第33話 影を纏いし者

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……2人の戦いが激化するちょっと前……


 玲香と別れた湊月は謎の機体と交戦していた。そして、その戦いは既に激化していた。


「シャドウ!君は仲間も犠牲にするのか!?」


「勝手にあいつが負けると決めつけるなよ!その慢心が負けを呼び込む!」


 湊月はそう言って謎の機体の男が振り回してくる剣を避けると左腕で殴る。しかし、やはりと言っていいほど防がれる。それでも湊月は何度も攻撃をする。


 左腕、右足、左足と使えるものを全て使い攻撃を繰り出す。謎の機体も負けじと反撃をする。そして、2人の戦いはさらに激しくなっていく。


 いつしか、2人は倒すことばかりを考えており、言い合うことも無くなって言った。


 だが、そうなってくると軍配が上がるのは謎の機体の方だ。集中した分技は洗練され動きにキレが出てくる。


 湊月はその速さに何とかついて行くが、片腕だけでは難しい。それに、謎の機体が何世代か、そしてどんな性能があるのかは分からないが、確実にイガルクより性能が良い。


「クッ……!」


「湊月、ここは一旦逃げようよ」


「無理だ。逃げてしまえばコイツは玲香の方に行く。それに、この速さで逃げ切れるか分からない」


「そんな……」


(やはり……やるしかないのか……)


 湊月は心の中で覚悟を決めた。そして、1度目を閉じると深呼吸をして仮面に手を触れる。


「っ!?湊月!それはダメだ!」


「だが、これしか道は無い。それに、この仮面に着いている増幅装置があれば少しはマシになるはずだ」


「でも、アサシンブレイカーにやるのは人にやるのとは全然違うんだよ!君はまだ大規模なフォースの使用はできないじゃないか!」


「出来るか出来ないかじゃない!やるかやらないかだ!失敗を恐れて死を待つくらいなら、失敗してもいいと思いながら挑戦する方がましだ!……今だけは……今だけは!俺に口出しするな!成すべきことのため、やるしかないんだよ!」


 湊月はそう言って仮面を被った。そして、目を見開いて殺気を全力で放つ。そして、操縦レバーを全力で握りしめ影の力を爆発的に強めた。


 その瞬間イガルクのコックピット内が影で埋めつくされる。そして、その影はコックピットをはみ出し機体全てを埋めつくしていく。


 そして、遂に湊月が乗るイガルクは影を纏うことが出来た。


「っ!?何だ……!?」


 謎の機体に乗る男は湊月のイガルクを見て目を疑った。なんせ、イガルクが影を纏ったからだ。


 当然だが謎の機体に乗る男はそれを見てさっきを強め構える。湊月もそんな機体を見て構える。そして、2人は再び交戦状態になった。


「……湊月、大丈夫?」


「問題ない。時間はかけられないが、直ぐに終わらせればいい話だ」


 湊月はそう言って影を使って右腕を作り出し、更には剣も作り出した。


「シャドウ!君はそうやってその力を使って人を殺しているのか!?」


 男はそう言う。


「いつも殺している訳では無い。それに、殺されそうになるから殺しているだけだ。お前らが何もしなければこんなことになる必要はなかった」


「人のせいにする気か!?」


「人のせいにしている訳では無い。責任を理解させているだけだ」


「違う!お前はそうやって人に責任を押し付けているだけだ!だから、そう言って言い訳を作って僕の友達を殺した!」


「お前の友などどうでもいい!どうせその友も、ムスペルヘイム人なんだろ!?日本人を見下して不当な扱いを続けていたんだろ!」


「違う!湊月は日本人だ!アイツは……アイツはずっと不当な扱いを受けてきた!だがそれでもアイツは強く生きてきた!そんな男をお前は殺したんだ!」


 男はそう叫んだ。その言葉をを聞いた瞬間湊月は頭が真っ白になった。なんせ、今目の前にいる男は友を殺されたと言った。そして、その友とは湊月だとも言った。


 湊月というのは、当然星影湊月……そう、シャドウである湊月の事だ。違う可能性もあるが、湊月には自分のことにしか思えなかった。


 そして、それと同時に湊月は思う。湊月の友達ということは、今目の前にいる男は数少ない……いや、たった1人しかいない友達だということ。


「まさか……お前は日彩なのか……!?」


 湊月は思わず誰にも聞こえないような小さな声でそう呟いた。しかし、シェイドには聞こえたようで、不思議そうに聞いてくる。


「知ってる人なの?」


「……あぁ。恐らくだが、アイツは俺の友達だ。名前は……肆皇子しおじ日彩ひいろ。俺が子供の頃からずっと仲が良かった。だが、ずっと前にムスペルヘイムに連れていかれてしまった。ずっと殺されたとばかり思っていたのだが、まさか生かされていたとは」


