女神マーキュリーとの雑談

『お前が落としたのは金の斧かい?銀の斧かい?それとも普通の鉄斧かい?』


 泉からあらわれた古風な衣装を着た女性が昔話のような質問を俺に問いかけてくる。


 この泉から出てきた女性こそが女神マーキュリーであった。


 


 数分前、ベアセルクを仲間と共に倒した俺は金銀武器を得るべく、仲間たちと共に巨大切り株についている裂け目から切り株の中に入った。


 切り株の中にはほんのりと水色に光る泉があった。


 十中八九これが聖なる泉だろう。


 俺は泉の中に先ほども使って戦闘用の鉄斧を投げ入れた。


 そして、女神があらわれて冒頭のような出来事が起きたのだ。


 


「普通の鉄斧だ。戦闘用に使っている」


 俺は正直に用途も添えて答える。


「なるほどね。にしても、斧で戦うとは少し珍しい戦闘スタイルだな。みんなだいたい槍とか剣とか投げ入れるのに」


「まあ、斧とハルバード以外あんまり得意じゃないので」


「わらわは斧使いは嫌いじゃないしむしろ大好きだ。最近は投げ入れる人が減っていてずっと待っていたんだ。よし、合格。金銀の斧作って投げ入れて斧も返しとくわ」


 そう言って女神は早々に雑談を切り上げ、俺に鉄の斧とそれを基に作られた金銀の斧を渡して泉の中に帰っていった。


 


「さてと、ワシも魔王戦に備えてやっておこうかな」


 俺が金銀の斧を手に入れた後、オリオンさんも矢を一本泉に投げ入れた。


 すると、再び女神が泉の中からあらわれてきた。


「お前が落としたのは金の矢かい?銀の矢かい?それとも普通の矢かい?……正直、もう矢を作るのは飽きたからさっさと答えろ。あと、できれば間違えろ」

 

 先ほどと違い、明らかに女神の態度が悪い。


「未使用で新品の普通の矢ですが何か問題でも」


 オリオンさんが相手の態度を気にせずに雑談を続ける。


「お前、かれこれ30年以上定期的にここに来ては矢を落として金銀の矢を作らせやがって……もう少し空気を読んで自粛しろ!」

 

 確かに、女神の気持ちはわからないことはない。


 定期的に作られる伝説の武器とかあんまりロマンがないし、ありがたみが薄れるだろう。


「ああもうムカついた!もういい!会話終わり!」


 そう言って女神はオリオンさんに金銀の矢を渡した後、泉の中に帰っていった。




「……だって矢は消耗品だからしょっちゅう作らないといけないのに」


 オリオンさんがボソリと言い訳をつぶやいていると、今度はアンドロが自分のブーツを両方脱いで泉に投げ入れた。


 バシャア!


 泉を突き破り女神が出てくる。


「お前が落としたのは金のブーツかい?銀のブーツかい?それとも普通のブーツかい?」


「装備品もOKなんですね……普通のブーツです」


 落とした本人も金銀武器してくれる品物の対象の広さに驚いている。


「ああ、私は女神というよりも正確には決まった動作を行うだけの機械に近い存在だから定義とかあんまり気にしないんだ」


「その情報は初耳だなあ」


 どうやら、歴戦の聖なる泉利用者であるオリオンさんもこのことは知らなかったらしい。


「私は聞かれたことで知っていることならなんでも答える。今まで疑問に思った人がいなかったから言わなかっただけ」


「なるほど!じゃあ、生き物とかもOKなんでしょうか?」


 アンドロが好奇心のままに女神に質問する。


「それはさすがに無理なんじゃ」


「もちろんOKだ。己の肉体のみが武器だと主張する人間も少なくはないからね」

 

 ペルセウスの発言を遮るように女神が回答を行う。


 確かに、騎士団の中にも格闘技をメインに戦う騎士は一定いる。


 その理屈は間違ってはいない。


「さてと、そろそろ作り終えたから金のブーツと銀のブーツあげるね。あと預かっていた普通のブーツも返すね」


 アンドロが次の質問を考えている最中、女神が雑談を切り上げ、彼女にブーツ3セットを渡し、そのまま泉に沈んでいった。

 

 その後、俺達は聖なる泉を後にしてツリーハウスへと向かった。

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