動く森と俺の師匠

 謎のオーク三匹衆と交戦した日の夕方、俺たちはバーナム大森林に到着した。


 なお、銀のオークの正体に関しての議論はキリがないのでいったんやめた。


「うわ、よく見たら樹木の根が足みたいになって動いてる!すごい!不思議です!」


 アンドロが動く樹木に目を輝かせる。


「お兄ちゃん、これってどういうことなんですか?」


「俺もよくわからん。ベガ、解説頼む」


 俺は専門外のことで人を頼ることに対してはいっさいの躊躇がない。


 そして、それを恥じる気もない。


 ベガが髪留めを付け、『教授の催眠』を発動させる。


「実はね、動く樹木も魔物の一種なんだ。でも、聖なる泉に潜む女神の統率下にあるから人を襲う心配はないんだよ」


「そうなんですね!教えてくださりありがとうございます!」


「俺も初耳だった。ありがとう」


「どういたしまして。さてと、催眠解こうかな」


 解説が終わるなりベガが髪留めを外して自己催眠を解く。


「催眠使いすぎると疲れて朝起きれなくなるからね、今日はこのへんで……」


 事実、今朝のベガを起こすのはまあまあ大変だった。


 前日に『教授の催眠』を解除するのを忘れて意図せず催眠の併用を行ったせいで、反動がすさまじかったのである。


 いくら揺すっても起きなかったため、少し強めに抱きしめることでなんとか起こしたのだ。


 

 

「さてと、駐在所がある樹を探すか」


「なるほど!地面に作っても森に置いて行かれるからツリーハウスにすることで常に森の中に居れるようにしているんですね!」


 アンドロがわずかな言葉から大森林の駐在所がツリーハウスであることとその理由を言い当てる。

 

「アンドロちゃん、すごい推理力だね……魔王倒した後は私と同じ道に進んでみたらいいかも……」


 ベガもアンドロの推理力を褒める。


「前向きに検討します!」


 そう言ってアンドロがベガに屈託のない笑顔を浮かべる。


 今まで同年代で同性の友人はいなかったからなのだろうか、アンドロはベガと会話することをとても楽しんでいる。


 ベガの方もけっこう楽しそうにしている。


 仲良くなれてなによりだ。




「おーい!ここは騎士の同行がないと入れないぞー!まあ、ワシに付いていけばいいだけなんだがなー!」


 森に入ってしばらく進むと、ここに駐在していると思われる騎士が俺たちには見えないところから大声で警告してくれた。


 俺は声がした方向に向かって負けないくらい大声で言い返した。


「俺も騎士だー!ちょっと急用でここに来たー!ちょっとこっちまで来てくれー!」


 それを聞いた駐在騎士が足音を立てながら俺たちの方へ近づいてくる。


「おう、誰かと思ったら弟子のアルタイルじゃん!大きくなったなあ!」


 狩人のような姿をした駐在騎士が俺たちの前に姿をあらわす。


 俺はその騎士の実年齢を感じさせない顔も騎士らしからぬ服装も見たことがあった。


「あなたは確か、俺に斧の使い方を教えてくださったオリオンさん……!」

 

 


 幼少期の俺に初めて戦い方を教えたのはデネブさんだった。


 魔王の残党に命を狙われることを想定し、自衛のために剣を用いた戦闘を教えることにしたのだという。


 しかし、昔から力が有り余っていた俺には剣のような上品な武器をうまく扱うことができなった。


 訓練用の剣を刃こぼれさせ続けるなか、デネブさんは俺に戦闘技術を教えるのを早々に諦めた。


 そして、デネブさんは自分の友人であったオリオンさんに俺への戦闘術の指導を全部丸投げしたのだ。


「最近の戦績はどうなんだい?」


「おとといと昨日にペガサスを駆除しました」


「信じられない!いや、キミがペガサス駆除できたことは信じられるけどペガサスが二日連続で出たことが信じられない!」


「だから、この森に来ているんですよ」

 

 オリオンさんは幼少期の俺に様々な武器を持たせ、俺に合った武器を探し続けた。

 

 そして、斧が一番相性がいいことを発見し、それからオリオンさんは師匠として俺に斧を使った戦闘技術を教えてくださったのだ。


 それからの俺の戦闘技術の向上はオリオンさんの想定を超えるほどだったという。


「夜の森林は迷いやすい上に危険だ。どんな用事であれ今日は駐在所で泊っていくといい」


 オリオンが言う通り、夜の森林をかいくぐって聖なる泉まで行くのは危険度が高い。

 

 ここは泊っていくのが無難だろう。


「では、お言葉に甘えてお願いします」


「よし!じゃあ今からワシについてこい!」


 そう言って俺の師匠は軽快な足取りで森を歩き始めた。 

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