第17話 壊されたコア

 「右!いや、左!」

 「あっ、こら、そこ危ない」

 「待って、行きすぎじゃない?」

 「えっ、後ろなに?」

 私が何きゃあきゃあ騒いだのかというと、ドラゴン探しの実況を見ているのだ。


 イヴァンがカメラの設置された運び用台車を二台出動して、ドラゴンと一緒に森で眠っているアンドロイドたちの回収作業を行う、ナウ。

 

 「静かにしてください」

 イヴァンが思わずため息を吐いた。


 「だって、緊張してるもん」

 前半の道はかなり暗いので、画面越しに台車の森探検を見ると、何となく一人称視点のホラゲーを遊んでいる気分になるのだ。

 次の瞬間ゾンビが出てくるみたいに、心臓が保たない——心臓がないけど。


 「緊張?わたしたちは画面越しですよ?」イヴァンはまるで理解できない。冷静に遠隔操作を続けている。そんな様子からして、一緒にホラゲーをする相手としてはさぞつまらないのだろう。でも肝試しの時にはほしいチームメイトだ。


 「あっ、あそこ!」

 しばらくして、遠方から地面に伏しているドラゴンの姿が映した。台車は無事に目的地に到着した。周りはその時と同じく無様な様子だ。スヤスヤ寝ているドラゴンを見たら、その時の悪戦また思い出した。


 全身ひどく溶けた今ミヨはまだイヴァンの作業部屋で修復待ちしていて、私は一時充電式の体に移動された。


 「1、2、3……」


 ロボットアームはアンドロイドを一人ずつ台車に載せてから、簡単に固定してもう一人をその上に載せた。かなり猟奇的な光景だ。


 「これは……、もう無理ですね。これ、うん……、無理か」

 現場にいるアンドロイドの大半はドラゴンとの戦い中にひどい損害を受けて、回収の必要がないとイヴァンが画面越しで判断した。

 

 最終的に、獣耳の子を加えて合計10人を回収した。


 「可哀想に……」残されたアンドロイドたちの周りには何だか物寂しい雰囲気と薄い哀愁が漂っている。

 イヴァンは特にそう感じていない様子。アカサが旧モデルの消滅譚を述べた時と同じ、淡々としている。


 ——アンドロイドの死について、どう思う?


 と何度も聞きそうになったが、やはり聞くのをやめた。答えを知るのがあまりにも怖いからだ。


 イヴァンはさすがに天下一のお茶好き、こんな時もティータイムを忘れず、右手で遠隔操作をしながら、左手でコップやお菓子を持ち上げた。

 代りに私が操作してもいいよと提案したら、イヴァンはただ鼻で軽く笑ってから、どうも、お気遣いなくと答えた。

 そんなに露骨に拒まれて、さすがに心外だなあ。

 何?私はそんなに信用できないの?確かに行く道は何かとうるさいけど、今は帰り道だから大丈夫。

 と弁明しても聞いてくれない。


 夕暮れすぎて、台車がやっとこっちに帰った。直接にアンドロイドたちを作業部屋に運べて任務完了した。遠隔操作を解除したら、作業部屋の一隅にじっとしている台車たちは救助犬のように可愛く見える。


 「どう?」アンドロイドたちを検査しているイヴァンに聞いた。

 「コアが壊れましたね」

 イヴァンは作業台の上にある機械でスキャンを行った後でそう言った。

 「コア?」

 「電池のようなパーツのことです。このコアは常にエネルギー満タンの状態のはずだが、今はエネルギーもないし、コアも完全に壊れました。これじゃエネルギーの補充もできません」

 「つまり……」

 「はい、恐らく今後も動くことがないでしょうね。残念です」とイヴァンは少しも残念じゃない顔で言った。


 「壊れたって溶けたの?焔のせいで?」

 「いいえ、ここにいるアンドロイドたちはみんな溶けた痕跡がないですね」

 「あっ、本当だ!」今気づけば、アンドロイドたちの外見は通常のまま、焼かれた痕がまったく残らなかった。

 「それじゃ、ドラゴンの仕業じゃないってこと?」

 でも、たとえドラゴンは直接の加害者でなくても、どう考えてもみんなは偶然ドラゴンのそばにわけがない。


 「他のアンドロイドの仕業の可能性は?」

 「それは考えにくいです」イヴァンは頭を振った。

 「コアが取り外された痕跡がないですから。つまり、コアは体内にある状態で壊されました。アンドロイドどころが、わたしの知った限り、このような技術は存在しません」

 このことはかなり難解そうで、イヴァンもしばらく考え込んでいる様子だ。


 「でも、この子のコアにはまだ少しエネルギーが残っています」

 イヴァンが獣耳の子のスキャンを見ながらケーブルをその子の頭に接続した。

 「よかった!」少なくとも、が生き残った。

 ドラゴンの周囲にいるアンドロイドたちのコアは壊されたが、少し遠いところにいるこの子はまだエネルギーが残っている?やはり推測通り、ドラゴンはこの事件の中心にいる。

 

 接続してから間もなく、子どもが目覚めた。目がキョロキョロと周りを見ていて、そして、ビックリしたように、私を指した。

 「ロボットだ!」

 と叫んだ。

 まるでここに来たばかりの自分を見ているような気分。

 ていうか、お前こそロボットだろう。喩えするのなら、お前は新卒、私は中途採用って感じ?

