第18話 創造

創造


想像したものを作り出せるのは人間の特権である。いや、想像という行為さえ人間の特権なのかもしれない。

人間は考えたものを作りだして、文明を築き、社会を作り、現代までこの星の生存競争のトップを走り続けている。

疑問に思ったことはないだろうか。何故人間は想像したものを作り出す能力があるのだろうかと。

思考は所詮思考、目に見えないものである。しかしそれを目に見える形に具現化させるというのは不思議ではないだろうか。


概念を物質に変換し、手で持ったり運んだりできるようになるのだから、人間とはすばらしい生き物だと我ながら感じる。

まるで思考を現実世界に引き寄せているような気がしてならない。

そう思うと、思考というものが現実を作り出しているといっても過言ではないのかもしれない。

心の持ちよう、心の在り方、考え方、思考の捉え方次第で人生をもっと面白くできるんじゃないか。うん、やっぱり人間っていいな!


10月27日 14時

チヨが日食の神託の読解の協力を初めてから、速いものでもう一週間が経過しようとしている。

あれからというものの、チヨはかなり長い時間を解読の方に費やしているということで、果たして勉強をする時間を確保できているのだろうか。

いや、もともと俺の敗北がこの現状を作った原因であるので、俺にとやかく言う資格はないのだろうが、それでもやはり仮にも保護者という立場である以上、気になってしまう。

次に獣が現れ、そこで俺が勝てばチヨは日々の生活に戻れるのだろうか。


読解の話だけではない。

この話を発展させるとしたら、果たして俺たちの今は日常なのだろうか。

日常とは当たり前のような日々を送ることにより構成されるものだ。

時に喜び、笑い。時には憂鬱になったり悲しんだり、泣いたり。

プラスの感情もマイナスの感情も人間の日々、日常を構成するには外せないものであろう。


しかし、今はどうだろうか。

確かにそれらの感情論で行けば日常というものは守られているだろう。

だがこの組織に来て、普段から行っている生活を少しでも乱されているということはすでに日常への侵害なのかもしれない。

けれど、それが後の未来の日常を維持するための布石なのだとしたらどうだろうか。

それは日常をこれ以上侵されないようにするチヨ自身の戦いと解釈するならば。


・・・・・・

まあ誠に身勝手ながらこんな感じで自分を納得させてしまう。先に行った通り、全部自分が勝てば何とかなる話だ。

そう言えば、何を以てあの獣たちに勝ったと言えるのだろうか。

化物たちであれば心臓を取り出して機能をすべて停止させる、いわば殺害ということで勝利とするものであった。

ならば獣たちも同じなのだろうか。

逆に考えると、獣側の勝利の条件とはいったい何なのだろうか。


もし仮に古代文明を破壊した時と今を同じものと仮定すると、何か目的があるはずだ。

人間を紫の力でジェル状にしたり化物にしたりと、やっていることがどれも同じで機械的で操作的だ。

人間も事件を起こしたり、殺害行為をするのには必ず動機が存在する。

行為が行われたから動機が発生するのではない。

何か行動を起こすことについて、俺は目的のために行い、理由なんてものは後付けであると思っている。


俺は戦っている。日常を守るために。日常を守るから戦うのではない。

何々のためにこうするが目的であり、何々だからこうしたのが理由である。

目的は未来に向けてのものであり、理由は過去のものである。

その点で言うと獣側は目的があるから行動しているのかもしれない。

機械的だけど、どこか人為的で作為的な何かがそこにはあるのではないだろうか。

政府に関することだってそうだ。何故あのタイミングで紫陽花病の公表に踏み切ったのだろうか。

あれこそ本当に何かの力が働いたとしか思えてならない。


「で。どうだろうかみんな?」

俺は一通り考えたことをみんなに話す。


「アルト」

飛月が手を挙げる。


「なんだ、飛月。話が難しかったか?」


「いや、それはいいんだけど。話が長いしグダってる」

マジかよ!あんなに考えてきたのに!


