第26話 紅酸漿

 湊月が向かったのは倉庫のような場所だった。そこには玲香にも一緒に来てもらっている。


 山並は他の皆にさっきまでのことを伝えるために皆の元へと向かった。湊月と玲香は七星剣に連れられて倉庫まで来た。


 そして、そこにあったものを見て湊月は気分を高揚させる。なんと、そこにあったのは見たことがないアサシンブレイカーだったのだ。


「どうだ?これが俺達日本軍が密かに開発したアサシンブレイカー、『気炎きえん』だ」


 湊月はそのアサシンブレイカーを見てニヤリと笑みを浮かべると、静かに近づく。


「中も見ていいぞ」


 翔がそう言った。


「そうか、助かる」


 湊月はそう言ってアサシンブレイカーをジャンプしながら登っていき背中のコックピットの中に入った。そして、コックを閉めて中を確認する。


 機体を動かすレバーや電源、ほとんどの機能が使いやすい位置にある。どうやらこの機体は日本人が使いやすいように作られているらしい。だとすればこれはかなり好都合だ。


「中々の出来だな。これを作ったメカニックはかなりの実力者なようだ。今度見てみたいな」


「フッ、それをするにはまず、今の状況をどうにかしないといけないな」


 湊月の言葉に翔がそう言う。湊月はその言葉を聞いて不敵な笑みを浮かべた。そして、言った。


「安心しろ。最前は尽くすつもりだ。どうなるかは時の運だがな。あと、あの機体はなんだ?」


「ん?あぁ、あれか?あれは俺達名古屋支部の者達が開発したものだ。他のアサシンブレイカーと同様に動くのだが、エネルギー消費量が多くてな、すぐにエナジーチャージャーの入れ替えが必要になってくる欠陥品だ。だが、他のアサシンブレイカーと違って火力は高い」


 翔はそう言ってそのアサシンブレイカーを指さす。湊月はそれを見てゆっくり近づいた。そして、そのアサシンブレイカーの中に飛び乗る。


 湊月はコックピットに入ってすぐにその機体の性能がわかった。そして、気分を高揚させる。


 なんと、その機体は今の日本軍が作ったとは思えないくらい高性能だったのだ。恐らくだがイガルクよりは高性能だろう。


 だが、それと同時に欠点も見えてくる。どうやらその機体は攻撃に特化させすぎたがためにエナジー消費量が通常の2倍になっているらしい。だから、通常のアサシンブレイカーより行動時間が2分の1となってしまっている。


 湊月はそれを知って思った。この機体は作戦には使えないと。しかし、万が一に備えて使える状態にしておかなければならないと。


 今の湊月には一つだけ引っかかるところがあった。それは、あの謎の白い機体が来る可能性があるということ。


 もし万が一にあの謎の機体に乗っていた奴が来ていたのなら、俺か玲香が相手をする以外に打つ手は無い。七星剣が強いと言うが、実力が分からない以上あまり戦わせる訳にはいかない。


 だが、一応来る可能性は減らしてきた。もしあの謎の機体がシャドウという存在が現れたから出撃されたのであれば、湊月が高校に戻り問題を起こすことでそちらに時間を取られる可能性もある。だが、それでもこっちに来る可能性は十分にある。


「……玲香、これが扱えるかを確認しておいてくれ」


「「「っ!?」」」


「まさかそれを使うのか!?」


 翔が目を丸くさせて聞いてきた。


「ダメか?」


 湊月はそれに対して聞き返す。すると、今度は朱里が隣から言ってくる。


「それは扱える人がいないのですよ。起動させたはいいものの、動きが難しく中々扱えないのです。私達でもかなり厳しい状況でした」


「なるほどな。確かに操縦は用意ではなさそうだった。だが、万が一ということもある。使う機会が無い方が良いのだが、それでも準備はしておいた方がいい。玲香、もし使えそうなのであれば出撃できる準備をしておいてくれ。だが、この機体を使うのは万が一だ。普段は気炎で頼む」


「分かりました。ちなみに、この機体の名前はなんなんですか?」


「”紅酸漿べにかがち”だ」


 翔がそう言った。酸漿と言えばほおずきの事だ。おそらくほおずきが赤いこと、植えてしまえば死人が出てしまうという噂、そして鬼灯から取ったのだろう。鬼灯の『鬼』は亡くなった人という意味がある。これまで犠牲になってきた人達思いが込められた機体だ。