 「何でロボットいるの?」驚いた顔のあと、だんだんと笑顔を出した。興味津々に私を見ている。何となくこの子の話したことを理解した。ロボットがいるから驚いたというより、がいるから驚いたのだ。何せ、旧モデルのこの子でさえ作りは今の私より優れたのだから。

 「彼女はミヨ、わたしはイヴァンです。ここにいる人は全員アンドロイドです」

うわー、懐かしい。この対子ども用口調。

 「あんたもロボット?」

 「わたしはアンドロイドです」

 イヴァンは根気よくもう一回説明した。


 「僕はイナリン!」頭の狐耳を小さく動かしながら、子どもが自己紹介をした。よかった。会話が進んだ。もしロボットという単語がまた出たら、私激怒してしまうかも。

 「ねね、ミヨ様、イヴァン様、今日は何して遊ぼうか?」

 なるほど、確かにお子様のいる家庭専用のアンドロイドとその時アカサが言ったのね。でも……

 「あのさ、私、実は子ども苦手なの」と私がイヴァンの耳元で囁いた。

 「今日はミヨと一緒に遊びましょう」

 私の話を聞こえなかったはずがないのに、イヴァンがわざとそう言った。対子ども用の態度も用意周到だから気づかなかったが、これはもしかして、

 「イヴァンも子ども苦手なの?」


 ——あの天下のイヴァンが?!


 「これから今ミヨの修理作業に集中するので、持ち運べるエネルギーチャージャを持って外に行きなさい」とやはりイヴァンに無視された。

 「だから、私は子どもが無理ってば」私は引き続き小さい声で抗議した。

別に子どもが嫌いなわけではないが、接するのが大の苦手だ。昔、クラスの子供たちにいじめられたことで多少のトラウマが残ったのもあるが、主な原因はやはり子どもとの電波が合わないのだ。


 「そうだ!加賀美さんに頼めば……」

 「残念ながら、加賀美さんは用があって、しばらく不在ですから」とイヴァンがさも簡単に私の最後の希望を砕けた。

 「用があって?」

 「東1区の古本マーケットに行きました」

 加賀美さんはイヴァンのこの豪邸を管理するだけではなく、家にいる本の管理もしている。直感がない、選ぶのが苦労するイヴァンの代わりに、毎日読む本を選出するのが加賀美さんの重要な仕事の一つなのだ。

 いらない書籍の処分や新しい書籍の新調も任せされた。

 

 「結局イヴァンのためかよ?」

 「今のほうがいいですか?それとも今ミヨのほうがいいですか?」

くそ、イヴァンのヤツ。まさかの脅しか?今ミヨを人質にするなんて、やらしいぞ!

 「かしこまりました。イヴァン様、すぐこの子を外に連れていきます」心なしの笑顔をイヴァンに見せて、作業部屋から退出した。

 「ミヨ」とイヴァンが呼んだ。

 何かアドバイスをくれたのかなと思ったら、

 「子どもを動物に思えばいいのです。コミュニケーションを取ることなど到底無理ですから、気にすることがない」

 と、アドバイスか励みかわからないものをもらった。

 「イヴァン……」

 何かいいたいが、やめた。

 参ったなあ。どうやらイヴァンは本当に私より子どもが苦手なのだ。仕方がない。


 イナリンはもう先に庭に出ていったから、急いで彼の後ろに追っかけた。

 「ミヨ様、今日は何して遊ぼうか?」とまたイナリンに聞かれた。

 よく考えれば、子ども型のアンドロイドはベビーシッターの役割を果たすべきではなかろうか。なぜ逆に私が面倒を見なきゃいけないのだ。やはり、何百年前の情報だから、間違えることもあるということなのか?

 「じゃ、魔法をして遊ぼうか?」

 「魔法は何?」イナリンは少し首を傾げた。

 魔法は不思議な力だよという漠然とした説明方法もあるが、今の私はようやく口で説明することなく、直接見せることができるから、せっかくなので、早速一芸を披露した。

 私は青い光の糸を手から出して、魔力で作った犬形の幻影を人形のように操った。

イナリンは目を大きくして、すごく驚いた表情を表した。


 ——どうだ!これこそ魔法だよ!


 と私が自惚れに浸った時、

 

 「それ、僕の体の中にもあるんだ!」

 イナリンがとんでもないことを言った。

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