第31話 出撃!紅酸漿

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━湊月と玲香が合流する少し前……


「シャドウは今どこにいるんですか!?」


「分からない!連絡がつかないんだ!」


「確か、ここで逃げてる途中で合流するはずだったんですよね?もしかして何かあったんじゃないんですか?」


「そんな……」


 玲香はその言葉を聞いて心配になった。そして、気炎の中から外を見渡す。すると、そこには7つの気炎が車を保護するように進んでいた。


 シャドウの作戦は完璧で、月華団はもう山の上から脱出している。そのため、月華団は皆喜び騒いでいる。しかし、玲香はそれでも喜べなかった。


「……」


「……玲香、行きたいのか?」


「……はい」


「……だが、行かせる訳にはいかない。これはシャドウの命令だ。そして、シャドウが居ない今この月華団をまとめあげるのは俺に任されている。俺からの命令だ」


 山並は少し冷たいと思いながらもそう言った。そして、車を走らせる。しかし、玲香は言った。


「それでも心配です!お願いします!私に紅酸漿に乗らせてください!」


「「「っ!?」」」


 その言葉を聞いた瞬間その場の全員が目を疑った。なんせ、紅酸漿の存在については皆知っていたからだ。これは、シャドウが伝えておいて欲しいということで、七星剣が説明をしたのだ。


 そして、知っているからこそ全員言葉を失った。なんせ、紅酸漿に乗るということは、気炎に乗るより危険な状況になるということだからだ。


 基本的に気炎の活動時間は12時間だ。エナジーを交換すればさらに活動できる。


 しかし、これは何もしなかった場合だ。当然動いたり戦ったりすればエナジーは減る。気炎だと戦うことも含めれば6時間が限界だろう。


 しかし、紅酸漿の活動時間はそれの半分の3時間。何もしなかったとしても6時間が限界なのだ。ましてや、これから死地に向かいたいと言っているのにそんな危険な機体には乗せられない。


 それに、この時月華団のほとんどは気がついていた。恐らくシャドウが戦っている相手は青い悪魔だろうと。さすがに月華団の全員はその名前くらいは知っている。だから、そんな相手がいる場所に行こうというのに紅酸漿に乗せる訳にはいかない。


「山並さん、紅酸漿の活動時間の予想は?」


「……本当に行くのか?」


「行きたいんです!……行かなきゃ……行かなきゃ私の気が収まらないんです!たとえシャドウにダメって言われても、何かあってからじゃ遅いじゃないですか!」


「……」


 山並はその言葉を聞いて言葉を詰まらせた。ここで玲香を行かせると言うことは、勝てない戦いに向かっていくことになるということだからだ。


 山並は中々『うん』とは言えなかった。だから、何を言っていいかわからず言葉を詰まらせてしまう。


「山並、行かせてやれ。こうなってしまえばこいつはもう言うことを曲げない。見てればわかる」


 その時、七星剣の1人、一星がそう言ってきた。


「一星さん!ありがとうございます!」


「礼を言うのはまだ早い。決めるのは俺じゃない。指揮官だ。代理とはいえ今の指揮官は山並、お前だ。玲香を行かせるか行かせないか、その決断をするのはお前だ。さぁ、どうする?」


 一星は問い詰めるようにそう言う。すると、山並は頭を抱えながら言ってきた。


「……玲香、必ず帰って来るか?」


「はい!何があってもシャドウと二人で帰ってきます!」


「……そうか、なら許可する。紅酸漿に乗りシャドウの手助けをしてこい」


「ありがとうございます!」


 玲香は山並の言葉を聞いてお礼を言うと、急いでアサシンブレイカーが乗っている車の中に入った。そこにはアサシンブレイカーを収納するケースのような個室があり、玲香はそこに気炎を止めて降りる。


