☆第40話 勘弁な

「あぁ、すまん、すまん。笑ってすまなかったな」


 そう言って、恥ずかしがる小夜子の様子に気が付いた男性が、目に浮かべた涙を右手で拭う。


「いや、嬢ちゃんみたいな絶滅危惧種みたいな女の子も、この世の中にはまだ居るんだな、と思ってだな」


 すると急に真顔になった男性が、笑うのをピタリと止める。


「お詫びにその本、買ってやるよ」と言って、男性は小夜子の持っていた文庫を手に取り、レジの方へと向かう。


 突然の事で呆然とする小夜子が、ハッとして男性の後を追う。


 すると会計をし終えた男性が、買った本を小夜子にポンッと手渡した。


「これで勘弁な」


 そう言って先程レジで取り出した小銭入れを、紺色のちゃんちゃんこのポケットの中にしまう。


「う、受け取れません」と慌てる小夜子に対して、男性は「俺はもうその本を読んだから、持っていても仕方がねぇよ」と返事をする。


 その男性の言葉に小夜子が困惑していると、「じゃあな、嬢ちゃん」と言って男性は早々にその場を立ち去ろうとした。


「ま、待ってください!」


 お腹の底から大きな声を出して、小夜子は先程の男性を呼び止めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る