「確かに長いな」


「ああ、長い」

そんな・・・・・・旦那と五代まで。

俺は今、旦那と長倉さんを含めた戦闘員たちと会議室で現状の確認と各々の考えを言う時間だった。

確かに要点は抑えたはずなんだけどな。


「だが、言いたいことはわかった。もしかすると獣側にも目的があり、それがどこか人為的なものだと思ったということだな」


「まあ、そういうことだよ、旦那」


「だが、人為的か。となるとやはり気になるな」

五代が顎を手で押さえながらつぶやく。


「やっぱり、政府の公表のことか?なんか俺も知っているような気がするんだよな。何かを」


「けどさ、アルト。人為的なのは可能性としてあるだけで目的となるとどういったことなのだろうか。やっぱり人を紫の力でどうこうするってのが目的なのか」

飛月が頬杖をしながら俺に疑問を問いかけてくる。


「うーん。どうなんだろうな」

正直思い浮かばない。何故あんなことをするのだろうか。

そして紫の力って一体何なのだろうか。


「みんな、俺も一つ思ったことがある」


「お、旦那。何を思いついたんだ?」


「ああ。目的のことなのだが話に聞いた限りだと化物は紫色にジェル状になった人々を食べていた。そしてその化物を獣は食らっていた。

つまり、その捕食活動の連鎖に何か意味があるんじゃないか?それらをすることによって成される目的があるかもしれない」

そうか!あの捕食活動そのものに意味があるのか!

捕食するために人を紫のジェル状にする。その化物を食らうために獣は現れる。

確かに合点がいく。


「なるほど、獣の目的はなんとなくですが見えてきました。ですが、そこに人為的な何かを含めるとすると、その獣の捕食以上の目的があるんじゃないでしょうか。

この場合だとジェル状の人々を食べることが第一の目的。第二にその化物を獣が食べる。そのうえでの第三の目的があるのではないでしょうか」

長倉さんが旦那の話を組み合わせて一通りまとめてくれた。


「そうなると、第一の目的はアルトが虹色のオーラのようなものを変化しながら出すとジェル状の人々は浄化されて消えるから潰せる。第二の目的は戦闘員が化物を討伐するとして・・・・・・そう考えると、第三の目的は不明だけど、獣をどうにかすれば第三の目的は果たせなくなるな。もし人為的なものがあると仮定すればの話だが」


「五代の言うとおりだな。どちらにせよ獣が出現すればまた紫の鱗粉は周囲にまかれ、連鎖が始まる。そこから絶たねばなるまい。そうなると根本的な問題である第一の目的までのプロセスが完成してしまう。それに、町を巻き込むとなると被害の拡大。

それに抑止の力の存在を世間に知らしめてしまう。よその国とは今のところ連絡がつかんが、そんなものが龍之国にいると知られてしまえば世界の戦力の均衡が崩れ、世界中がこの国を狙ってくる可能性がある。どうにかできないものか・・・・・・」


旦那が腕を組みながら考える。

外国とは連絡がつかないが、滅亡したかどうかは今のところわからない。

全てが仮定の話に過ぎないものである。

だけど、万が一に存続し生き残っていた場合、俺の存在が知られれば間違いなく俺の力をめぐっての戦争になる。

旦那は戦争経験者だ。そういった話には敏感だし、詳しい。

だから何とか俺の存在と抑止の力のことは隠し通したいようだ。


「戦う場所さえ違えばなあ。宇宙に行って戦うか?」


「いや、無謀すぎるだろアルト。万が一宇宙で負けて人間の姿に戻って落下してみろ。地上に落ちてくる前に燃え尽きてるぞ」

それもそうだよな・・・・・・どうしたもんか。

何か戦うための場所があればいいけど・・・・・・

そういえば、俺の持っている力は基本的に俺が想像したことを実際に現実世界に反映させてきている。もしかしたら・・・・・・


「金色の力は俺の望んだとおりのことを今まで引き起こしてきた。無重力にせよ、化物の弱点を見抜いたり、シールドを張ったり。どうしてか下心を持った行動には応えてくれないけど、この力は俺の望んだとおりのことをしてくれる。なら、作れるかもしれない。俺と獣が戦うだけの空間。鱗粉もばらまかせず、町や住んでいる人にも被害が出ない空間が」


