第18話 新たな武器はハンマーだ!

 

「こらっ、いつまで寝てるのよ!」

「もちっとだけ」

「いいから起きなさーい!!」


 昨晩の影響で頭がガンガンする。


 そりゃもう、大変だったわ。

 初めは普通に新型機の報告をしてただけで、傭兵たちも聞き入ってたんだ。

 でも、そのうち酒が入ってくると、絡んでくる奴が多い多い。

 結局、傭兵としての俺の初陣は、団長によって面白おかしく吹聴されることになった。


 まあ、あの人達にしてみれば、ランスで倒したり、投げ技を使う戦いなんて珍しいのかもしれないけど、絶対笑いすぎだったよな、あれは。


 おかげで何度も同じ話をさせられたし酒の肴にされた。

 俺もビビったのを盛って話した記憶はあるけど。

 大学デビューならぬ、傭兵デビューで、はっちゃけちゃった感じ。

 なんか恥ずかしい。

 あ~、動きたくねぇ。


「今日はやることあるって、昨日言ってたでしょ」


 レトが耳元で喧しく叫ぶ。なんでコイツは朝が一番煩いんだよ。

 でも確かにそうなんだよ。

 俺にはやるべきことがあるんだ。

 例え、二日酔いだとしても。


 昨日の戦闘でランスが凹んでしまったので、代わりの武器が必要なんだ。

 赤光晶で元の形に戻るかなって思ってたけど、金属の硬さもあるから難しいそうだ。    

 見た目だけ元に戻ったとしても、中身に偏りがあるのでバランスがとりづらいって。


 じゃあどうするか。剣はまともに使えないし。


 それで考えたのが鹵獲兵器を使う事だ。

 大鎌とかダガーじゃなくて、あの大きなハンマー。

 初めて見た時から目を付けてたんだよね。


 俺のKカスタムは聖王機ほどじゃないけどパワー自慢だから、ハンマーはあってると思うんだ。


 またリンダから小言貰うだろうけどさ。


「おう、剣星。あのハンマー、浄化が終わって返ってきたぞ。さっそくやるか?」

「お願いします」


 浄化ってのは鹵獲したラヴェルサのパーツを使う時に、その残滓を消す作業のこと。


 ラヴェルサは破壊衝動の塊りみたいなものらしいから、それを完全に消さないと勝手に動いて悪さする可能性があるんだ。


 担当するのはルーベリオ教会で、聖女になれなかったけど特殊な力を持つ女性たちが請け負ってくれている。もちろん有料。


 最初は眉唾物の設定だな思ったけど、よく考えれば装甲機人自体が人間の意志の力で動くファンタジーなので、あまり深く考えない方がいいのかもしれない。


 俺がこれからメカニックのおやっさんと一緒にやる作業がハンマーの改造だ。ラヴェルサの機人とは掌のサイズが異なっているので、そのままでは使えない。


 いや正確には使えるけど、柄の太さがランスと違うので、手に持った時にズレができてしまう。だから、持ちやすいようにサイズを変更しよう、ってのが今回の改造だ。


 結果的に長くなってしまったけど、これはこれでいい感じ。扱いにくさはあるだろうけど、武器初心者の俺にとっては、どんな武器だって同じ条件だしな。


「これでよしっと。剣星、試してみろ」

「剣星、リンクスKカスタム、行きます!」


 おやっさんは、馬鹿やってないでさっさとやれという視線を無言で送ってきた。


 さ~せん。


 ロボ好きなら一度は言いたいセリフなんです。

 本番じゃやれないんで、調子乗りました。


 大きく息を吐いて武器を持つ。


 赤い光がハンマーの柄を通り、毛細血管のように全体に伸びていく。

 その光はKカスタムの本来の輝きと同じくらいだ。


「なんか輝きが、ランスよりも激しい気がするんですけど?」

「そらそうよ。ラヴェルサ製合金は赤光晶の量が段違いだからな」

「そうなんすか?」

「ラヴェルサの機人にはラジウスが使われてねえからな。その代わりといっちゃなんだが、全体的に赤光晶の量が多いんだ」


 そういうことか。なるほどね。


「だったら、皆ラヴェルサの武器を改造して使えばいいんじゃないんすか?」

「使っても、結局自分の出力は変わんねえからなぁ」


 そういえばそうだった。手持ち武器だから想像力で動かす必要はないけど、どれだけ硬くできるかは元の武器と変わらないからな。自分の力を限界まで引きだして戦える武器だったら、変える必要がないか。


 でも理由は分からないけど、俺のエクトプラズムは聖王機を操れるほど強い。

 だから、こっちの方が破壊力が出るんだ。


 自分の努力で得た力じゃないから誇る気持ちにはならないけど。

 こんな世界だからな。

 生き延びる為、そして未来のために有効活用させてもらうことにするぜ。


 今回も一応ハンマーの輝きを隠すように処置はしっかりやっている。

 でも今度は遮光ガラスじゃなくて、傭兵団の猫マークを塗装してだ。

 にゃぜ?


