ツリーハウスと金髪の少年
「よーし、着いたぞ」
オリオンさんについて行ってから約10分後、国家騎士団バーナム大森林駐在所が俺たちの前に姿をあらわした。
「おお、ツリーハウスな上に階段付きなんですね!しかもけっこう大きい!」
「10年前にワシが来たときはハシゴだったんだが、森林で保護した人の足が悪かった時のことも想定して改築したんだ」
「よかった……ハシゴだったら怖くて催眠無しだと登れなかったかも……」
ベガが階段に対して安堵する。
なお、ベガはこう見えて案外肝が据わっているため、ハシゴに関しても怖がりつつ登り切れると思われる。
まあ、そうなる前に俺がおんぶしてから跳んで上に運ぶのだが。
駐在所の中はツリーハウスとは思えないほど広かった。
そして、謎の金髪の少年が地図が描かれた本を読んでいた。
「あの……もしかして、あそこの少年はこの森に迷い込んだ方なのでしょうか……」
ベガがオリオンさんに少年の素性についておそるおそる聞く。
「ああ、その通りだ。あの少年の名前はペルセウス。一週間前に森林内でベアセルクに襲われているところを保護したんだ」
ベアセルクは二足歩行するクマのような魔物でペガサスと同じくらい危険とさせている。
しかも、ベガいわくペガサスに比べると個体数も比較的多いらしい。
「それ、本当にベアセルク……?この森はハチの巣がほとんどないからベアセルクは定住できないはず……」
ベガの言う通り、ベアセルクはハチの巣が多くあるところでしか定住できない。
なぜなら、ベアセルクはハチミツとハチの幼虫しか食べないからである。
人を襲うのも本能的に人類が憎いからであって食べるためではないのだ。
「ああ、なぜかやつれていたがベアセルクだった。駆除したときに毛皮も残った」
そう言ってオリオンが壁にかけていた黒い毛皮を取り出した。
魔物が死んで遺体が消滅するとき、魔物の種類によって決まった特定の部位が消えずに残ることがある。
そして、その残った部位は『魔物の命と共に落ちた品』という意味で『ドロップアイテム』と呼ばれるのだ。
「確かに、手触りがクマの毛皮に似ている……やっぱりペルセウスを襲ったのはベアセルクだ……」
どうやら、異常な行動をしている魔物はペガサスだけではないらしい。
「あ、挨拶忘れてた。おかえりなさい!」
ペルセウスがオリオンに向かって元気よく挨拶をする。
「ただいま!何か気になる地名はあったかい?」
「やっぱリ何も思い出せないや……」
「……ペルセウスくんは記憶喪失になっているのですか?」
アンドロが珍しくおとなしめのテンションでオリオンに問いかける。
「ああ、発見時には自分の名前以外思い出せない状態だった。おそらく魔物に頭部を強く攻撃されたことが原因であろう」
「身元もわからない感じなのか?」
「いちおう、似顔絵と特徴を書いた文書を騎士団本部に送っておいた。おそらく、明日か明後日には騎士団の身元特定部隊による調査結果が届くころだろう」
「そうか……」
騎士だからといってすべての人間を救うことはできない。
そんなことがわからないほど俺は子供ではない。
しかし、魔物の被害を受けた人を見るとやっぱり悲しくなるのだ。
「ペルセウス、何か食べたいものはあるか?」
オリオンが俺に戦闘技術を教えていた時のように優しい感じの声色でペルセウスに語りかける。
「だったらこの町の料理が食べたいかな。おいしそうだし」
そう言ってペルセウスは読んでいた本のメイロン町のことが書かれたページを開いて見せてきた。
メイロン町はマメナ村よりさらに南にあった港町である。
今から20年前に魔王ジャメルに滅ぼされて以来、特殊な魔物がウジャウジャおり、いまだに廃墟状態になっている。
デネブさんいわく、俺の両親はこの町で生まれてこの町で結ばれたらしい。
「この町特有の料理といったら『
「ありがとう!」
雑魚汁とは小魚を出汁にするだけでなく具材にもしたスープである。
メイロン町の郷土料理だったらしく、簡単に作れることから町が無くなった今でもアレンジされつつ各地の酒場や食堂で提供され続けているそうだ。
そういう俺も自分で作ったりベガに作ってもらったりして度々飲んでいる。
「さてと、まずは小魚を冷蔵ボックスの中から取り出すか」
オリオンが部屋の隅にある金庫ほどの大きさの冷蔵ボックスから小魚を取り出し、鍋に入れ始める。
「冷蔵ボックス……?」
あまり外の世界の知識がないせいか、アンドロは冷凍ボックスを知らないようだ。
「冷蔵ボックスは食料保管用の家具だってオリオンさんが言っていたよ!なんかよくわからない力で常に中が涼しいんだって!」
ペルセウスが言うとおり、冷蔵ボックスは冷気を用いた長期の食料保存を目的に作られた家具である。
「ベガさん、どうして冷蔵ボックスは常に中が涼しいんですか?」
「そ、それはですね、熱帯に住む一部の魔物が持つ冷気を放つ器官を組み込んでいるから……なんです」
ベガは初対面の人間もいたせいで少しタジタジになりかけたが、なんとか疑問に答えることができた。
関心するアンドロとペルセウスを見て、ベガは安堵の表情を浮かべていた。
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