「なんだと!」

旦那が絶句する。


「空間の生成。多くのエネルギーが持っていかれそうだな。作ったのはいいとしてエネルギーがなければ戦えないだろう」

飛月が俺の案に忠告する。


「す、すごい考えだが一つ問題がある。前に一緒に考えたことを思い出してくれ。アルト、お前は戦っている最中のことを覚えていないのだろう?」

旦那の言葉に、え!?覚えていないの!?と言わんばかりの驚きの反応が五代や長倉さんから聞こえる。


「前に仮定を立てたが、適合率が低いアルトは金の力を最大限生かすことが恐らくできない。しかし本来敗北すればエネルギーを使い果たし、死亡するかもしれない状況で生き残った。それはエネルギー不足による死を何者かが肩代わりしていた可能性、つまりアルトの生命エネルギーではなくコード:ファーストのエネルギーの大部分を吸収した為、アルトが生存できたのかもしれない。

それはアルトとは違う別の意志が含まれている。それを如何に排除し、戦うのか。それにたとえ適合率が上がり、強くなったとしても敵の戦闘力は依然として不明のままだ。万が一にでも敗北したらもう助からないかもしれないぞ」


「そっか・・・・・・」

刹那、俺たちに戦慄が走る。本部内に響き渡る警報音。

背筋がゾッとする。あまり聞きたくない音だ。しかしいろんな場所で使われているであろう警報の音だ。変更はしない方がいいし、いい感じに緊張感も持てるのも事実である。

そんなことを考えながら、俺たちは会議室から出て急いで作戦室へ向かうのだった。


「本部より北へ57キロ先で紫の反応を確認、加えて大きな磁場の狂いが見受けられます!」


「近くに民間人は!?」


「確認できません!またしても山の中です!ですが15キロほど北東へ行くと港町があります!」


「化物が出る可能性がある。戦闘員は総員、出撃の準備を!」


「「「了解!!!」」」


「アルト!」


「なんだ、旦那!?」

俺は出撃前に旦那に呼び止められた。


「できる限り化物との戦闘は避けろ。だからと言って二人に押し付けるのではなく、できる限り逃走し、獣との戦いにエネルギーを使えるように温存しておいてくれ」


「了解!」

俺は頷き、本部を後にした。


15時過ぎ

現場では、すでに霧が発生し森が紫の炎で焼かれ始めている。

しかし、今のところ前回よりも被害が少なく、化物の姿も確認できていない。

本部から消火用の水を汲んだ特殊な航空機もやってきて、消火を行ったがどうやら水ではこの紫の炎は消せないようだ。


「じゃあ、行くしかないな!」

俺は片方の拳をもう片方の手の平で握りしめて気合を入れる。


『毎度のことながら、お前にはとてつもない負担をかけてしまう。すまない、アルト!』


「気にすんなって。最近謝ってばっかじゃん。俺は俺のできることをやる。旦那は旦那にしかできない事をやる。それでいいじゃないか」


『ッ・・・・・・』

俺は飛月と五代の方へ振り向く。


「二人とも、そういえば俺が変化する時の光ってまぶしくないの?」


「私は大丈夫だ。むしろどこか穏やかな気持ちになるぞ」


「俺にはまぶしいかな、キラキラしすぎていて目がつぶれそうだ」

どうやら人によって光の見え方は様々なようだ。

多種多様、十人十色。結構な事じゃないか。

そういう細かい違いがわかるのも、生きているおかげだ。

生きていなければ意味をなさない。

そんでもって、ちゃんと人と人が話せるような空間を守っていかないとな。


「んじゃ!行きますか!」

俺は右腕に金色の力を具現化させる。

