第32話 紅酸漿と青い悪魔

「っ!?これって……!?」


 玲香はそれを見て言葉を失った。なんと、エターナルブレードの淡い光が強さをましたのだ。


「っ!?」


 当然本人ですら驚いているのだ。フィラメルもその剣を見て驚き言葉を失う。


「これって……っ!?」


 その時、コックピットないに警報が鳴り響く。そして、ある文字がでてきた。


「嘘っ!?エナジーがあと半分しかないの!?」


 玲香は思わずそう叫んでしまった。そう、既にエナジーが半分を切っていたのだ。


「このブレード、エナジー消費量が凄い……!」


 玲香は呻くようにそう呟いてブレードを収めるか悩む。しかし、前を向きブレードを握り直すと構え直して走り出す。


「活動限界が来る前に倒す!」


 玲香はそう叫んでフィラメルに向かってその青い光を放つ刃を振り下ろした。しかし、フィラメルはその刃を剣で難なく止める。


「無策で突っ込んでくるとは、無謀だぞ!」


「無策じゃない!」


 玲香はそう言って操縦レバーに付いているボタンを押す。すると、エターナルブレードが青白い光を放った。そして、フィラメルの持つ剣が白い光を放ち始め、どんどん膨らんでいく。


 そして、ほんの数秒でフィラメルの剣は破裂した。


「っ!?何だ!?今の攻撃は!?」


「っ!?これが……エターナルブレードの力なの!?やれる!やれるよ!この力なら!」


「貴様……どうやら私も本気を出す必要があるようだな」


 フィラメルはそう言って操縦レバーを強く握りしめる。そして、フォースを発動させ機体を青い星屑のような煌めきで埋めつくした。


 玲香はその姿を見てゴクリと唾を飲む。そして、深呼吸を3度するとギュッと拳を握りしめた。


「……」


「……」


「……」


「……」


 それから少しの間沈黙が続く。しかし、その沈黙は玲香にとって苦しい時間だった。まるで、体を潰されるかのような圧力に冷や汗が止まらなくなる。


 そして、それと同時に再びシャドウを尊敬する。実践でしか分からないものがあると言うが、さすがにここまでとは誰も思わなかっただろう。その時初めて玲香はシャドウがこの圧力を受けながら戦っていることを知った。


「こんな圧力をいつもうけてたなんて……あの時と全く同じだ。でも、私ももう四の五の言ってられる立場じゃないんだ!やるしかない!」


 玲香はそう言って剣を構え直しフィラメルに向かって行く。フィラメルはそんな紅酸漿を見て壊れた剣を捨てるともう1つ背中から剣を取り出した。


 その剣はさっきまでの大剣とは違って普通の剣である。フィラメルはその剣を構え玲香の攻撃に受けて立とうとする。


 そして、2人のけんが再び交わった。その瞬間再び辺りに衝撃が走る。そして、辺りの木々がなぎ倒されていく。


「どうした!?使わないのか!?」


「クッ……!ここで使ったら、エナジーが足りなくなっちゃう……!使えてもあと5回程度……ダメ……ここで使っちゃ……っ!?」


 玲香がそう呟くと、突如右脇腹の辺りに強い衝撃を受ける。そして、唐突に足が中に浮き飛ばされる。見ると、フィラメルが足を伸ばしていた。どうやら紅酸漿は蹴り飛ばされてしまったらしい。


 玲香は飛ばされる紅酸漿が何回か地面にバウンドしたところで何とか体制を立て直し着地することが出来た。そして、地面を引きずりながら何とか止まる。


「ダメ……!出し惜しみなんてしてられない!」


 玲香はそう呟いて全力でフィラメルへと向かっていく。フィラメルもそんな紅酸漿を見てブラウトイフェルを全力で動かす。すると、さっきまでの動きとは別物でとても速くとても正確に玲香のコアを狙ってきた。