「そういえば、今日は見張りの仕事じゃなかったのか?」

「そうだったんですけど、昨日ウチは結構儲けちゃったじゃないですか」

「それで他の連中に仕事を譲ってやったのか」

「まあ、そうらしいです」


 傭兵同士の助け合いってところだろうな。

 金がなく身の丈に合わない仕事を取ってくるなんて悲惨だからな。

 城壁警備の報酬はそんなに高くないんだけど、ないのとでは全然違うだろう。


「じゃあ、この後も見てくか?」

「いえ、昨日知り合った傭兵に剣を習いに行くんです」

「だったら、ルーベリオ教会の演習場にでも行きなさいよ」


 後ろから突然声をかけてきたのは、同じチームのリンダだった。

 当然彼女も今日はお休み。


「傭兵から教わるのなんてどうせ我流でしょ。せっかく変な癖がないんだから、ちゃんとしたとこで一から教わってきなさい」


 言ってることは正論に聞こえるけど命令形かよ。

 団長と副長がいないから話し方変わってるし、やっぱ年下の先輩はきついなぁ。


「いや、もう約束しちゃってるから」

「そんなの断ってきてあげるわよ。どうせ向こうだって社交辞令で言ってるでしょ」


 んな身もふたもないことを。

 今日は団長が忙しいっていうから、勇気出して自分でアポ取ったのに。


「教会で教われば、ちょ~~~~っとは副長みたいになれるかもね」

「そういや、カラルドの奴は教会の騎士を辞めてこっちにきたんだよな」


 へぇ~、そうなんだ。

 でも、なんだか余計に比べられそうな予感がするけどな。


「とにかく、さっさと強くなりなさいよね」

「りょ~かい」

「戦闘中に足を引っ張られのはごめんだからね。ほら、さっさと行く」


 そりゃごもっとも。リンダの言う通りにするとしよう。


 ってなわけで、現在、俺はルーベリオ教会の演習場にいる。

 一般人への指導も受け付けてるけど、流石に二日酔いで並ぶわけにはいかない。

 今日のところはおとなしく見学だけにする。


 それにしても教会か。


 別に思う所は無いし、特に何をされたとかじゃないけど。

 それでも、どこかで距離を置きたいと思ってるのも確かだ。

 まあ日本でも宗教は関わりがなかったし、わざわざ行く所じゃないからな。


 ルーベリオ教会は元々は世界的な宗教だったけど、赤光晶の発見以降はどんどん影響力は弱まっていった、と団長から聞いた。


 自分の意志で物を自由に動かすってのは、万能感を芽生えさせるのかもしれない。

 俺も最初は自分のことすげぇじゃんって思っちゃったし。

 徐々に神様の存在感が薄まってきたんだろう。




 数百年前に第一世代の機人が開発され、三百年以上前にラヴェルサの反乱が起きた。その力と物量により窮地に追い込まれた人類だが、突如として救世主が現れることになる。その少女が赤光晶に触れると、見たこともないほど眩い輝きを放ったという。それが初代聖女アレクサンドラだ。


 彼女はただの修道女だったが、戦う力を得て、聖女として祭り上げられ、教会の象徴となっていった。ラヴェルサと戦い続け、やがて世界に平和は取り戻されたが、彼女は戻ってこなかった。その時彼女は伝説になり、教会は再び権威を取り戻した。


 ってのが、だいたい三百年前の出来事で、教会が再び大きくなっていった経緯だそうだ。実際にはラヴェルサは滅んでないし、世界は平和でもないんだけど、その時よりはマシなんだろうか。


 住民たちから宗教っぽさは感じないけど、ルーベリオ教会への敬意みたいなものを感じる時はある。騎士たちへの態度がそうだ。彼らは決して上から目線じゃないし、堅苦しいけど威圧感はなかった。だからといって、お偉いさんがどうかは分からないけどな。


 演習場を二階から見下ろすと、結構な人数が集まって来ていた。リンダから話を聞いた時には町道場みたいなのかなと思ったけど、円形闘技場っぽい感じで本格的だ。結構広いし、賑わっていて数十人はいる。ただし、教わっているのは十代前半の若い連中が多い。


「こりゃ、なんだか場違いなところに来ちまったかな。でも、次からはちゃんとやらないとダメだよなぁ」


 操縦技術に直接関係あるわけじゃないけど、自分の生死に関係することだからな。  

 それに傭兵としての稼ぎにも影響してくるかも。


「次からなんて言わずに、今日から参加したら……うっ、剣星、お前酒の匂いが酷いな」


 軽鎧に身を包んだイオリが、鼻に手をやりながら寄ってきた。責められてる感じがするけど、初めて出会った時の目つきよりはマシだ。あれからまだ十日ちょいくらいか、随分久々に感じるな。それだけ濃い日々を送ってきたということかもしれない。


「聞いたぞ。あの新型はお前たちが回収してきたんだってな」

「まあね。そのおかげでこうして二日酔いになっちまったけどな。それよりイオリはここで何してるんだ?」


「ここは教会の演習場だ。騎士がいてもおかしくあるまい。まあ、実をいうと現場の騎士たちは少々喝を入れられてな」

「ふうん、そうなのか」


 実はこの話、団長から聞いていた。


 ルーベリオ教会が普段どんなことをしているのか。

 聖女が成長するまで、戦略的重要エリアをラヴェルサの脅威から守ることだ。


 そして俺が空から落ちたあの湖は、高純度の赤光晶で満たされており、聖王機にとって必要不可欠な場所だった。


 それなのにラヴェルサの侵入を許してしまった。

 それも聖女の滞在中に。


 という訳で、騎士たちは緩んだ綱紀を正すという名目で、己を鍛え直しているそうだ。


 団長は事態を甘く見ていた教会上層部の失態だと断言していたけどな。

 そのしわ寄せが現場に下りてきたということだろう。

 なんか俺が国境を越えちゃったことも影響してる気がするけど。


 まあ気のせいだろう。

 うん、そうに違いない。

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