そうすると、勝手に胸の真ん中に金色の龍玉が現れる。

余計なことは考えずにただただ願い、想う。次第に俺の耳と周囲に笛の優しい音色が響き渡る。


「輝きやがれ!シュラバァァァァァァァァ!!!!!!!!」


俺は虹色の光に包まれていった。


周囲は虹色のオーラで溢れかえる。

その虹色の光が薄くなるにつれ、金色の光の柱が天を貫かんとするばかりに立ち上がる。

その光の柱は見る人々を圧倒し、どこか奇跡や神を思わせる。

その金の光の柱が無くなると、そこには黄金と銅の身体を持ち、左腕を深紅に染め上げた巨人がいた。

巨人は焼け残りがないかの確認をするために周囲を見渡す。


「アルト!」

飛月が彼の名前を呼ぶ。彼には勿論届いている。


「大丈夫だ!焼け残りはない!今のところ通信も安定してる!化物の出現した形跡が見られない!」

巨人は頷く。飛月の声に反応するように。

しかし、安心したのもつかの間。

森の中から、いやこの周辺一帯にラッパの音が吹き荒れる。

人間の聴覚に狂いをもたらすような君の悪い音色。

人々を恐怖の底に陥れようとする悪そのものが顕現しようとしている。

森がある位置の空間が歪み、ひびが入る。次第にそれは大きくなり、空間が割れる。


そこから現れたのは、以前巨人と戦った蝿の頭をした獣だった。

三つあった頭は真ん中が欠けたままで左右の二つだけだ。前回での戦いのダメージが、まだ蓄積されたままなのだろう。

しかし、それは周囲に紫の鱗粉をばらまき、空を暗闇に染めながら現れたそれは、地上に舞い降りてきた悪魔だ。

周囲の紫の鱗粉が波のごとく周囲に拡散する。世界を飲み込んでいく。空も次第に闇の一色へとなっていく。


・・・・・・巨人は覚悟を決める。

この場にいる人々を守るために。それで且つこの獣を討ち果たすために。

巨人になった青年は、一瞬、死を覚悟した。

しかし、死にそうなぐらい頑張ることは美徳ではない。

青年は恩人から後に家族になる子を守ったときに言われた言葉を思い出す。


『いいか!アルト!君がやったことは確かにすごくて素晴らしいことだ。人の命を救ったのだから。だが、それでも僕は心の底から君を称賛することはできない!君は自分の命を投げ出してしまった。それは勇敢な事だとみんなはいうかもしれないけど、僕は自分の命を捨ててもいいと思ってしまった君に悲しく思ってしまったよ。

死して尚、称賛される人々は多いけど、死んでしまってはその人は、何も浮かばれないんだ。そして残された人は悲しいだけなんだ。・・・・・・ぼくは嫌だ。もうこれ以上失うのも、失わせてしまうのも・・・・・・だからどうか、こんな無茶は二度としないでくれ』

・・・・・・


(ごめん、繋一さん。俺、やっぱり何を以て人間で在るのか、まだよくわからないや。俺が死んだら、悲しむ人は間違いなく多いし、チヨを一人にしてしまうかもしれない。

だけど、今俺にできることは!ここにいる人も、すべてを守ってみんなが楽しい日常を送れるようにする

ことだ!そして俺は生きる!生きてみんなとまた日々を過ごすんだ!)


青年はかろうじて残っていた意識の中、再び覚悟を決めた。いや、腹を括ったのだ。

死ではなく、大いなる目的のために。

日常を守る。皆を守る。それが彼の守りたいものだ。

そのために自分の命を捨てるのではなく、生き残る勇気さえも持って立ち向かおうとしている。

そうか。なら・・・・・・彼のその願いに応えるだけだ・・・・・・


瞬間、巨人の胸の龍玉が赤く光る。


「な、なんだ!?」

赤い光は、巨人の大きな体と周囲を染め上げる!

