第17話 傭兵デビュー!

 

 ラヴェルサの機人は全部で四機。

 こっちは三機だから、守ってるだけじゃ駄目だ。

 目的が護衛である以上、攻めて敵機の数を減らす必要がある。


「なんか剣星、性格変わってないですか?」

「ああいう奴は、たまにいるな。恐怖に打ち勝つために必死なんだろう」


 走りだした俺をよそに、団長とリンダは無線で会話を交わしている。

 でも、そんなんじゃないんだ。

 武者震い的な何かなんだ、きっと!


「(ケンセー、言われてるね~)」

「(まあ、仕方ないさ。それより戦闘中は静かにしててくれよ? じゃないと俺が女みたいな声を出してることになるからな)」


 衝撃を受けて、「キャッ」なんて言ってる自分を想像したら寒気がした。

 レトは基本浮いてるから大丈夫だと思うけど、急加速急停止は、やばいかもな。

 命と引き換えにするようなプライドでもないけど。


「ほらリンダ、アンタも行ってきな。新人に任せる気かい?」

「は~い、お仕事お仕事」


 無線を聞いて、ちょっとホッとした気がするけど、きっと気のせいだ。

 どっちにしろ、俺がやることは決まってる。


 ランスを前に構えて敵機に突っ込むのみ!


「どりゃ~!!」

「(いっけぇ!!)」


 俺の機人は硬い。

 そう、生意気なJKもどきよりも。

 だから、まずは突っ込んで敵を分散させる。

 なんかすげー撃たれてるけど、大丈夫なはず。


 いけるっ!


 ランスが当たると思った直前、敵機は左右に分かれて回避した。


「くそっ、闘牛士みたいに華麗に避けやがって」


 俺の苗字が牛田だからって、舐めてんのかよ。

 なるべく小回りにターンして向き直る。

 気を取り直してもう一回だ!


 って、あれはリンダ機か!!


「なに訳わかんないこと、言ってんの、よ!」


 リンダ機はラヴェルサが俺の方を向いた隙をついていた。

 六型の背後に一瞬で迫り、一振りで左腕を切断。

 すぐさま切り返してバラバラに切断していく。


 ラヴェルサ六型ってのは、聖王機に乗った時にも戦った機人だ。

 左腕にガトリングガンが仕込んであって、右腕にはダガーを装備している機人。

 霧の濃度によって脅威度が大きく変わると言われている。

 今のように霧が比較的薄い場所なら問題なく倒せる機人だ。


 それでも今の俺にとっては強敵に違いないだろう。

 リンダはそれをあっさりと倒した。


「すげぇ」

「剣星、来てるぞ!」


 団長の言葉に、我に返って前転。

 先程まで俺がいた場所は地面が大きく凹んでいる。


 やべぇ、つい不覚にも見とれちまった。

 ともあれ、これで三対三の戦いになった。


 団長が大きな鎌を持つ未確認機と対峙。

 リンダは先程倒したのと同じ六型。


 俺の相手は巨大なハンマーを両手で持っている十一型と呼ばれる機人だ。

 なんとなく幼馴染の純一君が思い浮かぶ数字だ。

 柔道が得意で強豪高校に行ったっきりになっちまった関係だけどな。

 でも今は思い出を懐かしんでる場合じゃない。

 アレをまともに喰らったら、さすがにやばそうだし。


「二人とも、コイツは新型だ。回収するから無傷で手に入れるよ。私が抑えておくんで、さっさと仕留めて応援よろしく!」

「了解!」


 助走距離を確保するために、一旦Kカスタムを後方に下がらせる。

 そしてランスを構えて、一直線に飛び出した。


 ラヴェルサ十一型はハンマーを振り上げて俺を叩き潰すつもりだろう。

 なら俺は攻撃されるより早く敵機を刺す。

 全速力でKカスタムを突撃させた。



 ……………………



 あれっ?

