第4話 命がけの救助
「えっと……」
ちぎっては投げ、ちぎっては投げといった要領でゴブリンが投げ飛ばされて、数を減らしていくのだが、それでもまだまだ敵は多く、レンナの元にジリジリと寄ってくる。
「むりむりむり、むーりーー」
叫んで見せるも、一騎当千を見せる男はこちらの状態を気にした様子がない。
(まさか、本当に助けてもらえない?)
ビュゥゥン
コボルトが襲うよりも早くに、近くで風を斬る音が鳴り響く。
「ありが……えっ!?」
喜びに顔を上げたレンナの前には、バスターソードだけが飛んできており、目の前で襲おうとしていたコボルトを吹き飛んでいく。
しかし、肝心の男のほうがいない。
「ねぇ。助けt、えぇ……」
男の方向に目を向けると、ちょうど、ゴブリンが宙を舞う。
そして――なんと、地面にいるゴブリンを踏み台にして、男は高く飛び上がると、そのまま宙に浮かせたゴブリンまでも踏み台にしてレンナの元へやってくる。
踏み台にされたゴブリンが、行きがけの駄賃とばかりに、他のゴブリンを押し潰してしまう様子を見ては、感謝より先にグロさが上に来てしまうが。
「えっと、ありがとう?」
残虐さと強さ――この二つを思いっきり見せつけられて、ホルダーのコメントには賞賛が流れる。
それはそれとして、つい先ほど見捨てられたばかりのレンナとしては、その残虐さに対する不信感が、本当に助けに来てくれたのかもわからずに戸惑いを隠せないでいた。
「お前、足って大丈夫か?」
「その、正直に言ってかなり痛いわ」
ゴブリンに襲われた痛みはじんじんと響き、仮に道を切り開いてもらえたとしても、走って逃げられる気がしない。
そういうつもりの回答だが、相手はつまらなそうな表情を浮かべながら、近づいてきたコボルトを蹴り飛ばす。
「そうじゃなくて、折れてない?」
「多分、そこまではいってない」
「そうかよ。じゃあ、助けてやる」
「……ありがとう」
もし折れていたらどうしたのか、一抹の不安がよぎるもペコリと頭を下げる。
「助かる、わっ!?」
助けてくれると思った矢先に、男がぎゅっと抱きついてきてレンナは思わず悲鳴をあげてしまう。
正直、こんな危ない状況で異性に助けてもらって、その後何を求められるのか、覚悟がないわけではない。
しかしながら順序はある。というか、こんな状況で襲われながらどうやって助けてくれるつもりなのか。
「ねぇ。ちょっと、待って」
抗議しようと体を
あまりの徒労にレンナの気力が一瞬抜けてしまうと同時に、抱きしめてきた男はそのままぐいっと反動をつけて左肩にレンナを乗せあげた。
「助けて欲しいんだろ」
どこか
「いや……ちょっと……」
襲われると思った考えが誤解であったことに気づくと同時に、嫌な予感が襲う。
「あの、ねぇ。ちょっとどういうつもり?」
「助けるんだろ?」
先ほどよりも一段と低い声。
不機嫌であることが伝わるため、怖くてこれ以上の声がかけられない。
かけられないのだが――違う。これは想定していた助けてもらい方と違う。
そう、助けてもらうとは担ぎ上げられたまま戦って欲しいという意味ではない。
そんな思いは露ほどにも伝わらず、男はコボルトの群れにダイブする。
「えっ――ひゃああああああああああああ」
助けてもらうはずが、なぜか死地に
Guwaaaaa
大剣を振り回し、斬り吹き飛ばされたコボルトは周りのコボルトを巻き込んで殺されていく。
一振りで三匹――それぞれが、さらに三匹ほどを巻き込んで
だが、たった一振りにかかる遠心力だけで、レンナの身体は苦痛に苛まれる。
「あっ――」
襲いくる力を支えるには、彼女の握力が足りずに、手に持ったホルダーは飛んでいく――偶然にもダンジョンの
(これで壊れる心配はないかな……私が壊れるかもしれないけど)
男が足のステップを聞かせて軽快に動く。
ただそれだけで、肩に乗せられたレンナはカエルが潰れたような声を出してしまう。
「っ!? ちょっ! 後ろ! うしろおおお!」
急加速の慣性を耐えた先には迫り来るコボルトの姿があった。
必死に警戒を告げるのだが、すでにコボルトは近くまで距離を詰め、肩に乗せられたレンナを襲い――攻撃が届くよりも早くに男の後ろ蹴りが突き刺さる。
そんでもって、蹴り飛ばされたコボルトは近くのゴブリンも巻き込んで吹き飛ばし殺していった。
壁に引っかかったホルダーから見せる光景としては非常に愉快であり、一方レンナ側にしても残酷さは感じてない――感じられない。
「きゃああああ、たーすーげーーーてーー」
逃走したと思っていたモンスター達だが、援軍でも呼んでいたのか、逆に増えている。
それどころか、下手にレンナが肩に乗っているせいで、むしろ狙うべき弱点とでも思われたのか、必死に押し寄せてくる始末であった。
明らかにレンナ目掛けて飛んでくる攻撃に当たらないように、死に物狂いで避けながら、振り落ちないように必死にへばりつく。
「死ぬ! 死んじゃ、がぅ――」
大量の群れ相手に無双する男の肩の上で舌を噛んだレンナは痛みを堪えながら、必死に時間が過ぎ去るのを待つのであった。
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