「玲香、やれるか?」


「えっと……ここがこうで、ここが……うーん、難しいなぁ。シャドウ、少し難しいかもしれません。ただ、動かせないことはなさそうです」


「そうか、それなら良い。もし何かあったらそっちに乗ってくれ」


「分かりました!」


 湊月は玲香にそう言うと、玲香は力強く返事を返してくる。翔はその様子を見ていて少しだけ不安な気持ちになった。


 なぜなら、この機体を使うのは本当に最終手段だからだ。策も何もかもを使い果たした最後にこの機体を使うのだ。これまでの名古屋支部ではそうしてきた。


 しかし、湊月はそんなこと関係なしにその機体を使おうとしている。いや、知っているのかもしれないが、それでも気にしていない。おそらくそんなことを気にする余裕も無いのだ。だからこそこうしてこの機体に手を出した。


 そう思うと不安と恐怖が混み上がってくる。


「……シャドウ、もう1つ言っておくことがある。紅酸漿には特殊装甲があってな、『紅雷べにいかづち』というものがある。これは、左手の部分から放って相手に浴びせることが出来る。それを食らったアサシンブレイカーは一定時間行動が出来なくなるのだ。お前なら使いこなせるんだろ?」


 翔はシャドウと玲香にそう言った。すると、シャドウは玲香の方を向いて聞く。


「使えるか?」


「えーっと……あ、はい!分かりました!おそらく使えます!」


 玲香はそう言って中のボタンやら何やらを押しまくる。そして、段々と慣れてきていた。


「あまり無理はするなよ」


 翔がそう言った。


「いや、大丈夫です。負担は少ないですから」


 翔の言葉に玲香はそう答える。シャドウは玲香に行った。きつくなったらすぐに言え。


「はい!分かりました!」


 玲香はそう言って中々のコックピットの中から出ようとしない。


「さて、これだけあれば策はいくらでも思いつく。だが、なんにせよイレギュラーはつきものだ。今回も前回と同様に俺が指示を出す。何かあったらすぐに伝えてくれ」


「はい!」


「じゃあ、玲香と七星剣の全員は気炎に乗って指定の場所に行ってくれ。他の全員にも配置に着いてもらう」


 湊月はそう言ってトランシーバーを取りだし指示を出し始めた。七星剣はその姿を見ながら気炎に乗り込んだ。


「シャドウはどこに?」


「俺もやることがある。指示は出すから安心しろ。それと、今回の目的はムスペルヘイムの殲滅では無い。我々が生きてここから出ることだ。あまり深追いはしすぎるな」


「分かりました!」


「シャドウ!影虎様たちはどうするんだ!?」


 北斗が聞いてきた。


「俺達が来た時に乗っていた車で降りる。そのためにオフロードでも走れる車を選んだ」


「なるほどな。了解した」


「安心しろ。既に乗せている」


 湊月はそう言ってその場から離れていく。それと同時に玲香と七星剣も発信し始めた。


 湊月はそれを見てニヤリと笑うと玲香達とは真逆の方向に歩き始める。それは、山の頂上だった。湊月は1度この山の形を確認するために山の頂上へと向かったのだ。


「フフフ、フハハハハハ!とうとう俺もここまで来たのか……」


 湊月は山の頂上に来るとそう呟く。すると、そのつぶやきにシェイドが反応した。


「どうしたの?湊月?」


「いや、なんでもない。だが、俺達もここまで来たのかと思うとな、少し楽しくなってくる」


「面白いね、湊月は。じゃあこの戦場を楽しもうよ」


「ま、そう出来たらいいんだけどな。そろそろ始めるか」


 湊月はそういうとトランシーバーを取りだした。そして、ピーピーという音と共に話し始める。


『各員配置に着いたか?』


『あぁ』


 湊月が問いかけるとトランシーバーから山並の声が聞こえてくる。


『よし、では作戦を開始する。指示は前回と同様に出す。分かったか?』


『了解した』


 湊月はその答えを聞いてニヤリと笑う。そして、遂に作戦は決行された。

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