 そして、真ん中に収納してある紅酸漿に乗り込んだ。そして、紅酸漿を起動する。


「玲香、それの操縦は難しい。だが、四の五の言ってられる状況でもない。実践で慣れろ」


「分かりました!行ってきます!」


「あぁ、行ってらっしゃい」


 玲香はたどたどしい操縦で紅酸漿を操縦しシャドウが戦っているであろう戦場に向けて発信した。


 そしてこの時、紅酸漿の残りの活動時間は約6時間となった……。


 ……そして現在、玲香は約30分でここまで来た。そして、あれよこれよとしている暇に何故かフィラメル・レウ・ムスペルと戦っている。


 玲香は紅酸漿の機能を確認しながらフィラメルから逃げていた。さすがにいきなり対決という訳には行かない。動きもまだぎこちないせいで隙だらけだ。


「難しい……!こんなに難しいなんて、思ってもなかった……!実践でやるのにこんなに大変だなんて……!」


 玲香は呻きながら何とか酸漿を動かしフィラメルから逃げる。


「貴様!ずっと逃げておるではないか!戦う気がないなら今すぐこの戦場をされ!それとも、あの男みたくなにか作戦でもあるのか!?」


 フィラメルはそう言って玲香を追い詰める。しかし、なんと言われても玲香は逃げることを辞めない。


「そんな……!どうしたら……!」


 玲香が慌てている時、突如無線が繋がった。そして、その無線からシャドウの声が聞こえてくる。


『玲香、その機体にはイガルクや気炎には無い特殊装甲が着いている。それを使え』


「特殊装甲?」


『エターナル装備だ。今はブレードしか装備してないが、それで何とかなるだろう』


「分かりました!」


 玲香はシャドウの言葉を聞いて直ぐに装備するボタンを見つけた。そして、なんの迷いもなくそのボタンを押す。


 すると、バックパックになにか異変を感じた。そして、背中に手を伸ばすとそこには剣が着いている。玲香はその剣の柄を握りしめ勢いよく振り抜いた。


 すると、ずっと鞘で隠れていた剣の姿が見える。玲香はそれを見て言葉を失った。


 その剣は戦いに使うとは思えないほど綺麗だったのだ。青と水色の淡い光を放ち神秘的な思いにさせられるような剣だった。


「これが……エターナルブレード……」


『聞け!玲香!そのエターナルブレードはまだ試作品だ!その能力や性能を全て使うことが出来るかは分からない!デメリットもまだ分からない!だから、活動限界が来る前に潰せ!』


 玲香はシャドウのその言葉を聞いてもう1度気持ちを入れ直す。ここには自分の意思できたのだ。だから、逃げることは許されない。


「スゥー……フゥー」


 玲香は1度深呼吸をした。そして、心を落ち着かせ振り返る。すると、フィラメルも突如振り返った玲香に驚き止まる。


「どうした?諦めたか?」


「……諦めてなんかないわ。全てはシャドウの御心のままに!」


 玲香はそう言ってエターナルブレードを構え走り出した。そして、フィラメルのブラウトイフェルと真っ向勝負を挑む。


「ほぅ、面白い!」


 フィラメルもそう言って玲香を迎え撃つ。そして、2人の激しい戦いが始まった。


 2つの剣がぶつかり合う。その度に強い衝撃が辺りに走る。そして、その衝撃で周りの木々がなぎ倒されていく。


「フッ!凄まじい力だな!面白いぞ!」


「クッ……!強い……!強すぎる!これでまだ全力じゃないなんて、シャドウは一体どんな戦いをしてきたの!?」


 玲香は思わずそう叫んでしまう。なんせ、今のフィラメルはフォースを使っていない。そのため青い星屑のような煌めきは無くなっている。


「フハハハハハハ!もっと楽しませろ!」


 フィラメルはそう言って玲香に何度も攻撃をする。玲香はその攻撃を何とか受け止め受け流す。そんなことを何度も繰り返した。


「っ!?強い……!でも、負ける訳には行かないの!」


 玲香はそう叫んでエターナルブレードを強く握りしめる。その瞬間、エターナルブレードの性能が少しだけ解放された。

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