第6話 魔法使い探し

 車が住宅街に見えるところで止まった。イヴァンの車を含めて、少し31世紀はどのような時代なのかがわかってきたと思う。

 

 要するに、普通。

 

 サイバーパンク風の冷ややかなイメージとは裏腹に、ナチュラルで明るい雰囲気が漂っている。映画のような場面はもはや期待できない。


 町の中心部には一つ大きな公園がある。その周りに程よい高さのマンションが同心円を描くように建てられた。


 見える範囲で緑が充満している。屋上も、ベランダも、ビルの外壁も、生き生きとした植物に満たされている。その心地良さは悪くない。


 31世紀はユートピアという言葉より、楽園のほうが相応しいと、何となく思う。


 このどこまでも普通な景色において、唯一普通ではないのは、ここの住民たちだ。


 ——ヤバっ、何このミスコンの現場!?


 町で活動している人々はみんなイヴァンや今ミヨみたいな容姿をしている。要するに全員例外なく美男美女だ。

 

 今ミヨを本来の自分より何百倍より美しく発注した後ろめたさが今完全に消えた。今ミヨの外見に手加減しなくてよかったと思う。

 

 ありがとう、今ミヨ。


 「ありがとう、イヴァン」元ミヨじゃなく、今ミヨを選んだ私を阻止しなくて。


 「何か?」

 

 当然イヴァンは私の唐突な言葉の意味を汲み取ることができない。


 目の前の情景はどう見ても不自然だ。


 「何でみんなこうして平均値以上の外見をしてるの?もしかして、私が今見ている人々全員アンドロイドなの?」


 「確かにアンドロイドの方が多いけど、人間もいますよ。これは平均値以上かね。わたしには普通に見えますけど」イヴァンはいつものように、さりげなく残酷な言葉を落とした。


 はい、はい、わかったよ。みんなが平均値以上じゃなくて、元ミヨが平均値以下だ。ごめんなさい!


 どうやら31世紀の人々のDNAの中には絶対的な「美」が宿っている。

 

 700年を生きていれば理想な世界で生活できる言葉を撤回する。単に長生きだけではなく、美しさも必要だ。


 冗談を置いといて、イヴァンの町紹介も置いといて、私はこっそり魔法使いを探す計画を実行しはじめた。


 脳内のデータは昔のままだが、ロボットになってから、頭の仕組みは以前とは違うので、遠い昔の記憶でも一瞬拾い上げることができる。今の私はぶっちゃけスーパー防犯カメラだ。


 昔会った人々の顔、たとえただすれ違った程度の人でも、鮮明に脳内に刻まれている。私はその情報を使って魔法使いをあぶりだすつもりだ。前言った通り、魔法使いは長生きするのがうまい。


 つまり、もし見覚えのある人が31世紀に現れたら、その人が魔法使いの可能性が高いのだ。


 ここ最近イヴァンと魔法の話をしている時、ずっと気になったことがある。それは、イヴァンは本当に魔法のことについて、何も知らないのだ。


 確かに、魔法使いの存在は公にすることはない。とはいえ、裏ではかなり活躍していて、自らのコミュニティもちゃんとあるわけだ。

 

 もし今でも魔法使いが存在しているのなら、イヴァンと他のアンドロイドに気付かれないのは想像しがたい。その理由は簡単だ。31世紀は恐らくどの時代よりボロが出やすい時代だ。


 今の私も含めて、アンドロイドはみんな映像記憶を持っている。文字通り、私たちは一度見たことを忘れることがない。その上、情報収集の能力は人間より何倍も優れた。環境アラームシステムを加えて、周囲の異常な状況を察知しない可能性が低い。


 科学の発展が比較的に遅れた時代でさえも、たびたび異常な現象を目撃した人がいるのに、常にアンドロイドという歩く防犯カメラに囲まれた時代が一度も魔法を目撃することがないのはどう考えてもおかしい。


 魔法使いは本当にいないのか。それともみんなはこの時代なりの対策を練ったのか。私は現状を把握したいのだ。

 

 私は引き続き町をよく観察して、可能性の高い人がいないのかを探している。


 そんな時、


 ——類似性、98パーセントに、達しました。


と、が急に脳内に響いた。


 百メートルぐらいのところから、男二人がこっちに向かって歩いてくる。二人のうちに、黒い髪の方がターゲットだ。

 