 なんかタイミング合わせられてる気がする。


「やっぱ、無理だぁ」


 直前になって、斜めに方向転換して回避を選択。


 ところが、俺の動きを見た十一型は、振り下ろしたハンマーを一旦停止。

 右腕一本で持ち直すと、即座にハンマーを地面と平行に持って薙いできた。


「そんなのアリかよ!」

「(ケンセー、しっかりしなさい!)」


 俺のKカスタムはハンマーに攻撃されて勢いよく吹っ飛んでいた。

 なんとかガードしたけど、ランスに凹みができている。

 速度が落ちてこの威力、やべぇな。


 こいつら人型だけど、人間じゃないから関節の可動域が全然違うんだ。

 なるほど。こりゃ強敵だ。少なくとも今の俺にとっては。

 近くにいたリンダは……


 もう倒し終わって、団長のフォローに行ってるやん!!


 さて、どうするか。

 ランスは凹んじゃったし、一人で倒さなくちゃならない。

 恥を忍んで援護要請するって手もあるけど、一対一で勝てないようじゃ傭兵として話にならねえ。


「よしっ!」


 俺は再びランスを構えて突撃した。


「また突っ込んで行っちゃいましたよ。大丈夫ですかね?」

「無策で同じ事を繰り返すほど馬鹿じゃないさ、多分ね」

「その通~り。問題ナッシィング!」


 十一型がさっきと同じように両手でハンマーを振り上げた。


 また攻撃を当ててやるってか。

 でも……


「俺の狙いは、そのハンマーだ!」


 衝突寸前、胴体に狙いを定めていたランスを上に向ける。

 そのままハンマーの側面に当てて、滑らせて軌道をずらした。

 その直後、衝撃音が辺りに響いた。


 でも命中したのは俺じゃなくて、地面だけどな!

 俺自身だったら振動でぐらついてたかもだけど、どっしりとしたこのKカスタムなら問題ねぇ。


 Kカスタムを十一型の腕と胴体の隙間入れると、勢いよく背負って投げた。

 自分では背負い投げなんて、絶対できない。

 体育の授業で純一君の動きをしっかり見てた成果だぜ。


 Kカスタムを自分じゃなくて、純一君と重ねてイメージしたんだ。

 アイツならこうするはずだってな!

 ありがとう!


「ラヴェルサを投げるなんて、初めて見たよ。なんて奴だい!」


 素早く起き上がり、ハンマーを蹴り飛ばす。

 背中を踏んで腕部を持って、そのまま強引に引きちぎる。

 戦闘はまだまだでも、パワーには自信があるんだ。

 よっしゃ、次は……


「剣星、そこまでだ」


 団長から突然無線が飛んてきた。


「リンダをそっちに向かわせた。解体は任せて剣星はこっちに来てくれ」

「了解っす」


 解体の仕方によって売値に差が出る。その為の交替だろう。

 勝利には違いないからいいや。


「はいはい、交替ですよ~って、汚ったないな~」


 ムッ。黙れ、小娘。


「これが男の戦いだ」

「副長はもっと華麗にやりますよ~っと。ほら、さっさと団長のとこに行ってくださ~い」


 正直最後まで自分でやりたいけど、俺とでは雲泥の差なので仕方ない。

 リンダに任せて団長の元に向かった。


「団長、お待たせしました」

「あいよ、剣星。後ろからコイツの気を引くだけでいい」

「了解です」


 俺に牽制しろって?

 俺がケンセイだけに。

 っと、あっぶね。口に出すところだったぜ。

 

