Outside Inside of outside of outside of

「も~! こんなところに居た! 探したんだから」


 屋上でサボっていると、お節介な幼馴染があがってきた。

 彼女はぷりぷりと分かり易い祇園を振りまきながら、ずかずかと近付いてくる。


「ほら、準備中だよ! こんな所にいないで、皆待ってるから」


 寝っ転がってくる俺の所に、無警戒に向かってくる。


「それ以上来ると、パンツ見えるぞ」

「えっち……」


 謂れのない中傷を受ける。こっちはフェンスに背を預けて座っているんだから、目線が低いのは仕方ないだろうに。

 エリカは俺から一定の距離を取って停止した。もう少し近付いてくれればパンツが見えたかもしれないが、まあ膝上の短めのスカートから覗く太ももは、それはそれで輝かしいのだが。


「ふわ~……眠い」

「みんなが働いてるのに、いいご身分ね」


 また文化祭の話だ。この委員長気質め。

 エリカの前ではいい格好しているだろうが、きっとクラスの8割ぐらいは働いてないはずだ。


「エリカに言ってなかったけどな……俺、右足が一本しかないんだよ……だから手伝いは免除されてるの」

「え……」


 それっぽい表情で左足を撫でてみた。

 エリカは聞いてはいけない事を聞いたかのように、しゅんとして戸惑っているのが見て取れる。

 俺の左足が義足だとでも思ったのだろうか。素直な奴だ。


「そして、左足も一本しかない」

「うん………うん? あれ?」


 エリカは混乱しているらしく、ポケッとした表情を見せる。

 自分の指を折って、かわいらしく情報を整理しているようだ。


 うん。右足は元から一本だし、左足も元から一本だ。おかしなことは言ってない。


「それにさ、エリカ。俺達のクラスの出し物さ……大きな闇があるんだよ。手を貸すのは、気がのらないっていうかさ」

「闇……え、普通のフランクフルト屋さんじゃないの?」

「そう思うでしょ? でもね……」


 座ったまま体勢を整えて、目に入ってくる水分を拭った。

 ガチャンと、鉄線が軋む音がした。


 ゴクリと、鍔を飲み込む音がする。相変わらず、素直な子だな~。


「俺達の模擬店さ……死んだ豚の肉を出す気なんだよ。住良木が言ってた」

「え…それ大丈夫なの? 住良木くんの勘違いとか……」


 エリカの顔が、見る見る強張っていく。

 否定するようにゆっくりと首を振り、小さく息を漏らした。


「死んだ肉って…………ん? あれ?」


 あ、気付いたらしい。

 やっとがおかしいと思い至ったらしく、考え込む顔がかわいらしい。

 つい笑ってしまった。


「もう! 死んだら肉なのは、当たり前じゃない! 思わせぶりな事言って~」

「あははははは」

「それに右足が一本も当たり前! 心配しちゃったじゃない」

「ごめんごめん」

「もう!」


 グシャ


 突然目の前に、エリカの靴裏が迫ってくる。

 顔面が砕け、硬質なゴムが脳ミソをかき乱す。鉄線が灼熱を生み、後頭部がどろどろと流れ出ていった。


「足をあげたら、パンツ見えるぞ……」

「スカート押さえてるもん」

「白!」

「は・ず・れ!」


 べ~と、かわいらしく舌を出し、エリカはぴょんぴょんと離れていく。

 一瞬見えた気がしたけど、影の関係で見間違えてしまったらしい。残念だ。


「下着が白じゃなかったら、校則違反じゃないか」

「いいんです。ど~せ、見る人もいませんしぃ?」

「……で、答えは?」

「べ~! 答えを知りたいなら、口説いてみなさ~い」


 うふふ、と妖艶に笑う。跳ねるような足つきで、校舎の中へと戻っていった。

 まったく……かなわないな。


「ああ……雲が白いなぁ……」


 寝っ転がって、青い空を眺める。あの分厚い雲の上には、満天の青空が広がっているんだから。

 ところでエリカは一体、何をしに来たのだろう?

 人にとどめを刺しておいて、告白の1つもないとはやるかたない。

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