第51話 絶対、迎えに行くからな!!


 俺たちは今、マグレイアと対峙している。


 キルレイドさんのおかげで、一対一の状況が作られた。

 ところが、それを邪魔する奴らがいるんだ。


「なんで急に、ラヴェルサがこっちに寄って来てんだよ」


 双星機とマグレイアを囲むようにして迫ってくる。

 だけど、これまでのことを考えれば、狙いは双星機だろう。



 覚悟を決めるべきなんだ。



 俺は剣を背中に戻して、右手で左腕を引っ張った。


「剣星、何をしてる!」

「このまま引っこ抜く!」


 もう左腕はいらない。

 俺の意志が薄く広がっていくなら、体積を小さくするしかない。


「これで、ちょっとは反応が良くなったな」

「まったく、無茶をする」


 引き抜いた左腕を落として、マグレイアに向かって突進する。

 俺が移動することで、ラヴェルサも進路を変えている。

 マグレイアにも逃げ場はないはずだ。



「ここで決める!」

「いっけぇ! ケンセー!」



 俺のとった攻撃手段は振り下ろし。



 マグレイアは攻撃を中断して、回避の姿勢をとった。

 でも、こっちは勢いがついてる。

 止まらない。



 このままじゃ、後の先をとられてしまう。



 外れた!



 すかさず、マグレイアが切りかかってくる。

 俺の剣は、まだ地面に刺さってる。



 間に合わない!



 アルフィナを助けられず、イオリと一緒に死ぬ?



 それもアリか……。




 ふと、副長の顔が思い浮かんだ。

 なんだか、怒っているような気がする。




 ……そうだよな。




 副長が望んだ世界を否定して、俺はここにいるんだ。

 俺はまだ生きてる。




 絶対に諦めない!




 剣を柔らかくして、しならせる。

 硬くするのは、機人にあたる直前でいい。


 地面に刺さった反動を利用して、一気に加速。




 見よう見まね、爆速剣!!




