第27話 策略

 湊月の合図とともに山並達は行動を開始した。湊月はそれを確認すると、手を天高く掲げ影の玉を空に打上げる。すると、その玉に反応したムスペルヘイムが頂上目指して発信し始めた。


 それを見た湊月は山並たちがいる場所から少しだけ離れた場所にいるイガルクを影の玉で落とす。そうすることで隊列を崩し、かつ山並達の存在を気取られ無いようにしたのだ。


 そして、その思惑は見事的中する。なんと、イガルクに乗っていたムスペルヘイムの兵達は全員湊月に視線を送った。湊月が注目を浴びたことで周りの警戒が薄れる。


 湊月はその瞬間に山並達がいる場所から真反対の方に少し動いた。そのため、山並達に1番近いイガルクが前に出る。そして、山並達は見事バレることなくイガルクの背後を取った。


『シャドウ、背後を取った』


『よくやった。では、A1とA2はその場で待機、C1とC2、C3はそれぞれ地雷を埋めてくれ。D3は3秒後に手榴弾を投げろ。F1とF3は爆薬を使って地面に穴を開けろ。各員準備が整ったらその場から動くな』


『『『了解!』』』


 全員は湊月の指示を聞いて返事を返すと、すぐにその支持に従い行動を起こす。湊月はそれを影を使ってみながら全体を見回した。


 どうやら青い悪魔はまだ動いてすらないらしい。敵が弱いと思って舐めているようだ。そうそうに決着をつけたいところだが、どうせ戦いに行っても負けるだけだ。今回は無視しよう。


 湊月はそんなことを思いながらさらに指示を出す。


『七星剣ほ準備が出来たか?』


『あぁ!』


『よし、では七星剣にはそれぞれマップを送った。そこに記されている場所に行き相手を迎え撃つ準備をしてくれ。玲香、お前は1度俺の元まで来い。今回は異例イレギュラーなことがあってもいいように2人同時に行動する』


『了解!』


『分かりました!』


 翔と玲香は返事をする。しかし、そのほかの七星剣が聞いてきた。


『待って、本当にこの位置でいいの?この位置はかなり戦いにくい場所よ』


『問題ない。そのために準備はしてある』


『そう、じゃあ信じるわ』


『そうしてくれ』


 七星剣は湊月の言葉を信じてその場に移動する。すると、誰かが湊月のトランシーバーに他の人には聞こえないように連絡をしてきた。湊月はその連絡を聞く。


『どうした?』


『あの、こんなところで言うのもあれなんですけど……私達って勝てますか!?ここには大事な人もいるんです!名古屋支部にはお父さんだっているんです!私達って本当に勝てますか!?』


『……』


 その声は女性だった。その女性はかなり焦っている様子だ。


「……湊月……」


『確か、お前の名前は彩芽だったか?』


『はい……』


『そうか、じゃあまず最初の答えだが、勝てるかどうかは分からない。俺は預言者でも超能力者でもない。フォースを持っているが、それは未来を読む技では無い。だから、この先何が起こるかを予言するのは無理だ。それに、この先どんな異例イレギュラー起こるかも分からない。それでも俺は皆の為に全力を尽くすつもりだ。信じてくれ』


 湊月は信念の籠った声でそう言った。すると、その声が通じたのか彩芽が言ってきた。


『分かりました。信じます。でも、シャドウ様もあまり気負い過ぎないでください。人の命より自分の命を心配してくださいね』


『善処しよう』


 湊月はそう言ってトランシーバーの接続を切る。そして、今度は全体に向けて接続し直した。


『それでは、D1とD2は6秒後に手榴弾を投げてくれ。A1A2は2秒後に射撃開始。近くの木を1本倒してくれ。七星剣第1星雲はこれから来るイガルクと正面対決しろ。お前らの実力なら容易いはずだ。その他は周りに注意しながら待機だ』


 湊月はそう言ってトランシーバーを切って影のゲートを作り出す。そして、A1A2が射撃し始めた音を聞くと、その場所に向かった。


 そして、湊月は一瞬でその場所に着く。すると、そこには山並達がいた。近くのイガルクはその山並の射撃音に気が付き山並の元へと向かっていっている。


 しかし、その途中で湊月はそのイガルクを襲った。後ろからコックピットの上に乗り無理やりこじ開けると中に乗っている人を殺す。


 そうして湊月はイガルクを奪い取った。当然だがもう反対側からもイガルクが来ている。湊月はそれを見てそのイガルクも上から殴り叩き潰した。


『各員に告げる。現在我はイガルクを奪取した。各員周りに警戒しながらC隊がいる場所へと向かへ。何かあれば連絡しろ』


 そう言って湊月は山並達をC隊がいる場所へと向かわせ始める。そして湊月は敵の指揮官がいる場所を見た。それは、ちょうどF隊がいる場所から少し離れた場所だ。


 まぁ、見てたから当たり前なのだがな。湊月はそれがわかっているからこそF隊に爆薬を用意させ穴を掘らせた。これも全て布石だ。


 湊月はそのままF隊がいた場所に行くと、そこから敵の指揮官がいる場所まで向かった。


 そして敵軍では……


「……来たな。各員出撃の準備をしろ。私も出る」


「え?誰も来てませんよ」


「いいから出撃しろと言っているんだ!それに、特部の奴らが来る前に終わらせたい。アイツらに手柄は取られたくないし、戦場の楽しみも取られたくない」


 青い悪魔と呼ばれるフィラメルはそう言ってアサシンブレイカーが置いてある倉庫に向かった。


 そこには全員分のアサシンブレイカーがある。基本的にはイガルクだが、中にはツェアシュテーレンもある。


 しかし、フィラメルの乗る機体はそのどれもが違う。そう、奥にある青い機体だ。


 この機体の名前は、恐らく知らない者はいない。それはの名は、青い悪魔と呼ばれた『ブラウトイフェル』だ。そして、青い悪魔と呼ばれるには所以がある。それは、この機体が戦場に出てきて負けたことは無いと言われるまで彼女は強かったからだ。


 彼女はこの機体に乗っていくつもの戦場を勝利に導いた。言わば、戦姫ヴァルキュリアのような存在だ。


 だが、ムスペルヘイムには既にヴァルキュリアがいる。だから青い悪魔と呼ばれたのだろう。だが、どちらにせよとんでもないほど強いということだけは変わらない。


 ムスペルヘイムの兵士達は彼女がいるだけで勝利を確信していたのだ。だが、逆にその油断が隙となる。そのせいで軍が崩壊することもありうる。それがわかっているからこそフィラメルは規律を正していたのだ。


「フッ、イガルクに乗ってるのか。そんなもので私と戦うつもりとは、馬鹿にも程があるな」


 フィラメルはそう言ってブラウトイフェルを起動させる。そして、発進した。


 ……湊月は、それに気がついた。なぜなら、ずっと見ていたからだ。湊月は影の目シャドウアイでムスペルヘイムの動きをずっと監視していた。


 そのおかげで湊月はフィラメルの出撃に気がついた。


 湊月はその目で青い機体を見ると直ぐに目的の場所まで移動する。そして、青い機体を迎え撃とうとする。


 そして、湊月は操縦レバーを力強く握りしめた。


「フィラメル……殺す!」


 そして、2つの機体は衝突した。

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