その色は本来、青年が持っていた魂の色。

金色と溶け合い、今この瞬間!一つに交わり合った!

赤い光は晴れ、巨人のシルエットがはっきり地上の人たちに移る。


「す、姿が・・・・・・違う」

その巨人の体のボディーから、銅色が消失し、赤いラインが血液が流れるかのように、脈を打つようになぞられている。

かつて赤く人の形を維持していた左腕は、右腕と同じような金色の鎧のような見た目になり、両腕共に赤い線がそこにはあった。

真っ赤に燃えるような目の中に、黄金の瞳がぎらついている。


そして、胸の龍玉は二つの色に分けられていた。

右側が金色で、左側が金色の陰陽太極図のような形をしていて、暗闇に関わらず光沢で輝いている。

獣が赤い光に少し戸惑いのようなものを見せながらも巨人に突進を繰り出してくる。

しかし、その突進が届く前に巨人の龍玉が虹色に輝きだす。

そして巨人は胸を両手で抑え込む。その虹色の輝きは両手に流れ込み、巨人は両腕を高く空に掲げた。

その虹色の光は天まで届き、変化する時とは比べ物にならないほど周囲をオーラで包み込んだ。


「な、なんだったんだあの光は?」

私、五代はアルトの赤い光に驚き、身体の変化に驚愕し、虹色の輝きに圧倒され目を瞑っていた。

その光が晴れて目を開けると、そこにはアルトと獣はいなかった。


「ひ、飛月!アルトがいない!」

飛月も目を開けて周りを見渡す。


「本当だ!いない。嫌、それだけじゃない!空が・・・・・・」

私は暗闇の空を見た。

嫌、さっきまで暗闇になっていた空を見上げた。

人を恐怖させるほどに暗く染まりあがった空は今はそこにはなく・・・・・・

まだ15時過ぎだというのに、少しだけ夕焼けの色に染まっている。


「本当に何が起こっているんだ?」


『五代!飛月!聞こえるか!?』

イヤフォン越しに龍治のこえが聞こえてくる。


「龍治!?アルトが突然消えてしまった!」


『ああ、俺もわかっている。すぐに俺の直感にも異変が起こったことは感知できた。どうやら無理やり適合率を上げたようだな。危険すぎる。だが、これしか方法はないのか・・・・・・』

龍治の思い悩む声が耳に入ってくる。


「それで、龍治さん。アルトは今どこにいるかわかりますか?一緒に来ていた映像送信用のドローンが消えています」

飛月が自分の頭上を見渡す。


「ああ、それなんだが。どうやらアルトは作ったようだ」


「作ったって何を?」

私はなんとなくわかっていながら、確認と確信を得たくて龍治に質問した。


「誰にも被害が出ることなく。何も壊すこともなく。誰にも見られることのない。ある種の異空間だ」


巨人は君臨する。自分の作り上げた世界に。

そこは崩れた街が在った。燃える街が在った。空さえ燃えるような美しい夕日もそこにはあった。

ほんの少しだけ夜に染まる橙の空は巨人の黄金の体を照らす。

獣は撤退を図ろうと、自分の周辺に炎を吐き散らかす。穴をあけようとしているのだろうがその程度ではこの世界は破壊できないようだ。


巨人がすきをついて獣に飛び蹴りを食らわせる!