 湊月はシェイドにそう言った。そして、落ち着いた表情で前を見つめる。しかし、その目には悲しみと怒りの様子が見て取れた。


「湊月……」


「……今は、そっとしておいてくれ。たとえ相手が友だとしても、戦わなければならないんだ。苦しくてもやるしかない……!」


 湊月は操縦レバーを全力で握りしめ奥歯をかみ締め前を向いた。そして、レバーを操作して動き出す。


「どんな理由があろうとも、ムスペルヘイムにいる以上敵以外の何物でもない!全力で潰す!」


 湊月はそう言って日彩に襲いかかった。日彩もそんな湊月を見て全力で迎え撃つ。


 そして、2人の戦いはさらに激化した。


 右左前後、両者共に全方位から攻撃を繰り出す。そして、その全方位からの攻撃を防ぎ躱す。


 湊月が右手に持つ影の剣で攻撃すれば、日彩は湊月の剣で防ぎ、左足で蹴りの攻撃を与えてくる。逆に日彩がその剣で攻撃してくれば湊月は左手に影で縦を作り出し防ぎ、右手の影の剣で攻撃をする。


 そんな戦いを続けた。


 しかし、その戦いは同じことを繰り返すだけ。攻撃をして防ぎ反撃をする。2人がただこれを繰り返すだけとなってしまった。しかし、その戦いは傍から見ればアクロバティックな戦いとなっている。だから、激しくない訳では無いのだ。


 しかし、いくら同じことを繰り返すだけと言っても終わりや変化はいずれ来る。そして、その終わりや変化を2人は狙う。


 湊月はその変化を無理やり作りだすため背中に背負っていたライフルを手に取り構えた。そして、日彩に向けて発砲する。


「っ!?ライフルだと!?」


 日彩はその唐突な発砲に驚きながらも剣でその危険になりそうな弾丸を全て落とす。しかし、その瞬間に湊月は駆け出し影の剣で日彩ののる機体の右腕を切り裂いた。


「っ!?しまった……!」


 日彩は思わずよろけてしまう。そして、湊月はその一瞬の隙を着き影の剣を機体の関節部分に突き刺した。


「っ!?クッ……!」


「終わりだ!」


 湊月はそう言って剣から手を離すと新しく影で剣を作り出し振り上げる。そして、狙いを定めて振り下ろした。


 その瞬間日彩と湊月は終わりを確信する。そして、日彩は奥歯を強く噛み締め、湊月は不敵な笑みを浮かべた。


 しかし、そこで予想外のことが起こる。


 勝利を確信していた湊月は突如発光した日彩が乗る機体の左腕を見て嫌な予感がした。しかし、その予感がした時には既に遅く、日彩の乗る機体の左手が既に湊月のイガルクへと伸びている。


 そして、その左手は湊月のイガルクの右脇腹を貫いた。


「っ!?クソッ!」


 湊月は慌ててその左手を切り裂こうとする。しかし、切り裂く前に手を止められてしまった。


「ふざ……ける……なよ!」


 湊月はそう叫んで左手でその手を掴み握りつぶす。


 そして、そこでその左手が湊月から離れた。


「仕留め損ねた!?」


 日彩が驚きそう叫ぶ。すると、日彩の隣から声がする。


「まだよ。まだやれる」


 そして、光のフォースを機体に纏わせていく。


 そう、今日彩のいるコックピットの中には三空もいるのだ。だから、光のフォースを使うことが出来る。


 そして、湊月も直ぐに誰かいることに気づいた。


「っ!?光のフォースユーザーがいるのか!?」


 湊月はそのせいでさらに混乱する。しかし、直ぐに落ち着き日彩が乗っている機体に近づくと、日彩に取られていた剣を取り返し突きつける。そして、振りあげると一気に振り下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る