あとがき・解説

【あとがき――という名の簡単な解説】



 はじめましてのはじめましての方ははじめまして、そうではない方はいつもお世話になっております。吹井賢です。


 こちらの作品は、『第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト』の短歌部門に募集するために作った歌です。いやー、楽しかったですね。元々、高校生くらいの頃に和歌(短歌じゃないよ)を作っていたりしたのですが、それ以来です。

 一応、商業作品でも冒頭詩を付けていたりするので、詩らしきものは作る方だと思うのですが、やっぱり短歌はいいですね。粋です。

 まあ、無粋なことに、今からするのは備忘録を兼ねた歌の解説なんですけど……。



 ・ワンルーム 真冬の部屋の衣装棚 君のコートはもう、そこにはない


  ストレートに失恋の歌ですね。二人で暮らしていたワンルーム、衣装棚にあった恋人のコートはもう、なくなってしまっている。そこで、「ああ、別れたんだな」と改めて実感する……。

  個人的な不満点は「ワンルーム」と「真冬の部屋」がほぼイコールなことですね。どちらか片方で良いと思います。



 ・順繰りに歌う様子は中学生 変わったことは、コーラがビールに


  友達の歌です。学生時代から、歌う曲も歌い方も、全然変わらない。唯一、変化したのがアルコールを飲めるようになったこと。

  一年ぶりとかに会った友達とカラオケに行っても、延々とガンダムソングを歌うだけだったりして、なんて言うか、こういう子どもっぽさは僕は好きです。友達の前ではいつまでも童心を忘れずにいたいですよね。



 ・「こっちかな?」 悩んで駒を摘まむ手に 幼い甥の成長を見る


  甥の歌です。僕の甥は小学生なんですけど、小さい頃から将棋が指せて、会う度に対戦しています。今では随分強くなりました。

  一分足らずで作った歌なんですが、なんと作者が気付いていないうちにダブルミーニングになっていました。「駒を摘まむ手に成長を見る」って、僕は指し方が上手くなったことを詠んだつもりだったんですけど、これ、「小さかった手が大きくなった」とも読み取れますよね。

  こういうミラクルがあるから創作は面白い。



 ・無人駅 単線車両が始発待つ 私と彼の発着場


  人生の歌、でしょうか。朝の無人駅。誰も乗ってない車両に、「私もコイツも、ここから行って、ここに帰ってくるんだな」と思っているような。

  故郷は良いものです。



 ・「おめでとう」 結婚を聞いて、リプ送る 顔も名前も知らない友に


  ネットの友情の歌です。趣味が合って繋がった、ネットの向こうの友人。素顔も本名も知らないけれど、大切な友達で、めでたいことがあれば祝福したい。

  個人的に好きな歌です。



 ・ひさかたの雨の降る日をただ二人 猫とながめは見れど飽かぬかも


  現代語訳:「長雨の降る中、猫と一緒に窓の外を眺めているが、隣にいる猫も、ここから見える眺めも、飽きないものだなあ」。

  本歌取りが上手くハマった気がしています。元の歌が「気が沈むなあ」というものなのに対し、これは「猫がいるからオールオッケー!」という感じです。



 ・かくばかり君を偲ぶる夏の夜よ なほうつくしき影ぞ残れる


  現代語訳:「こんなにもいなくなった君が恋しい夏の夜。君の思い出と月の光は、美しいまま、ずっと残っている」。

  失恋の歌ですね。我ながらいい歌だと思います。



 ・いといとし 別れは悔しきおおん猫 我を待たずともいま帰り来む


  現代語訳:「本当に可愛いなあ。猫と別れるのは悲しくて仕方がない。私を待っていないだろうけど、すぐに帰りたいよ」。

  猫の歌です。元の歌が「あなたが待っていると聞いたなら、すぐに戻りますよ」なのに対し、これは「待っていないだろうけど、すぐ帰りたい」なのが、人間と猫と関係って感じで好きです。



 この作品が、皆様の一時の楽しみになれば、それが作者にとって最高の喜びです。

 それでは、吹井賢でした。

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【第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト短歌の部】/吹井賢 吹井賢(ふくいけん) @sohe-1010

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