 切り上げた刃は、マグレイア機のコックピットを通過して、再び姿を現した。

 それと同時に、マグレイア機から赤く光る線が輝きを失っていく。



「剣星、やっ——」

「まだだ! ここからは時間との勝負だぞ、イオリ!」


 マグレイア機に近づいて、コックピットを強引に開く。

 狙い通り、操縦桿クオーツは無傷みたいだ。

 人間だけを狙うなんて、ヒデー技術を習得しちまった。


「こいつは後で使わせてもらう。姉弟そろって、悪いな。いずれ、地獄で会おうぜ」

「ならば、私も付き合ってやる。もうしばらく後で、だがな」


 イオリと二人で地獄旅か。

 それも悪くない。


 マグレイアを掴んで地面に下ろそう。


 敵とはいえ、正々堂々と戦った相手だ。

 もう放り投げたりなんかできない。


 右手でつかんだ瞬間、マグレイアの顔が僅かに動いた。

 憎悪の炎を宿した瞳は、視線だけで人を殺せそうなほどに鋭い。


 マグレイアは双星機に向かって、何かを叫んでいる。

 口を動かすたびに吐血してるのに、かまわず続けている。


 どれだけ、俺のことが憎いだろうか。

 弟を殺され、自分も同じ道を辿っている。

 マグレイアの出血はおびただしく、臓器が飛び出て、助かる見込みはない。


 俺はマグレイアを地面に下ろすと、彼女の機人を抱えて駆けだした。


「剣星、考えすぎるなよ」

「ありがとう。俺は大丈夫だ」


 ラヴェルサの群れが俺たちに迫ってきてる。

 本当にぎりぎりのタイミングだった。


「こいつらを飛び越えるぞ! アルフィナを迎えに行くんだ!」


 マグレイア機は双星機に比べれば、半分くらいの大きさしかない。

 重量はそれ以下だろう。

 パワーが落ちた双星機でも、余裕で運べる。


 俺たちはラヴェルサの群れを飛び越えた。

 前方にラヴェルサの姿は見えない。

 アルフィナの近辺には配置されていないようだ。


 走っている間に、レトレーダーで状況を確認する。


 どうやら、ウィーベルトはキルレイドさんが倒してくれたみたいだな。

 大きな反応がなくなってる。


 アスラレイドを失ったリグド・テランの機人は統率を失い、ラヴェルサに飲み込まれている。


 六人いたアスライドで残っているのは、セイレーンとドゥディクスだけ。

 いずれも俺たちと内通している。


 セイレーンたちが和平に向けて動いてくれればいいんだけど。

 マグレイアたちがここに来たことを考えれば、素直に信じていいか不安になる。

 今は考えないことにしよう。


 やるべきことが、まだ残ってる。

 でも、できることは少ない。


 俺は不本意な選択肢を選ばなければならないだろう。


 小さな建物が見えてきた。

 その前には、こちらを見てる二人の人物。

 アルフィナと、アルバだったか。


「アルフィナ様、すぐに参ります」


 アルフィナは少女に支えられている。

 体調がよくないのかもしれない。


 十数秒後、俺たちはアルフィナの目の前にやってきた。

 俺は隣にマグレイア機を下ろし、跪いて、手のひらをアルフィナに向ける。


「アルフィナ様! 双星機にお乗りください!」


 イオリの必死の叫び。

 だけど、アルフィナはイオリから目をそらしている。


 アルフィナにしてみれば、イオリを騙して、去っていった負い目があるのだろう。

 イオリは全然気にしてないだろうけど。


 でも、悠長に待ってる時間はない。

 後ろからは、ラヴェルサの群れが迫っている。

 一度は引き離したけど、このままじゃ逃げきれなくなってしまう。


 俺は双星機から飛び降りて、アルフィナに駆け寄った。


「アルフィナ。頼みたいことがあるんだ。早く乗ってくれ」

「プラントを破壊しに行くのか?」

「今の戦力では不可能だ。いったん出直す。それにはアルフィナの力が必要なんだ。一緒に来てくれ」


 地下プラントの奥からも、ラヴェルサの群れが近づいている。

 アルフィナが双星機に乗ったとしても、難しいかもしれない。

 体調不良なら猶更だ。


「ならぬ。妾がいなくなれば、ラヴェルサがさらに世界に広がっていくじゃろう。そのようなこと、童が許すはずがなかろう」


 そうだよ。

 そんなこと分かってるんだよ。

 だから、こんな選択をしなくちゃ駄目なんだ。


「そこで、私の出番ってわけよ!」

「羽虫! ……そうか、そういうことじゃったのか」


 昨晩、レトが俺に自分から言い出したことだ。

 俺が言いにくいと思ったんだろう。


 レトは聖女と同等以上の力を持っている。

 レトがこの地に残れば、今まで通りにラヴェルサを引き付けられるはずだ。


 今、必要なのは力じゃなくて、立場なんだ。

 聖女として、みんなに知られているアルフィナが必要なんだ。


「剣星、お主はそれで良いのか?」

「俺は……」

「いいから、さっさと行きなさ~い!! もう時間がな~い!!」


「相分かった。アルバや、ついてくるのじゃ」

「は~い!」


 ようやく、乗ってくれたか。

 俺もマグレイア機によじ登っていく。


「ケンセー!」

「どうした、レト?」


 レトも不安なんだろう。

 初めて見せる表情だ。


「早く迎えにきてよね。じゃないと私、寂しくて死んじゃうんだから!!」

「ああ、行くよ。絶対行く。だから、ちょっとだけ待っててくれ」

「ちょっとじゃなかったら、ここから逃げちゃうからね!」


 俺たちはレトの元を去り、駆け出した。

 マグレイア機は傷ついているから、霧の影響を受け続けたら、ラヴェルサの支配下に置かれてしまう。

 レトがいないから、今まで通りってわけにはいかないんだ。


 それにしても、レトの奴、最後の最後にとんでもないこと言いやがったな。

 レトが逃げだしたら、ラヴェルサは世界に広がっていくだろう。

 地下プラントを破壊する前に、そんなことされたら大変だ。


 まあ、その心配は必要ないだろう。


 俺が助けに行くって決めたんだからな!

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