 「林太郎はやしたろう先輩!?」その人をよく見たら、私は思わず声を発した。


 黒い髪の男はビックリして、少し戸惑った顔でこっちを見ている。

 

 「知り合いですか?」イヴァンともう一人の男がほぼ同時にそう聞いた。


 「たぶん……」「いや」と同時に私と黒い髪の男は真逆の答えを出した。


 「やはり君は31世紀の人ですね」イヴァンが愉快そうに言った。

 

 「そうじゃなくて、向こうが21世紀の人なんだよ!」私がすぐ反論した。


 「あの、確かに俺林太郎ですが、ハヤシタロウの方じゃなくて、リンタロウです。神田林太郎かんだりんたろうです」向こうがやや呆れた表情で人差し指で自分を指しながら自己紹介をした。


 ——人違い?


 いや、彼が嘘ついている可能性もある。


 「ごめん、林先輩とはあまり似ているので、つい……」一旦間違ったふりをして、様子を見てみよう。


 「ハハハ、よく家族に言われてますね。俺は別にそう思わないけど……」


 (いや、あんたの家族が間違いない。98パーセント似ていると私の脳が認証済みだから!)


 今私の脳内では、目の前にいるリンタロウの隣に、ハヤシタロウの写真が並んでいる。二人の顔が赤い枠によって囲まれて、98パーセント一致すると書いてある。


 「林太郎はやしたろうのこと、アカサにも言ったことあるよね。我々神田家の有名人」神田林太郎は隣の男に言った。


 「ああ……」相手は覚えているような、覚えていないようなすごく適当に返答した。


 神田林太郎はその反応をあまり気にしなくて、勝手に物語を語りはじめた。


 「太郎さんはね、35歳の時、レストランに発生したテロ攻撃を阻止したため、爆発寸前の爆弾を抱えて川に飛び込んで死んでしまったの。その犠牲でたくさんの命が救われました。本当のヒーローです」


 ——うっわー!とんでもないネタバレだ!!!先輩……R.I.P.


 「その爆弾は当時レストランにいた、とある昔の議員さんを狙っているらしい。当時のマスコミは何日もかけて太郎さんのことを報道しました」悲劇のわりには、述べた時の目がキラキラしすぎてちょっとアレなんだけど、本当にその事件に誇りを持っているようだ。


 「つまり、神田さんは林先輩の子孫ってことですか?」


 「そうです。うちは太郎さんの妹——神田レイコの家系です」

 この一連の話を聞いていて、どうやら嘘をついていないようだ。ということは、私が人違いの可能性の方が高い。


 まあ、それはそうだろう。


 そんなに運よくすぐ魔法使いを見つかったわけがない。ましてその人が自分の知り合いの可能性はさらに低い。


 「ところが、よく太郎さんのこと知ってますね?」神田林太郎は不審そうな眼差しで私を見たが、私からいうと、


 違和感を覚えたのが、遅い!


 「彼はバイト先の先輩です」


 林太郎は本屋でバイトしていた時の先輩の一人で、実際にあまり話したことがない。なぜすぐ思い出したのかというと、林先輩の顔立ちは31世紀レベルのものだから。


 神田林太郎を見てさらに確信した。林先輩は元ミヨとは違って、ここに立つ資格は十分ある。


 「バイト?」

 

 (ああ、そっか、仕事する必要がないからバイトのこと知らないんだ……)


 「まあ、昔の友達みたいな感じ?」


 「友達?太郎さんはものすご———く昔の人ですよ。もしかして別の林太郎さんと間違えた可能性は?」


 「ない」私は即答した。


 「うん……」新世代バージョンの林太郎はしばらく何を考えている様子で、次の瞬間大声で言い出した。


 「なるほど!21世紀から来た魔法使いの早苗ミヨですね!」


 ——!!?


 私はこっちの林太郎を知っていることはともかく、何でこっちの林太郎が私のことを知っているの?しかも今の私はもう元ミヨじゃなくて、今ミヨなのに。


 確かに21世紀の人を知っているって言ったげど、それで私を特定できるの?


 それとも……


 彼は本当に、林先輩——?!!!

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