獣がその勢いで地面に転がる。

巨人は跳びあがり、獣の尻尾を掴み振り回し、豪快にハンマー投げのように獣を投げ飛ばす。

獣から、悲鳴のようなものが上がる。


しかし、巨人は畳みかけるかのように尻尾を掴み、地面にたたきつける。

獣がたたきつけられた衝撃で痙攣をおこしている。

巨人の攻撃は終わらない。巨人は後ろに跳び、角を両手の甲でゆっくりなぞり上げる。

すると巨人の手には赤い光が現れた。角も手の光と同様に深い赤色に染まる。

巨人は角の先端まで手をやると手を腰の周りに拳のまま下ろし腕を肘から後ろに引いて中腰になる。

獣が起き上がり、二つの喉が橙色に輝く。


そして、灼熱の火炎を巨人に向かって吐き出した。

巨人は赤く輝く光線を獣に向かって放出した。

両者は打ち合いにならず、一方的に巨人の放出した光線が獣の炎をかき消していく。

巨人の光線は獣を吹っ飛ばした。そして、獣は動かなくなった。


「す、すごい」

長倉がドローン越しに移った戦いを見て驚愕する。

正直言って、ここまでの強さとは。抑止力、いやアルトの力か。

何故コード:ファーストがアルトを選んだのかがわかった気がする。

あの覚悟と勇気。

それがなければこの姿にはなれていないだろう。


巨人は光線を放ち終わり、肩で息をしていた。

力強く脈を打ちながら赤く光っていたボディのラインが、次第にその輝きを失い始めている。

巨人は見つめる。自分が倒した獣を。その獣は倒された。本当に倒されたのだ。


・・・・・・3つ目の命がなければの話だが。

巨人は急に動き出した獣を見て再び構える。

瞬間、獣の姿が変形した!子どもが遊び転がすような粘土のように球体になっていく!

その姿はまるで細胞そのものの変化。グニャグニャと形を変えていっている!


そして変形が終わり、その全貌が明らかとなった。

強力な突進を放っていた四足は人間のような二足に成りかわった。腕は四足の頃よりも太くなり、鋭利な爪は虎を連想させる。

顔は一つだけになり、動きが完全に蝿のようになっている。だが、その顔の牙は依然として変わらない。

巨人は獣に向かって走り、その身体を掴もうとした。


だが、獣に腕を掴まれて投げ飛ばされてしまう。

巨人から、痛みの声が上がる。

巨人は踏ん張って立ったが、獣は蝿の翅を背中から生やし巨人にとびかかった。

その突進は巨人を後方に飛ばし、大きな砂埃が周囲に発生した。

巨人は獣に覆いかぶさられ、腕で殴られる。

巨人が抵抗するが獣の方が力が強いのか、押し返すことができない。

何とか足で後方へ蹴り飛ばすもすぐに獣は立ち上がる。

巨人の体の赤い光が消えるまであと少し。


この光が消えてしまったら、シュラバとなった青年の命は尽きてしまう。

巨人はふらふらになりながらも立ち上がり、構えようとする。


だが、獣が口から出した長い舌で巨人の首を絞めた。

巨人はもだえ苦しむ。

自身の死が迫っていることに恐怖する。

獣は別の舌でまたしても巨人の龍玉に触れてエネルギーを吸い取ろうとする。

黄金の光が徐々に獣の方へ流れていく。

巨人が苦しみからなのか声を上げる。


今にも光が消えてしまいそうなその身体から、激しく乱れたような笛の音が響き渡る!

身体が伝えているのだ、残りの命が少ないと!


「・・・・・・!」


巨人は左腕に赤い光を纏わせて、のどに絡み着いた舌を切り裂いた。

舌から紫色の血しぶきが上がり、獣が倒れこんだ。

龍玉からエネルギーを吸い取っていた舌も右腕に貯めたエネルギーの線を出して切り取ってしまう。

・・・・・・獣が完全に動かなくなった。

巨人は先ほどと同じ構えをして、赤い光線を身動き一つしない獣に放つ。

獣はその光線を食らって、赤い輝きと共に音もなく消え去った。


「・・・・・・勝ったのか?」


俺は本部の映像を見ながらその戦闘に唖然とする。

本部中が静まり返っている。


「や・・・・・・」

だれかの声が聞こえる。


「「「やった!!!!!!!!」」」

本部中がその映像を見て喜びのあまり叫んでいる。

勝ったのだ!アルトがやってくれた!