 日本語のダジャレなんて意味不明だろうから、おもっきしスベルとこだった。

 つか俺、なんか変なテンションになってんな。




 それからの団長は凄かった。


 新型の鎌攻撃なんて全然当たる気がしないくらい軽やかな動きだった。

 なんというか、無駄な動きがないというか。

 相手の攻撃を完全に見極めてるような。

 多分、今までは相手の能力を分析してたんだと思う。


 俺達に動きを見せていたのかもしれない。

 リンダが戻ってきたところで、大鎌を弾いてあっという間に制圧完了。

 両手足をスパスパ切断していった。


 戦闘が終わると団長は、避難していた発掘屋に連絡。

 俺たちが倒したラヴェルサ四機を運んでもらえるように交渉した。

 運搬料金はパーツで支払い。

 その後、発掘屋は再び作業を再開。

 俺達に負けずと予定の時間まで粘って王都に戻った。


 戦闘があったばかりなのにすごいな。

 これがこの世界の日常なのかと実感したよ。




 ――――――――――――――――




「よう、ルクレツィア。ご苦労さん」


 王都に帰還した俺たちは、手続きを済ませると団長の顔見知りの傭兵団に出迎えられた。


 別に挨拶が目的じゃない。

 彼らは新型ラヴェルサを見に来たんだ。

 その証拠に、どこで噂を聞いたのか交流のない他の傭兵団の姿もちらほらある。


 回収した機人は売ってもいいし、パーツとして使ってもいい。

 ただし、新型機種だけはルーベリオ教会に献上すると決められている。

 これからはこの機種が敵として出てくるので、対応のために調べ尽くすらしい。


 なので傭兵たちは、教会に持ってかれる前に姿を見ようとやってきたわけ。

 なにしろ命を懸けて戦うのだから、事前に敵機の情報があるのとないのとでは全然違うよな。


 で、俺達ルクレツィア傭兵団の仲間も来ているのだけど、目的は他とはちょっと違ってるみたいで。


「リンダ、大丈夫だったか。コイツに変な事されなかったか?」


 コイツってのは俺のこと。

 この失礼な奴はリンダと同じく、団長の孤児院で育ったルシオという十七歳の男だ。


「べっつに~。初めてにしては上手く戦えてたし。最初の一撃でいけそうだったのにビビッて失敗したけど、踏み込みは良かったし、ちゃんとラヴェルサ倒してたよ」

「そ、そうか」


 ルシオは見ての通り、リンダに惚れている。

 べた惚れである。

 まあ面倒だけど、分かりやすい奴でもある。

 それにしてもリンダよ。

 なんだかんだ俺のことを心配して見てくれてたんだな。

 俺ポイントを贈呈してやろう。


 俺の同僚は若い連中が三人もいるけど、なんとなく彼らのことは見えてきている。主に飲みニケーション情報のおかげで。


 まず、リンダは副長のカラルドさんに惚れている。


 俺が傭兵団に加入したことで、暫定的だけどチームがはっきり分かれてしまい、結果として副長と会う機会が減ってしまった。その苛立ちを俺にぶつけてるようだ。


 ルシオもリンダと離れてしまったので、同じチームで唯一の男である俺を警戒しているのだろう。


 でもリンダは副長に惚れているので、そっけない態度をとられる脈なし男だ。うざいけど、ちょっと可哀想な男でもある。


 そして副長、ルシオと組むのが同じく孤児院組であるフォルカという男だ。


 物静かだけど、仲間とは普通に仲が良い。

 ところが俺に対してだけはちょっと違う。

 まあ出会ったばかりだから仕方ないとは思うんだけど。

 何故だかじっと見つめてくるんだ。

 ……友達になりたいのかな?


「何か用?」

「いえ、そういう訳では」


 ルシオのように敵視してくるわけでもないし、話しかければ普通に応えてくれる。

 何故か目を逸らしながら。

 そのうち仲良くなれたらとは思うけど。


 チーム分けは全て団長の指示によるものだ。

 俺だけじゃなく、若い連中を成長させるための組合せだそうだ。

 まあ、分かるけどさ。

 俺に対する当たりの強さだけはどうにかして欲しいね、ホント。


「おう坊主。お前も来い。新人視点の話も聞きてえからな」

「剣星、今日はこいつら奢りだ。しっかり食うんだよ」

「うす。ゴチになります!」


 新型の情報提供の代金が、今日の晩飯だ。俺も新型の動きを見てたしな。


 でもこの人たち全員酒強いんだよなぁ。

 明日は二日酔い決定だな、こりゃ。

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