食肉工場 Inside of outside of outside of

 背の低い人が困った顔で鶏を見詰めている。

 どうしたのかと尋ねると、目を輝かせて語ってきた。

「この子ね、出荷されてお肉にならないといけないの。でも何度怒鳴っても、自分でお肉にならないのよ」

 そりゃそうでしょうよ。あの食肉工場に連れて行ったらどうですか?

「だからね、ご飯を抜きにして、羽も全て毟ってやったの! でも全然反省してない。お肉になる気がゼロなのよ」

 そりゃそうでしょうよ。あの食肉工場に連れて行ったらどうですか?

「いう事を聞けないなんて、育て方を間違ったのかしら。もっと厳しいバツが必要よね! 友だちに電話させるわ。そして『私は自分でお肉になろうとしません』って土下座させるの! そうすればきっと、自分でお肉になる筈よ。服も全部捨ててやったの! お小遣いも没収よ! 裸にして外に放り出してやったし」

 そりゃそうでしょうよ。あの食肉工場に連れて行ったらどうですか?

「あ! ちょっとお肉になってきたわ。でも自分で反省してお肉になってる感じじゃないわね。まったく、最近の鶏は根性がないわ! 私の若い時は、もっと厳しくされたものよ。ご飯を抜かれたら、泣いて頼んで喜んだものよ。それが、こんなねぇ。時代なのかしら?」

 そりゃそうでしょうよ。あの食肉工場に連れて行ったらどうですか?

 ゴリュゴリュバリバリゾリゾリガキンバガバガドグリドリドリドリ

 突然食肉工場から、引き裂かれる様な悲鳴が上がった。

 まるで人が精肉の機械に巻き込まれ、肉も、骨も、血管も、筋も、内臓も、生殖器も、すべて砕かれ、助けを求める声すらも押し潰されたみたいだった。

「これ、いる? 6時66分だけど」

 背の低い人が、やけに高い加工肉を差し出してきた。

 牛ではない、豚でもない、ましてやコオロギなんかじゃない。

 恐らくは……エリカだ。こんなになるまで毒殺されるなんて、不憫で仕方がない。

「勿体ないでしょ、全部食べなさい! すぐ好き嫌いして! アレルギー? そんなものたくさん食べてれば治るのよ! 豊かな国と貧しい国の違いは分かる? 貧しい国には好き嫌いもアレルギーも無いの! 偉いわよねー」

 うぐっ……ぁが……ぐぅ…くるし……ゴリュゴリュバリバリゾリゾリガキンバガバガドグリドリドリドリ

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