぎて、天井にぶつかってしまったんだろう。ラーメンをすすろうとしたけど、いくら待っても手が追い付いてこない。


「デートでトイレに行く時も、俺はスマホをテーブルに置いていくよ。信頼してるっていうかさ、嬉しいでしょ。浮気してないって証明にもなるよね。てか浮気する男ってどうなの」

「嬉しい~」


「むしろ浮気する男の方がモテるって、おかしいよ。浮気できる男に、『自分がいる事で浮気しないで欲しい』『浮気できない男には雄としての魅力がない』とか。自分自身に恋愛以外の価値を見出せないからって、人生の判断価値の全てを浮気に持っていくのはどうかと思う。むしろ男からすれば、5股やセフレなんて作る男は、S○X依存症で何一つ我慢できないんじゃないかと、ただただ心配になるね。別に羨ましいとかじゃないよ? 俺は付き合ったら、絶対浮気なんてしないのに。世の男は全員浮気すると思ってる女、頭悪いって。浮気する様な攻略難易度が低い男としか付き合えないからってさ、自分の無知を一般化し過ぎ」

「Erica(Face:笑顔)(Word:ホントそれ~)(Move:大きく頷く)」


「たとえば5人の男がいて、その内1人が浮気する男だとするよ。そうすると男側から見れば浮気する確率は20%だ。で、5人の女がいるとする。そいつらが1人の男に、五又掛けられてるとする。そしたら、女から見て浮気される率は100%だ! 20%と100%っていう、明らかに認識の差がある。こんな風に男と女では、見る世界が全然違うんだ。それを一般化して主語を大きくするなんて、女ってバカだよね~」

「1「ホントそれ!」、→2「星人くんって頭いい~」、3「自分も主語大きくない?」、4「2390jfg298yld-sic0


「それに俺はさ、毎日口に出して愛してるっていうよ。男って、自分の事は察して欲しいくせに、自分は「好きなんて言葉にしなくても察しろ」なんて言うんだよ。バカだよね。それに愛を感じたいんじゃなくて、女の子は愛してるって言われたいんだって」

「You are only allowed to say "yes."」


「あとマザコン男もキモイよね~。彼女に対してママの名前を出すのって、ママと比べてあげたら、女の子が発奮すると思ってるらしいよ。自分にとって偉大な存在は、相手にとっても偉大な存在だって思いこんでるらしい。狂信者っていうか、自己中心性が抜けてないんだよね。自己中心性っていうのは、子どもに○×問題を作らせると、答えが全部」

「」

 あハハハハハハハハハハはハハハハハハハハハハはハハハハハハハハハハはっはあっはははははははははははははははっははははははははっはははっははははっはははははっはははははっははははっはははっはははははhっはははははっははははっはははっははっははっはははあはははは


 世界から笑いの圧で推す潰される。それは夜明けであり、破滅であり、最果てであり、行方知れずを意味し、行方不明らしくて、猫が生まれたという事。にんじんは燃えた。パンもね。猫の奴隷として人間の脳はある。大地が裂け、ひな祭りは豆を食べられ、歩き続けるつまり、膨らんで帰ってこない、教室が丸くなり、発売日は嘆き悲しむ。ニヤニヤ笑いだけを残して消えてしまう。探せ! つまり見付けたからおはよう。燃やせ、飛び出せ、かなたの果てに。無限に伸びる俺の首を、エリカが引きちぎった。おはよう。食べた? 食べないの? おあひょう。力が出ないよ。夜から元気だ!

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