 玲香はその洗練された動きに動揺しながらも何とか対応していく。しかし、中には対応しきれないものもあり機体に傷がついていく。


「強い……!でも、まだ負けてない!」


 玲香はレバーを強く握りしめボタンを押す。すると、エターナルブレードから光が放たれた。そして、力強く振り払う。


「フンッ!舐めるなよ!」


 フィラメルはそう言ってその剣の攻撃を受け止めた。すると、直ぐに剣は膨れ上がっていく。しかし、なんとフィラメルは破裂する前に剣を弾いたのだ。


「っ!?」


 玲香は思わずその人間離れした動きに言葉を失った。そして、何が起こっているのか分からず動揺してしまう。


 フィラメルは動きを止める玲香を見ながら一気に近づく。そして、少し膨らんだ剣で何度も同じ動きを続ける。そして、玲香の攻撃を防いでいく。


「フッ!その程度か!?」


「そんな……!?人間離れしすぎてるわ!」


 玲香は思わずそう叫ぶ。そして、動揺しながらも何とか攻撃を繰り出す。


「どうした!?もう一度やらないのか!?」


「クッ……!出来ないことがわかってるくせに!エナジーもあと少ししかない!あと3回だけだなんて……」


 玲香は呻くような声で叫ぶと1度力を止める。そして、普通の剣で戦う。フィラメルはそれが分かるとより一層攻めの勢いが上がった。


「どうやら運は私を味方したようだな!」


 フィラメルはそう言ってさらに攻撃を仕掛けてくる。しかし、玲香も操作に慣れてきたのか反撃を仕掛けた。


「っ?ほぅ、やるようになったではないか。いい動きだ!だが、私には通用しない!」


 フィラメルはそう言って玲香の攻撃を全て捌いていく。玲香も負けじと何度も攻撃を仕掛ける。右左後前、全方位からの攻撃を仕掛ける。しかし、なんということか、フィラメルはその攻撃を全て防ぐのだ。


 たとえ後ろに回り込もうと防がれる。見えないところから攻撃しようとも防がれる。隙を着いて死角から攻撃しても、隙をつけたと思いこんでいるだけ。当然防がれる。


「なんで当たらないのよ!」


 玲香はそう叫んで何度も攻撃を仕掛ける。しかし、フィラメルはニヤリと笑うと一瞬の隙をつき反撃した。すると、一瞬で形成は逆転する。


「しまっ……!」


 玲香はそのまま右の腹部を殴られ飛ばされる。そして、遠くにあった木に紅酸漿の背中を強く打ち付けてしまった。


「あああ!」


 玲香の小さな叫び声と共にコックピット内はアラーム音が響き渡った。画面を見ると『バックパック損傷』という文字が浮かび上がってきている。


「……強い……こんなに強いなんて、一体どうやって勝てって言うの!?これじゃあ負けちゃう……!」


 玲香がそんなことを呟いていると、既に目の前にはフィラメルが来ていた。


「これで終わりだな。死ね」


 フィラメルはそう言って剣を振り上げる。玲香はそれを見て完全に死を覚悟した。


「そんな……!こんなところで死ぬなんて……!」


 玲香はそう言って涙を流す。


「フッ、貴様が私の軍にいなかったことが惜しいな。引き抜きたいところだが、どうせ貴様は我が軍へ入ることはあるまい。それともなんだ?死にたくないから我が軍へと下るか?」


 玲香はフィラメルのその言葉を聞いて言葉を失った。なんせ、普通なら否定するはずなのに、それを受け入れようとしてしまっている自分がいるからだ。


「ダメ……それだけは……」


「フッ、やはり我が軍へと下ることは無いか。なら死ね」


「っ!?それも嫌だ……!誰か助けて……!」


 玲香はそう呟いて目を閉じそうになった。その瞬間目の前にイガルクが突っ込んでくる。そして、ブラウトイフェルに抱きついた。


「……え?」


「……え?」


 その突然のことに玲香もフィラメルも同じことを言って呆然とする。すると、イガルクに乗っている男が言ってきた。


「間に合ったな」


 そして、その瞬間イガルクは大爆発した。

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