金のシャベルと銀のシャベル

「みんな、ワシの作った雑魚汁はおいしかったか?」


 夕食後、オリオンさんが俺たちに問いかける。


「はい、おいしかったです!私たちの分まで作っていただきありがとうございました!」


 アンドロが反射的に誰よりも最初に感謝の言葉を述べる。


「俺も久々の雑魚汁で満足しました。ありがとうございます」


 俺も負けじと感謝する。


「オリオンさんの料理おいしかったです」


「おいしかったよ!」


 ベガとペルセウスの感想も聞いてオリオンさんは嬉しそうな表情した。




 それから約一時間後、ペルセウスは腹が満たされて安心したのか眠ってしまった。


 保護した人間用のベッドでペルセウスがスヤスヤ寝る中、俺たちは雑魚汁を食したテーブルで血生臭い話をすることにした。


「なるほど。新しい魔王が生まれて、それを倒すための武器を作ろうとしているのだな」


「アンドロの話が正しいなら厳密には10年以上前からいたみたいですが……」


 アンドロいわく、魔王は物心ついたときから自分がいた塔を訪れていたらしい。


 アンドロの自称年齢のことも考えると10年前にはすでに魔王はいたのだろう。


「騎士団の方にはそのことを報告したか?」


「首都を出る時に『魔王が発生した可能性がある』という趣旨の報告を本部にしておきました」


「了解。にしても、今回の件は謎が多いな。魔王がわざわざジャメルの名を名乗っていることとか、アンドロの外見がオマエの母親にそっくりなこととか」


「オリオンさんは俺の母親を見たことあるのですか」


「ある。なぜならオマエの父であるケフェウスとは同僚兼友達だったからな。あの頃はよくケフェウスの家に遊びにいったりしたよ」


「やっぱり、私とお兄ちゃんのお母さんってそっくりなんですか?」


 アンドロ本人がオリオンに直接問いかける。


「ああ、そっくりだ。まるで同一人物かのようだ。ただの血縁者とは思えないほどにな」


 やはり、俺の勘は間違っていなかったのか。


 


「そうそう、話は変わるが聖なる泉に投げ込む武器は持ってきたか?」


「もちろんあります」


 そう言って俺は近距離戦闘用の鉄斧を机の上に置いた。


 泉の女神に金銀武器を作ってもらうには特定の手順を踏まなければならない。


 まず、作ってもらいたい金銀武器と同じ種類の武器を泉に投げ入れる。


 すると、女神が出てきて雑談をすることになる。

 

 ウソをつかずに雑談をすることで女神はその人を認め、投げ入れた武器に酷似した形状の金銀武器を金と銀で各1個作ってくれるのだ。


 投げ入れた武器も金銀武器を渡されるときに戻ってくるそうだ。


 余談だが、雑談のときにウソをつきまくると女神が怒って泉の中に帰ってしまい、投げ入れた武器も帰ってこないそうだ。


「ベガさんの方は金のシャベルがあるから金銀武器作らなくても大丈夫だな」


「あっ、それがですね……」


 そう言ってベガが柄にヒビが入った金のシャベルを取り出す。


「銀色の毛並みを持つオークの頭突きでなぜかヒビが入ってしまいまして……たぶんこれ偽物なのではないかと」


「いや、これは断じて偽物じゃない。証拠もある」


 そう言ってオリオンが扉付きの武器庫のなかから銀色に輝くシャベルを取り出した。


「この銀のシャベルは今から30年前、ツキカがワシと共にジャメルより前にいた魔王を駆除したときにその金のシャベルと共に使ったものなんだ」


 その銀のシャベルは元になったシャベルが同じだからか、先端や柄の形状がツキカの金のシャベル全く一緒であった。


「オリオンさんはどういう経緯でこのシャベルを……」


「この銀のシャベルは『自分はもう魔王を倒すのに参加できるほど若くないし魔物学者だから』という理由でツキカがワシにくれたものなんだ」


 確かに、ツキカさんはすでに妙齢と呼んでも差し支えない年齢のため、その判断は全く間違ってはいない。


 オリオンさんは諸事情あって老いない体質になっているため、今後の人生で魔王駆除に参加する可能性は十分あるであろう。




「とりあえず、ヒビが入ったままの柄をそのまま使うのは危険だから、今から修理してもいいか?」


「あっ、お願いします」


 持ち主の承諾を得たとたん、オリオンは銀のシャベルの先端で金のシャベルの先端を少しだけ柄を残しつつヒビが入った柄から切断した。


 そして、武器庫の中から切断した柄と同じくらいの長さで軽くて丈夫そうな長棒を取り出し、それと金のシャベルの先端部分を強固に結び付けた。


「大胆すぎる……」


 あまりにも思い切った修理方法にベガがびっくりしている。


「さてと、完成したぞ。少し持ってみな」


 そう言って柄が金色じゃなくなった金のシャベルをベガに渡す。


「ありがとうございます……!」


 ベガがオリオンさんに全力で頭を下げる。

 

 おそらくアンドロの影響を受けたのだろうか。ここまで勢いよくお礼をしているベガは今まで見たことがなかった。


「いいってことよ。そうだ、銀のシャベルも持っていくかい?俺、このシャベルほとんど使ってないし」


「本当にいいんですか……?」


「大丈夫。俺は自分用の金銀武器として金の矢と銀の矢を10本づつ持っているからその辺は気にしなくていいぞ」


「じゃあ、お言葉に甘えて……ありがとうございます!」


 ベガが銀のシャベルをオリオンから受け取り、再び深く礼をした。

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