魔王襲撃
ツリーハウスを出た俺たちは首都に戻るべく、首都直行の馬車がある最寄りの街『メアジ町』に向かうことにした。
メアジ町に向かうべく北に歩く道中はとても静かであった。
魔物どころか動物の声すらしなかった。
嵐の前の静けさのような静寂がそこにはただよっていた。
「なんか、おかしい……」
あまりの静かさについにベガが立ち止まって違和感を抱く。
しかし、その時点では原因がわからず、俺達はふたたび歩き始めた。
やがて、晴天なのに嵐のような強風が吹き始めた。
「こ、こんな風初めてです!」
「風の強さ自体は嵐のときとあまりそん色はない……でも、問題は天気が荒れていないのにこの風が吹いていること……!」
ベガが風で吹き飛ばされないようにするためか、ハチマキをして「戦士の催眠」を発動させる。
俺もアンドロも恵まれた脚力で地面を必死に踏みしめる。
そして、そんな中でも街を目指して必死に歩いていると、地面に大きな影が現れ始めた。
上を見上げると、そこには巨大な鳥と思われる生命体がいた。
「これは、魔物か……?」
「うん。でも、この魔物がいまここにいるのはおかしい!ありえない!」
ベガが驚きをそのまま表したような表情を浮かべる。
「もしかして、森のベアセルクさんみたいに生息地が違うってことですか?」
「違う!あの上空にいる魔物『ジズ』は、大昔に絶滅したはずの魔物!この時代にいていい魔物じゃない!」
「絶滅したはずの魔物がここに……」
今までもペガサスが複数体出てきたり、おしゃべりなオークが出てきたり、生息地から大移動したベアセルクが出てきたりした。
しかし、今回のジズはそれらとは話が違う。
大昔に絶滅した魔物の復活など前代未聞である。
俺たちが混乱する中、ジズの上から3体のぺガサスと思わしき魔物が舞い降りてくる。
「おおぅ……もうペガサスはお腹いっぱいなのに」
「違う。全部の個体に角がある!あれはユニサスだ!しかも全部!」
ベガの指摘で俺はペガサスに角があることに気付く。
ユニサスはペガサスとペガサスと同じくらい珍しい魔物であるユニコーンが交配することで生まれる希少な魔物である。
最後に駆除されたのはたしか半世紀も前のことである。
だが、ユニサスは俺達に考察する時間を奪うかのごとく滞空したまま物凄い勢いで俺達に突撃してくる
俺は超集中状態になって1匹をなんとか避け、その隙に一撃で致命傷を負わせる。
ベガに突進してきたユニサスは銀のシャベルの柄と馬鹿力を用いて受け止めてくれたので、その隙に俺が一撃で仕留めた。
しかし、俺とベガはそれで精一杯であった。
「あと一匹はどこだ?!」
「そんなことよりアンドロが、アンドロがいない!」
「なっ…!」
気付いたときには近くにいたはずのアンドロがいなかった。
とっさに上を見ると、黒いユニサスに乗った人間のような何かにアンドロは抱えられていた。
「あれは、人間……それともゾンビ……?」
ベガが頭を回転させて謎の人間の正体を探る中、俺は本能的に正体を察して垂直に飛んだ。
滞空していたユニサスを足場にして高度を稼ぎつつ、俺は黒いユニサスに近づくべくさらに高く跳ぶ。
謎の人間に肉薄したとき、俺は自分の勘に確証を持った。
俺はベガへの情報共有を兼ねて彼の素性を思いきり叫ぶ。
「見つけたぞ!死にぞこないの魔王!」
魔王は人間がここまで高く跳ぶのは想定外だったのか驚きを隠せないような表情をし、隙を見せる。
俺はアンドロに向かって手を伸ばす
その手は九割九分届くはずだった。
「オレの人生を邪魔するなァ!!ゴミクズ人間の糞息子ォ!!」
魔王が俺に罵声を浴びせたその直後、上空のジズが思いきり羽ばたき、強風が発生する。
俺は上空で体勢を崩してしまい、手がアンドロに届くことはなかった。
「親父を侮辱するなああああああ!!」
俺は父親を侮辱された怒りに燃えつつ、落ちながらでも冷静に石斧を黒いユニサスに向かって投げる。
しかし、強風で上手くあたらず、石斧は大地に落ちていった。
そして、俺も大地へと向かっていった。
アルタイルの騎士~金の斧と銀の斧と金の魔王~ 四百四十五郎 @Maburu445
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