ベアセルクの起死回生

 バーナム大森林に着いた翌日、俺たち3人は駐在所を出てオリオンさんの案内の元聖なる泉に向かうことにした。


 なお、留守番させているだけではつまらないだろうというオリオンさんの判断でペルセウスも同行することになった。


「そういえば、聖なる泉はどうやって大森林の木々と共に動けているんですか?」


 アンドロが素朴な疑問を口に出す。


 たまには俺がお兄ちゃんらしく疑問に答えてあげたかったのだが、あいにく俺はその理由を忘れていた。


「それは、この森の中心部にある動く大きな切り株の中に聖なる泉があるからだ」


 この森に関わってかれこれ10年経つオリオンさんが解説を始める。


 それから、オリオンさんは聖なる泉がある位置は常に大森林の中心部であることに言及しながらひたすらに森の中心部へと足を進めていった。


 


「アルタイル、そろそろ跳んでくれないか」


 森の中心部と思われるところまで来たところ、オリオンさんが俺にジャンプすることを指示してきた。


 俺は目的を瞬時に察し、有無を言わずに垂直に高く跳びはねた。


 身体が大森林の動く木々の3倍ほどの高さにまで一気に跳ね上がる。


 俺は空中で身体を横に一回転させ、瞬時に下の景色を見まわす。


 そして、地面に着地したのち、皆に結果を報告する。


「切り株が見えた。ここから北東に聖なる泉がある」


「ジャンプがすごい……」


 ペルセウスが俺のジャンプに感心してくれる。


 俺たち5人は方位磁石を頼りに北東に進み始める。


 俺達は数分もしないうちに動く巨大な切り株にたどり着いた。


 しかし、切り株の前には栄養失調の巨大熊型モンスター、ベアセルクがいた。


「なんてことだ!例の個体以外にもこの森に迷い込んだベアセルクがいたとはなあ!」




「……ペルセウスくん、逃げよう」


 ベガが戦闘能力を持たないペルセウスを避難させる。


『ベエッアアッアアアアーー!!』


 やつれた身体から必死に声を振り絞って叫ぶベアセルク。


「アルタイルたち、ここはワシに任せて泉に行くのじゃ!」


「いや、いくら弱っているとはいえ相手はペガサスと同等の危険度を持つ魔物。俺たちも加勢する」


「さすがワシの弟子だ。魔物は一番確実に仕留められる作戦で仕留めるという鉄則をきちんと覚えているとはな」


 俺とアンドロ、そしてオリオンさんはベアセルクを駆除すべく武器を手に持ち、臨戦態勢に入った。


『ベエッベエッアッアッアーー!!』


 独特な雄たけびを発しながらベアセルクが俺に襲い掛かる。


「喰らえ!」


 俺はベアセルクの懐に飛び込み、ヤツの腹を蹴り上げる。


 栄養失調による衰弱っぷりからおそらくこの一撃でベアセルクは死ぬだろう。


『ベェアベェシッ!』


 ベアセルクが断末魔のような叫びをあげ、息絶えて倒れた。




「あっけなかったですね……」


 ベアセルクの死体を見てアンドロが思わずそう呟いた。

 

 その発言を聞いた次の瞬間、俺達のもとに向かおうとしていたベガが何かに気付いたような表情をしてとっさに俺たちに警告を告げる。


「待って!まだこのベアセルク死んでない!」


 その一言で俺は気付いた。ベアセルクがドロップアイテムを残さずに動物の死体のような状態になっていることを。


 俺がとっさに戦闘の構えをとったその時、ベアセルクが再び立ち上がった。


 しかも、先ほどと違って栄養が足りているかのような活発さを感じる。


「まさか、クマが死んだフリをするとはなあ」


「いや、違う。あれはおそらく生前から体内にいたゾンビートルに寄生されてゾンビ化しているパターンだ!」


 俺は半年前にあった類似事例からベアセルクの身体に何が起こったのかを早急に察した。


「確かに、でなければあんなに元気にはならないよなぁ……よし、行くぞお!」


 オリオンさんの掛け声で俺たちは再び戦闘態勢に入る。


「みんな!ゾンビートルはだいたい脊髄にいるから出来ればそこを狙って!ビートルが死ねばゾンビも止まるよ!」

 

 俺達から見えない遠くの場所にいるベガが学識に基づいたアドバイスを叫ぶ。


『ベアッ!ベアッ!ベアアアアッ!』


 ゾンビベアセルクが骨折や肉離れといった概念を無視して上半身を歯車のごとく何度も横に回転させて俺たちを爪で攻撃してくる。


「なんとも大胆だなあ!」


 そう言いつつオリオンさんもベアセルクに向かって石斧を投げる。


 石斧はベアセルクの顔に当たり、少しだけベアセルクの動きが止まる。


「おっとお……脊髄には当たらなかったか」


 そう言いつつオリオンさんはボウガンをすぐに構えて次の攻撃を始める。


 オリオンさんが放った3発の矢はみごとにベアセルクの両目に突き刺さった。


 ベアセルクが生前の本能で痛みに苦しむような動作を行う。


「これでベアセルクの動きも少しは悪くなっただろう」


 ゾンビ化した生物は肉体の方の目で視界を得ており、そこが失命すると本体であるビートルが持つ鋭い感覚頼りになってしまうのだ。


『ベアッ!ベベアッ!ベアッアッーーーー!』


 ベアセルクが背骨を骨折する勢いでがむしゃらに暴れ始める。


 俺は精神を極度に研ぎ澄ませて超集中状態に入り、ベアセルクの横に身体を移動させてから鉄斧でベアセルクの右腕を斬り落とした。


 生前の本能がまたしても働き、痛がるそぶりを見せるベアセルク。


 そんな中、一瞬の隙をついてアンドロが片手剣トライデントでベアセルクの左腕に傷を負わせた。


 どうやら、本当は斬り落としたかったらしいが筋力が足りなかったせいかできなかったらしい。


 さらにベアセルクの隙ができたのを好機に、いまだ超集中状態が続く俺はベアセルクの後ろに移動し、脊髄があると思われる場所を何度も斧で切り刻んだ。


 3撃目くらいで動きがとまり、6撃目あたりでドロップアイテムを残して遺体が消え始めた。


 こうして、ベアセルクもといゾンビートルの駆除が終わった。 

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