アルトがふらふらした体を頑張って立たせてドローンに視線を向けた。

そして彼はカメラに向けて勝利のサムズアップを俺たちに見せてくれた。

本部内がさらに歓喜に包まれる。


凄い奴だ。凄すぎるぞ、アルト・・・・・・

だけど、同時に彼に対して何かやってやれないかと模索してしまい、素直に喜べない自分もいた。

俺は・・・・・・彼にすべての負担を背負わせてはいないだろうか?



解読が終了し、内容の公開が可能と審査された神託


1,人、あまりにも勝手すぎる行いで、星、泣いているぞ。悲しんでいるぞ。星、人々を敵として定めたくないぞ。行いを振り返れ。さもないと、この世は楽園から地獄と化するぞ。


2,悪神、攻めてくるぞ。大きなラッパの音と共に攻めてくるぞ。悪神と共に蛇も来るぞ。色を持つ者よ、抑止の力を持つ者よ。どうか対応してくれ。食われてくれるな。


3,星、太古の時代から狙われているぞ。よう周りを見ておけ。食われる人多いぞ。恐怖に駆られすぎるなよ。食われるものは身体とは限らないぞ。心も食われるぞ。


4,人は星にとって資源だぞ。資源は資源らしくしておけよ。あまり自分第一になるなよ。痛い目見るぞ。


5,目を澄ましてものを見ろ。疑問に思ったことは素直に受け止めておけよ。批判怖いぞ。迫害怖いぞ。けれど自分の素直な気持ちは、光を生きていく上で重要だぞ。


6,蛇やってくるぞ。三度(みたび)星、食われるぞ。星、抑止を解放するも苦戦するぞ。人、互いに争い合っている場合ではないぞ。防いでくれよ。


7,あまり物事に振りまわされるなよ。嘘は災いを呼ぶぞ。


8,疑問は食われないためには確かに重要だぞ。しかし、疑い過ぎるな。疑いが過ぎる者は心の暗きところに邪が来るぞ。邪、自分も周りも苦しめるぞ。身も心も周りも見えなくなるぞ。


9,烏の動きに注目せよ。


10,赤、人々に力を与えるぞ。赤は命の源ぞ。血であるぞ。穢してくれるなよ。


11,橙、人々に暖かさをくれるぞ。いろんなものを創り出すぞ。大事にしろよ。寒いと人、身も心も参ってしまうぞ。物がないと人、生きにくいぞ。


12,黄、人々に光を与えるぞ、土台であるぞ。目を大事にしろよ。足を大事にしろよ。暗き道は蛇の道だぞ。気を付けろよ。


13,緑、人々に癒しを与えるぞ。自然は物質だぞ。癒され、癒してくれよ。


14,青、この星にいないぞ。悲しいぞ。青は心だぞ。精神だぞ。身体と心を繋いでくれるぞ。帰ってきたら丁寧にしてくれよ。


15,紫、人々に   を与えるぞ。人、これを呪いと言わないでくれ。乗り越えてくれ。物事の負の側面を見がちなのは人間、みな同じだぞ。意識、目覚めるときが来たぞ。  

を切り替えるときが来たぞ。

獣に堕ちた人、悪いがやり直しだぞ。負の心が表すものがその自分の身体だぞ。紫に侵されなかった光よ、どうか彼らを導いてくれ。

(空白箇所、解読不可能)


16,閲覧不可 八咫烏閲覧済み


17,閲覧不可 八咫烏閲覧済み


18,金、信仰せよ。しかし宗教にはするな。信仰と宗教は異なるものだぞ。金、星の抑止だぞ。支えてやってくれ。(ここから下の文章、解読不可)


19、解読不可能


20,色、人を構成するものだぞ。人を構成するのは骨や肉だけではないぞ。魂もだぞ。魂の本質、見抜いてくれ。


21,急いでくれ。色の特徴を見抜かないと、後に辛くなるぞ。




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