合戦五秒前

 開戦直前。


「ナイス~」


 変態カメラマンのシンデレラ。

 彼女はスライム以下の戦闘力なのである。


「撮るな。こっから先は撮影禁止じゃ」

「え? ちゃんとモザイクかけるわよ?」

「なんでやねん」


 全画面、血みどろのモザイクじゃ、何も見えんやろ、それ。

 いつも通り呆れながら、モモタはシンデレラからスマホを没収する。


「あーあ、生配信オンラインカジノ。スパチャ。億万長者になる私の夢が……」

「つーか違法やろ、それ。知らんけど」

「そんなぁ……生殺しよ。コロッセオ。いっそのこと私をコロッセオ」

「戦場なめとったら生殺しじゃなく、マジで死ぬど?」

「むぅ」

「むくれても無駄じゃ。おめえは赤ずきんと白馬のハックと一緒にレンガの家に隠れとくんよ。そしていざとなったら、ハックに乗って学園まで逃げるんじゃ」


 スマホを懐に収めながら、モモタは可憐なシンデレラの背中を押した。


「まあ、あいつらも鬼じゃなーし、貧乏人には手を出さんじゃろう」

「貧乏人いうなし」


 シンデレラは肩を落としながら、レンガの家にとぼとぼと戻った。

 そして背中を向けたまま言う。


「モモタ、死ぬんじゃないわよ」


 必死に涙をこらえるシンデレラ。


「絶対、一緒に卒業するんだからね」


 モモタも彼女に背を向けて、桃のハチマキを締め直した。


「しゃらくせえんよ」


 彼は納刀したままの【鬼殺し】の峰を肩に担いだ。

 ジャラジャラとつばに巻かれた懐中時計が音を立てる。


「入学したてで、卒業のこと言いよったら鬼が笑うど」


 そう言って、モモタは白い歯をみせて笑った。


「僕は桃から生まれた、日本一の桃太郎じゃ。死んでも死なん!」

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