第25話 運命の天秤

 男はシャドウという男を見て自分の愚かさを恨んだ。なんせ、目の前の男は人を殺すことに対して抵抗がないからだ。それ故に彼は人の心を持たない。そんな奴が指揮官になれば、命を使い捨てる行為をしかねい。


 男はそんなことを考えながらシャドウという男を見る。……いや、男なのかすら分からない。声だけでは判断がつかない。身長も、背が高い女性の可能性はある。声も、ボイスチェンジャーさえ使えば変えられる。


 男はシャドウという男に対して恐怖を覚えた。


 しかし、それと同時に興味が湧いた。何故ここまで先のことを考えられるのか、何故あの謎の力を持っているのか、何故あそこまで綺麗に作戦を進められるのか、全てにおいて不思議で、興味が湧いた。


 だが、今はそんなことを思っている暇は無い。もしかすると、そのシャドウという男に殺される可能性があるからだ。


 男はシャドウの顔を見る。しかし、シャドウの表情は分からない。仮面の下ではどんなことを考えているのか、全く分からない。


「どうしますか?我々の団の傘下に入るのか、ここでムスペルヘイムに潰されるか、どちらにしますか?」


 シャドウはそう問いかけてくる。答えは1つしかないはずなのに、何故かその答えを言えない。その先が見えないから言えない。


「貴様は名古屋支部をどうするつもりだ?」


「仲間に入るのであれば歓迎しますよ。当然ね。それに、1つだけ絶対に守ることはありますよ」


「何だ?」


「簡単なことです。”命は大切にすること”ですよ」


「「「っ!?」」」


 その言葉を聞いた瞬間その場にいた名古屋支部の人々全員が目丸くした。そして、言い返すように言ってくる。


「お前がそれを言うか!?人の心を持たない外道が!」


「フフフ、人の心なら持ってますよ。でも、あまり怒らせると無くなるかもしれませんね」


 湊月は煽るようにそんなことを言う。当然そんなことを言われた七星剣は全員怒り狂う。そして、銃や刀と言った武器を構える。


「止めておいた方がいい。俺には通用しない」


「へっ!お前に効かなくても、その後ろの連れには効くだろ!」


「それこそやめて置いた方が良い。どうなっても知らないぞ」


「馬鹿め!そんな脅しが通用すると思ってんのか!?」


 そう言って七星剣は玲香と山並に向けて銃を乱射した。その銃口から放たれた音速で進む弾丸は真っ直ぐ玲香と山並へと向かっていく。


 しかし、その弾丸が2人に当たることは当然無い。なんせ、当たる前に湊月が弾丸を消したからだ。


 湊月は飛んできた弾丸を握りしめとてつもないほど強大な殺気を放ちながら言った。


「やめた方が良いと言ったはずだ」


 その瞬間、その場の空気がガラッと変わる。そして、一瞬にして湊月の空気へと塗り替えられた。湊月はそんな中暗く冷たい声でさらに続けて言う。


「どうやらお前達は死にたいみたいだな。さくも何も考えず、ただ目先のことだけを考えて欲をかく。今こうして俺の機嫌を悪くすることで自分の命が危うい状況へと向かっていくのに気がついていない。俺は忠告したはずだ。止めた方が良いと。だが、お前達はその忠告を無視した。愚かな奴らだ。未来を何も見ていない」


 湊月の言葉は話せば話すほど暗く、そして冷たくなっていく。さらに、その言葉はまるで針や棘のように身体にズキズキと突き刺さり、全身を蝕んでいく。


「もう一度言おう。俺と戦うなんて馬鹿なことは考えるな。止めた方が良いぞ」


 その瞬間、七星剣全員が金縛りにあったかのように動かなくなる。そして、苦しいくらいの殺気に頭がおかしくなりそうになる。


「さぁどうする?指揮官とやら。我々の傘下に入るか、死ぬか?2つに1つだ」


 湊月はさらに暗い声でそう言った。その瞬間湊月は名古屋支部を落としたと確信した。そして、仮面の下で恐怖に満ちた笑みを浮かべる。


「……」


 その後数分だけ沈黙が続いた。ずっと誰も何目喋らないまま1分2分と経過していく。


 そして、遂に名古屋支部の指揮官が口を開いた。


「……わかった。お主の団体の傘下に入ろう」


 名古屋支部の指揮官は渋々といった表情でそう答えた。その答えに対して湊月は言った。


「いい答えだ」


 そして、すぐに今の状況について言う。


「じゃあ本題に入ろう。今この日本軍……いや、今は月華団だが現在月華団はムスペルヘイムの軍に囲まれている。それも、アサシンブレイカーだ。基本的にイガルクだけだが、その中にフィラメル・レウ・ムスペルが居る。まさか、青い悪魔が出てくるとは思わなかったが、注意するべき点はそこだけだ。……さすがにあの白い謎の機体が来るとは考えにくいな……。まぁ、そんなところだ。それで、お前達はどんなものを持ってきたんだ?イガルクに対抗できるのだろうな?」


 湊月はそう言って七星剣に目をやると、指揮官だった人に問いかける。すると、その男は言った。


「当たり前だ。あのロボット対策で作ったのだからな。失敗は無い」


「フッ、流石だな。これで条件は全て整った。作戦を決行しよう」


 湊月はそう言って七星剣の方をむく。すると、男は言った。


「まずは自己紹介をしようかの。わしの名前は四条しじょう影虎かげとら。日本軍名古屋支部の指揮官をやっていたものだ。そして、そっちが七星剣。左から自己紹介するんだな」


 四条がそう言うと、七星剣が1人ずつ前に出て自己紹介をはじめる。


「俺は七星剣第1星雲、一星いちほしかける。希望の一星って異名があるが、あまり気にはしてない。よろしくな」


「私は七星剣第2星雲、三葉みつば朱里あかり。あのロボットの操作には自信があるわ」


「俺は七星剣第3星雲、さざなみ来人らいと。よろしく」


「僕は七星剣第4星雲、明宮あけみや光輝こうき。よろしく」


「私は七星剣第5星雲、霧島きりしま美穂みほ。よろしく」


わたくしは七星剣第6星雲、天之川あまのがわ雲母きらら。よろしくですわ」


「小生は七星剣第7星雲、七鍵しちかぎ北斗ほくと。よろしくお願いします」


 七星剣の自己紹介が終わった。湊月は全員の名前と個性、顔などの個人情報を全て記憶して答える。


「俺はシャドウ、よろしく。早速だが、お前達はどんなアサシンブレイカーを持って帰ってきたんだ?」


「……見た方が早い。どうせ、俺達が見るよりシャドウが見た方が早いだろ?」


 一星はそう言って湊月を案内し始める。すると、さっきまで湊月に対して反論していた人が湊月の前に立った。そして言う。


「さっきまでは悪かったな」


「いや、問題ない。よろしくな、漣来人」


「あぁ、よろしく」


 湊月と来人はそう言って硬い握手をする。


 そして、湊月はすぐに物資を置いていた場所へと向かった。

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